第2話 着ぐるみ制作だオラァ!!

 あれから三日経ちました。


 私――小高未希はそれまで脚本の製作をやっていまして……それが大変だったのですはい。

「なるべく客を暇させないように」と芹沢先輩が言っていたので「じゃあ恋愛要素を入れましょうか?」と言ったんです。そしたら先輩方が憤怒の目つきをするのですぐに却下しました。


 そうだよね、怪獣映画に恋愛要素っていらないよね……まぁ芹沢先輩の指示もあって、何とか描き上げるする事に成功したのです。


 そんな訳で芹沢安喜先輩にその脚本を見せました。


「うん、ちょっと拙い感じもあるけど後はアレンジすれば何とかなるわ。よくやったわ小高さん」

「あ、ありがとうございます……。それよりも……。こんな所にいて大丈夫でしょうか……?」


 今、私を含めた特撮部四人がグラウンドに出ています。しかも芹沢先輩がゴメラの被り物を被って半裸姿になってまして……。

 奇異の目で見られるじゃないかと思ったのですがそれは間違いでした。何と他の生徒達が半裸姿の人を芹沢先輩だと認識して、なおかつ普通に挨拶を交わしていったのです!


 何で皆この半裸に突っ込まないの!? 私だけか!? 私だけが異常なのか!?


「どうしました小高さん?何か気分悪いのですか……?」

「ああ、何でもないオカシナさん……。それよりもここで何をするんですか?」

「私が説明するわ」


 そう言って名乗り出たのは、特撮部長である芹沢先輩。


「まず特撮部を二人ずつ分かれて作業をするわ。私とオカシナさんは俳優の撮影。そして小高さんと黒木君は着ぐるみ及びミニチュアの製作」

「なるほど、それでその俳優さんは?」

「もうすぐ来ると思うわ。この『ジャゴソル』に相応しい俳優さん達よ」


『ジャゴソル』は、単純に自衛隊などの人類と怪獣の攻防を描くそうです。

 という事は男の人達でしょうか? イケメンの方々だったら嬉しいなぁ……ん? 何かこの感じ……殺気とは全く違う……。


 これは……ムサい!!


「あっ、見えて来たわ」

「……!?」


 イケメンと期待した私が馬鹿でした。

 そのやって来た相手は……


「「「「芹沢さあああああんん!! 遅くなりましたああああんんん!!」」」」


 ほとばしる筋肉! 岩のようなごつい身体! 禍々しい瞳! 間違いない、ラグビー部だ!!

 あの『キングコング部』とか『レッドキングの擬人化隊』とか訳の分からない異名を持つガチムチ集団!! イケメンとは程遠い!!


「撮影に付き合ってくれてありがとう。あなた達は自衛隊隊員役をやってもらうわ。まずラグビー部長が主役の『矢口蘭やぐち らん』を……」


 あの主役、部長だったのかよ!! 

 まぁ、そこんところは芹沢先輩に任せるとして……。


「黒木先輩、人手とか用意してますか?」


 ミニチュアとか着ぐるみとかは、二人では大変だろうと直感出来ます。

 やっぱり大多数でやった方がはかどれるし……。


「二人だけだ」


 …………何…………ですと?


「二人だけで!? 無茶でしょ!!」

「私の仕事はやるかやらないかだけ。取り掛かるぞ」

「そんな無茶なぁ!!」


 ああ、もうどうにでもなれ!!

 という訳で用意されたのはブルーシートに置かれたごちゃごちゃした物。名前全然分からんです。


「まず廃材でマネキンを作る」


 あっはい。

 木や針金がそうらしいです。それで釘を打つなり固定したりして、歪な人型を作ります。

 ……しかしおっかしいです。何か作るスピードが速いような……。


「次に周りに布を被せ、ウレタンを覆う。その際にゴム系のGボンドを使用」


 なるほど、まずマネキンに布を被り、Gボンドを使ってウレタンを張り付ける……ってやはり速い!?

 分かった! 黒木徳佐先輩の手が速いんだ! まるで数十本の触手を持っているかのように、手の残像を残して動かしている!


「これこ黒木奥義――美御蘭手ビオランテ


 何か奥義名言っている!?

 いけないいけない……作業に集中しないと……。


 とまぁ、そんな感じで白っぽい全体像を完成。それからウレタンを削り取って怪獣の表皮を完成させて……(中略)……そしてアクリル系塗料で着色させていく。


「ふぅ、完成しましたね!」


 こうして出来たのが、ジャゴソルの着ぐるみです!

