怪獣映画を撮ろう!

ミレニあん

第1話 プロジェクトだオラァ!!

 これは私と特撮部の、破壊で混沌でスペクタクルな物語である。




「ああ、やっぱいいな。シン・ゴメラ」


 ある教室で私は雑誌を読んでいました。

 あっ、申し遅れました。私の名は小高未希おだか みき。この東宝高等学校一年の女子生徒で、黒いポニテをしています。

 それで私が読んでいるのは、『シン・ゴメラ』という映画の特集。そこには怪獣ゴメラとか俳優さん、そして撮影の経緯が書かれています。


 そう、これって怪獣映画なんです。最近話題になっていた物だったんですが、怪獣に興味がなかった私はそこまで興味はなかったです。最初の時は。

 でも弟が「面白いから見に行った方がいい」って言うんで友達と一緒に見に行った訳です。そしたら迫力ある映像と良質なストーリーで、もう心を奪われました。


 怪獣物でここまでハマったのはこれで初めてかも。今でも私はこうしてシン・ゴメラ関係の本を読んでウヘヘヘしています。


「あれっ? 芹沢先輩じゃない?」

「相変わらず綺麗……もうレズでいいや……」


 ん? おや、教室に芹沢先輩が入ってきたではありませんか。

 

 芹沢安喜せりざわ あき。二年の女子生徒で、この東宝高校の人気者です。黒い長髪、彫刻のような端正な顔つき、きりっとした目元、そしてでかい胸とお尻。私も彼女には惚れ惚れしてしまいます。


 でもその人が何でここに? って、こっちに向かって来る? いやいや、まさかねぇ……。


「……小高さんね?」

「えっ? あっ、はい……」


 名前で言われちゃった……これは緊張してまう!

 やっべぇ、ちゃんと化粧したよね……変わった女って思われてないかな……って両肩に手が置かれちゃった!?


 先輩……まさか私を……!?


「特撮を作ろう」

「…………………………………………はい?」


 特……撮……? 特撮……?

 何言ってんのこの人……ってえええええ!? 持ち上げられた!? しかもお姫様抱っことかじゃなくてアルゼンチン・バックブリーカーで!! ちょっ!! パンツが見える!! パンツが見える!!


 そして連れて行かれる私!! もう恥ずかしくて死にそう!! 誰が助けて!!


「はい、着いたわよ」


 ハァハァ……何ここ? 部屋? しかも『特撮部』って書いてある?

 ……ああ、思い出した。確か今年になって出来た部だ。でも何でこんな所に? 


「ささっ、入って」

「あっ、はい……お邪魔します……」


 降ろされた私は芹沢さんと一緒に中に入っていきます。

 そこには二人の先客が。パソコンをいじっている、黒セミロングをした暗そうな女子生徒。次に……自衛隊の服? だよね……そんな服を着ている男子生徒。どちらも見る限り、芹沢先輩と同じ二年生。


「紹介するわ。女子の方はオカシナヒトミさんで、合成及びCG担当。それで軍服を着ているのが黒木徳佐くろき とくさ君でミニチュア担当。

 二人とも、彼女があの小高未希よ」

「あっ、初めまして」


 あの……? まぁ、とりあえず頭を下げる私。

 二人がこっち向いてきます。ひえ、ちょっと怖い……。


「初めまして小高未希さん私はオカシナヒトミです決して尾頭おがしらヒロミではありませんオカシナヒトミです主に合成及びCGを……」


 ヒイイイイイイイ!! 句読点くとうてんがないからスラスラになっている!! ちょっとこええええ!!


「勝った方が我々の敵になるだけだ」


 そして黒木先輩、何言ってんですか!! 意味分かりません!! 

 そもそも何故ここに連れて来られたのか分かりません!!


「先輩、一体どういう事ですか!? 説明して下さい!!」

「もちろんするわよ。その前にちょっと待って」


 はぁ……って先輩、何で脱いでるんですか!! しかも下着姿!! ピンク色の可愛らしい下着姿!!

 そして先輩、何か被り物してる……あれは確かゴメラ? でも何か違う。


 それよりも何故下着姿になって怪獣の被り物しているの? 


