第3話 破壊シーンだオラァ!!

 ――まさか、あんな事になるなんて思わなかったです。


「黒木先輩!! 大丈夫ですか!! 黒木先輩!!」

「……駄目だわ、完全に……」


 特殊撮影という仕事が、こんなにも危険だったとは……。

 



 ===




 ここは地元で有名なおもちゃショップ。トラン〇フォー〇ーやガ〇プ〇はもちろん戦艦や戦車、そして戦闘機のラジコンなどが置かれている店です。

 そんな中に、私達は足を踏み入れました。


「ん? やぁ、いらっしゃ――」

「この店の戦闘機と戦車と戦艦のラジコンを全部」

「一種類ずつもらおうか!」


 ふくよかな男性店長さんに、ジョジョポーズで注文する芹沢先輩と黒木先輩。もちろん芹沢先輩はあのゴメラの被り物をした半裸姿です。

 こんなので驚かない人はいますでしょうか? いませんよね。現に店長さんが荒木先生のようなこゆい驚愕の顔をしてますし。


 私はどうかって? オカシナさんと一緒に白い目で見ています。


「この店の兵器をか!? 貴様達正気か!?」

「他の品は残す。私達の指導の下に、新しい特撮を作り上げるのだ!!」

「特撮に魅入られた俺達が、店から兵器ラジコンを買い漁っても、決して悪いと思わんがね」


 何言ってんのか分かりませんよ、二人とも。

 それにしても店長さんは未だ濃ゆい顔で黙ってますし、これはマズいじゃないんでしょうか?

 この店のラジコンを一種類ずつだけとは言え、全部買い漁るなんて。


「兵器ラジコンの買い取りを……許可する!!」


 承認しちゃったよ!

 まぁ、という訳で私達は多くのラジコンを買いました。結構な数だったので、芹沢先輩が農家の方から借りたという荷車を使って運んでいったのです。

 それで着いた場所が東宝高校。今は下校時間である夕方なんですが、芹沢先輩が先生に頼み込んで一泊する許可をもらったんです。


「「「「オカエリナサアアアアアアアアアイイイ!!」」」」


 学校に帰ると、『レッドキングの擬人化隊』ことラグビー部員の方々が出迎えてくれました。

 どうも彼らも合宿目的で寝泊まりするようですが、それに目を付けた芹沢先輩がかき集めたそうです。これから行う仕事の為に。


「ではラグビー部はラジコンの練習。私達は『ナパーム』や火薬の準備をするわ」


『ジャゴソル』は実際に自衛隊の兵器と怪獣の戦いを描きます。その為には兵器ラジコンが必要だった訳です。

 ちなみに怪獣映画は自衛隊から拝借した本物を使う場合がありますが、何とシン・ゴメラはほとんどCGという事です(芹沢先輩談。一応本物もなくはないらしいですけど)。それを聞くまで本物と思いましたよ。

 さすがあの国民的アニメの『エババー』の監督が作った事はありますよ。あっ、エババーとはその監督のアニメですはい。


「ナパームは危ないからね。だから小高さんは黒木君と一緒に『グリーンバック』を用意しなさい」

「あっ、はい」


 今、私達はナパームの準備に取り掛かっています。

 ナパームとはビニールに入れたガソリンの事で、それに火を付けて爆発するそうです。危ないです、ちょー危ないです。

 これをグリーンバックという緑色の幕を背に爆発するそうですが、それって意味あるんでしょうかね? まぁ、私と黒木先輩は言われた通り、通販で買ったグリーンバックを広げます。


「もっと……もっと入れますよすさぁ……もっと」

「ん……もういっぱいよ……」

「我慢して下さいあっその辺でこれ以上入れると破裂するので」

「んん!! もう入らないわあああ!!」


 な、何この嬌声は!? ってビニール袋にガソリン入れてるだけですか!! 


「もう変な声出さないで下さいよ!!」

「だって……ん!! ガソリン入れるのって大変なのよ……あああんん!!」

「関係ないでしょうが!!」


 何か突っ込み役になっているような気がしますね、はい。


「さてと、この辺でいいかしら。小高さん達、離れていて」


 芹沢先輩がそう言うので、 私達はグリーンバックから離れました。

 それで先輩達がさっきまで私達がいた場所にナパームと電線付きの火薬を設置。すぐに離れていきました。


「爆弾を設置しました」

「よし、点火」


 電線の先にあるのは、黒木先輩が用意した点火装置。そのスイッチを押すと、大☆爆☆発。

 グリーンバックに燃え移らないかと心配してしまうの程の大きい火。熱気がこっちまで来るので、私は無言でビックリしました。


「「「「キャアアアアアアアアア!!」」」」


 ラグビー部員さん達が驚いてどうするんですか!! というか可愛い悲鳴だ!?