 まだ肩の棘はないけど、これはこれで生物感があっていいですね。うん、作った甲斐がありました。


 主に制作の大半は黒木先輩ですけどね!!


「それで誰が着るんですか?」

「それはこの俺でぇす!!」


 うげっ!? いつの間に後ろに!!

 しかもラグビー部の一人じゃないですか! うわっ、汗臭い!!


「ではこの着ぐるみを着るといい。それから動きやすさを実験する」

「YES」


 そんな訳でそのジャゴソルの着ぐるみを着る部員さん。

 普通の着ぐるみみたいに、背中から入ってファスナーで閉めます。その中、蒸し暑くなっているでしょうね……。


「どうだ。調子は?」

「おふぅ、中は暑いが、中々動きやすいぜ」


 まず歩き。破れないかと心配ですが、何とか大丈夫そうですね。

 ただやはり動きづらそうです。


「初代ゴメラはラテックスではなく生ゴムという重いゴムを使用していた。故にそれを使用した着ぐるみは150キロもあったらしい……。今の着ぐるみが軽いのは、そうした試行錯誤の影響だ」


 150キロ!? 着たら死んでしまいます!!

 なるほど、怪獣映画制作って大変なんですね……。ただ単に着ぐるみとミニチュアを作ってはい終わりじゃないんですね……。

 

「うぐうう!? な、何だ……!?」


 !? 着ぐるみを着た部員さんの様子が!?

 ああっ、倒れてしまった!! 一体何事なのか、私は彼に近付きます!


「大丈夫ですか!?」

「……これが着ぐるみ……まるで怪獣と一体化するような……」

「しっかりして下さい!!」

 

 私は慌ててファスナーを下ろしました……ってギャアアアア!?

 部員さんがミイラになっておるうううう!? しかも中が熱い!! 蒸れるとかじゃなくて熱い!!


「やはりジャゴソルの着ぐるみに耐えられなかったか……まるでショッキラスに体液を吸われているみたいだな……」

「いやいやいや!! これは異常でしょ!! 大丈夫なんですか!?」

「大丈夫だ、問題ない。仕方ないから私が着ぐるみを着る。その部員には水分補給を」

「あっ、はい……」 


 本当に大丈夫なんでしょうか、この着ぐるみ……。

 それで黒木先輩の言う通りに水分補給を。その間に先輩がジャゴソルの着ぐるみを着て、動きやすさの実験をしました。


 それにしてもさっきのようなミイラ状態にはなっていないようです。大丈夫なんでしょうか?


「あの……それ程に着ぐるみって暑いんですか?」

「暑い。ある特撮では着ぐるみ内部に細いパイプを埋め込み、冷却水を循環させて『スーツアクター』の負担を軽減させるという方法があるのだが、この高校ではそのような技術は出来ん」

「スーツアクター?」

「着ぐるみを着る係。なおシン・ゴメラは『モーションキャプチャー』という人間の動きをCGで記録させるという方法で取っている。その際の演出者は狂言師だそうだ。

 モーションキャプチャーも着ぐるみの最先端技術として肯定はしている。『CGは軽くなるから駄目』『現実感がない』と言うのは実に下らない」

「へぇ……」


 なるほど……特撮に疎いですが、それは勉強になります。

 あっ、ちなみに干からびた部員は無事です。よかったよかった。


「さて、実験は終了。次はミニチュア制作だ。ジャゴソルの棘は技術が難しいので、私一人がやる」

「あっ、はい」

 

 遂にミニチュア制作ですが……これは胸熱です。

 まずビルを作るそうです。その為に石膏せっこうを用意。これまた大変で、針金やベニヤ板を使って壁面を作るのです。


 結構大変です……大変ですけど……


「……疲れないか?」

「いえ……むしろ楽しいです」


 怪獣映画を作る……最初は高を括ってましたが、それは重労働の如く大変です。

 それでもこの作業、楽しいです。すんごい楽しいのです。


「では自衛隊の皆さん、あそこにジャゴソルがいると思って台詞を。用意スタート」

「前方にジャゴソルあり!! このままでは!!」

「狼狽えるな!! 続けえええええええ!!」

「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!」」」」


 ……自衛隊役のラグビー部員さんが、やけにうるさいですが……。

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