「あの……一体何を?」

「ああ、この被り物は平成ゴメラの物。ゴメラの中で最も気高い造形だと私は思うわ。そしてこの姿をしているのはね、こうする事で怪獣の気持ちが分かるようになるの」

「き、気持ち?」

「そう、人間社会に破壊を尽くす怪獣は何かを求めている。自分の居場所、子供、原子力などのエネルギー……そういった物を求めて、そして人間と生存競争をする。

 私は、そんな怪獣の事を知りたいの。頭から尻尾まで……」

「……」


 とりあえず分かったのは、先輩が変態だったという事だけです。本当にありがとうございました。


「……じゃあ何故私が?」

「あなた、前の小説コンクールで優勝したでしょ?」

「ああ、あれですか?」


 五月辺りに『小説コンクール』というのがあったので、私はラブロマンス物を投稿しました。

 それで優勝してしまって、自分の小説の才能があったんだなって感心しました。だから小説家になろうと思っています。


「でもそれと特撮部に何の関係が?」

「特撮部とは文字通り特撮を作る場よ。そして怪獣を愛している。このようにソフビやフィギュアを並べてね」


 先輩の指差す先には、怪獣のフィギュアがどっさり。

 シン・ゴメラに金色の三つ首龍、でかい蛾、直立する亀……ゴメラ以外、どれも名前が分かりません。


「そして私達はシン・ゴメラを見た。あの映画には特撮マニアとして感嘆を抱いたわ。だから私達は、それを超える怪獣映画を作ろうと思っているの。

 それで脚本担当がいない事が発覚してね。そんな訳で小高未希――あなたを連れて来たって訳」

「えっ!? じゃあ脚本を書けと!? そんなの無理ですよ!!」

「大丈夫よ。監督の私がチェック入れるから。それに日頃からシン・ゴメラ関係の本を見ているし、あなたにとって悪い話じゃないと思うけど」

「……」


 ……自分の手で怪獣映画を作る。それって意外と素晴らしい事なのかもしれません。それに高校で最大の思い出として残ると思います。

 よし、決めました。


「分かりました。なんとかやってみます」

「ありがとう……。じゃあ座って座って。早速プロジェクトを始めるわ」


 芹沢先輩に勧められて、私はオカシナさんの隣に座った。

 話をしていた間にも、オカシナさんはパソコンをいじっていたようです。もしかしてネット依存症?


「さて、これより怪獣映画プロジェクトを始めます。まずは怪獣のデザインと名前、映画のタイトルね。これがないと始まらない」


 ホワイトボードに『タイトル』『怪獣の名前』『デザイン』と書く芹沢先輩。

 なるほど、最初はそれなんですね。


「怪獣映画の華は、俳優でもアイドルでもジャニーズでもない、人智を超え、人々に畏怖を与え、どんな火器を耐える巨大怪獣よ。怪獣の破壊こそが、怪獣映画にスペクタクルを与えてくれる。だから怪獣映画の主役はよく怪獣の方だって言われている。

 もし、怪獣が主役なのに人気アイドルやジャニーズが出ずっぱりだったらどう思う? 小高さん、言ってみなさい」

「えっ? そんなに悪い事ですか? アイドルやジャニーズが出るって名誉な事じゃないですか。映画に華が増すと思いますし」


 珍しくシン・ゴメラにはそういった人達は出なかったですけど。


 ――ビシッ――


 えっ? 今空気が割れた?

 そして先輩方、何で私の周りに?


「小高さん……一旦、東京湾でオキシジェンでデストロイされたい? それとも抗核エネルギーバクテリアで200年眠りたい?」

「あなたは最大のタブーを口にしたとりあえず校舎裏の山奥に行きましょうスコップを持って……」

「これで貴様の来年度の人生はゼロだな……」


 ヒイイイイイイイイ!! そんな恨み言を……!! 私、変な事を言いました!?


「小高さん、今思ったでしょ?『変な事を言ったか』と。ならばオカシナさん、言ってみて」

「私は決して許しません怪獣映画はアイドルやジャニーズの宣伝映画ではないのですそれなのにアイドルを優先するという事は怪獣への冒涜ですのでまずそれを優先した人に熱線をお見舞い……」

「うん、よろしい。じゃあ黒木君」

「私の仕事は映画を楽しむか寝るだけ。もしアイドルやジャニーズが主役だったらいびきをかいて寝るだけだ」

「よろしい。とまぁ、さっきも言ったように怪獣映画の華は怪獣なの。アイドルやジャニーズが華じゃない。そういうのはライブに行きなさい!! って感じなの。

 怪獣が好きな人が見たいのは、あくまでも怪獣。そんな訳でこれから作る映画は怪獣を重視するわ」


 ……なるほど、確かに一理ある。ラーメンを食べたかったのに蕎麦そばが来たとかだったら、私も怒ります。

 ただ芹沢先輩、オキシジェンでデストロイって……何です?


「さて、まずは怪獣のデザインね。実は夜なべして描いた物があるけど、ちょっと見てくれる?」


 そういった一枚の紙を取り出す芹沢先輩。その紙には確かに怪獣の絵が描かれていた。

 ご丁寧に色まで付いている。体表は肌を黒くしたような感じで、両肩から生えている棘は黄色。手足を伸ばした人型だけど目は緑色で牙が鋭くて、尻尾まで生えている。


 禍々しいデザイン。そして上手い。聞いた感じ先輩は怪獣マニアだからこういったの得意でしょうね。


「何か意見はある?」

「問題はありません中々のデザインだと思いますそれを主役怪獣にしましょう」

「こちらからは問題なしだ」

「あっ、えっと、いいと思いますよ!!」


 私を含めた三人はOKを出しました。芹沢先輩は今怪獣の被り物をしているので分かりませんが、多分嬉しがっているでしょう。


「ありがとう。じゃあ次は名前ね。それはタイトルになるからちゃんといい名前にしないとね。一応私は『ジャゴソル』って決めているけど、何かある?」

「そうですね私はあえて漢字で『凱皇ガイオウ』にしておきます」

「『ガンラ』。怪獣マニアを引き付けるには怪獣の語尾でもある『ラ』を付けるしかない」


 皆、いいネーミングセンスをしています……。私は付けられませんから黙っていよう。


「小高さんならどうする?」


 あっ、言われた。じゃあ……巨人っぽいから……


「きょ……キョジンラ……」

「「「……」」」

「……」

「ではこの三つでどれがいいのか考えましょう」


 ですよね~。

 そんな訳で決まったのが芹沢先輩の『ジャゴソル』です。その厨二漂う名前が、怪獣に新鮮という事で採用されました。


「では映画タイトルは『ジャゴソル』にします。異論はないですね」

「「「はい」」」

「では皆、この映画を絶対に完成させるわよ。私に続け!!」

 

 こうして始まったジャゴソルの撮影。

 果たして私は、下着姿になって怪獣の被り物をした芹沢先輩に付いて来れるでしょうか? うん、普通は出来ないですね。

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