「撮影完了念の為にもう一回」

「分かっているわ」


 いつの間にか右手にカメラを、左手にノートパソコンを持っているオカシナさん。重くないでしょうか?

 それよりも爆発を撮影をして何をしたいのでしょうか?


「これは爆発を撮影して攻防シーンに合成する為ですグリーンバックは合成に必要な物なのでこうやって合成した炎を切り取り街に投影するのです」

「はぁ、だからグリーンバックが必要なんですね」


 なるほど、何となく原理は分かりやすいです。

 グリーンバックで切り取った炎を街に置くって感じですね。これってアニメのCGにも同じ事が言えるような気がしますね。


「さて、次は建物に火薬を設置するわよ」

「えっ? 炎を作ったのにですか?」

「破壊描写の為よ。破壊シーンがない怪獣映画はただの怪獣映画よ」


 えっ? それじゃあ変わっていませんよね?

 まぁ、シン・ゴメラにも崩れ落ちるビルとかありましたからね。それでゴメラを倒れさせて、口の中にお薬を放り込みましたね。

 まぁ、私達は石膏勢のビルに火薬を仕込んでいきます。まるで爆破処理担当みたいで、何かかっこいい感じがしますね。


 しかし私はこの時まで気付きませんでした。特殊撮影には孕んでいた事に……。


「よし、黒木君、ジャゴソルを着て。これから撮影シーンを開始するわ」

「「「「こちらもOKでええええええすうううう!!」」」」


 複数の叫びを挙げるのは、戦闘機と戦車を巧みに操っているラグビー部。いつの間にかマスターしたんですね。

 さて、今は夜空。攻防シーンは夜に行われるので、まさに絶好のチャンスですね。


「変☆身☆完☆了☆」


 ノリノリだ、黒木先輩!?


 まぁ、これでセットにジャゴソルが入ります。こうして見ると、本当に街に怪獣が現れているみたいですね。

 私とオカシナ先輩はカメラ担当。それでもちろん監督は芹沢先輩。そんな訳でその人はカチンコを持って、カメラの前に置きました。


「では攻防シーン……よーいアクション!!」


 撮影開始。

 ジャゴソルの禍々しい口が開いていく(鳴き声は後付けそうです)。そして肩に付けた電飾の棘が、闇の中で黄色く光っていきます。

 街の中を蹂躙していく。そして用意しておいた車のミニチュアを蹴り飛ばしていき、バラバラにしていく。


 撮影している私も、思わず息を吞んでしまいます。あっ、ここで戦車隊が登場。その直後に怯むジャゴソル(ここも砲撃の合成を入れる模様)。

 そして口が光って首を260度大きく振るジャゴソル(ここも熱線の(ry)。そしてラグビー部員の方が火薬点火装置を作動。


 バン!! バン!! バンバン!!


 ビルが破壊!! 凄いですこれ!! まさか目の前で――


「アアアアアアアアア!!」


 !? ジャゴソル=黒木先輩が倒れました!! 何事!?

 

「黒木先輩!! 大丈夫ですか!! 黒木先輩!!」


 撮影を中止して駆け付ける私達は見てしまいました……。

 黒木先輩の……先輩の……




 






 先輩のお尻に建物の破片が刺さっているんです!!


「……駄目だわ、完全に……」


 何か酷い絵面ですけど、酷い事には変わりません。

 どうすればいいのでしょう……これって黒木先輩以外が着るとすぐにミイラになってしまいますし……。


「……仕方ない、私が着るわ!!」

「芹沢先輩!?」


 先輩が!? 大丈夫なんですか!?


「黒木君が怪我したのは監督の私の責任でもあるわ。だからこそ、その責任を着ぐるみをもって果たすのよ」


 先輩……かっこいいです……。

 ジャゴソルの着ぐるみから黒木先輩を取り出して、それを着る芹沢先輩。よし、撮影開始――


「ア゛……アガ……」


 アアアア!! 先輩があああああ!!

 すぐに取り出さないと……って描写出来ない位に酷い事になっているううう!!








※作者からのお知らせ(念の為)。

ナパームは大変危険なので、絶対に真似はしないで下さい。

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