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「ほんとなんで穂波の方が熱が長引いてるんだよ」
ようやく動けるようになった大高は、布団にくるまって寝ている幼馴染を見て、呆れた目を向けた。
道に迷って崖から落ちたはずなのに気がついたら家の布団の中だった。もう一週間も前のことである。
穂波が一人で抱えて山の中を歩いて周れるはずもない。そもそも夢うつつなりに、山にいたはずが急に村の大人たちに声をかけられ慌てて運ばれた記憶があった。一緒にいた穂波に聞けば、突然場所が山から村へ移動したのだと言う。訳の分からない話だが、詳しく聞けば聞くほど大高は頭が痛くなった。
「ご、ごめん」
穂波はおどおどと目線を彷徨わせながら、掛け布を口もとまで引き上げる。
布団の脇に腰をおろして胡坐をかきながら、大高は長い溜息を吐き出した。
「だから、何で謝るんだ」
熱に潤んだ眼差しでびくびくと怯えている穂波の額を、大高はびしびしと掌で叩いた。
穂波が見たと言う三尾の黒鳥、花畑――そして紺髪の男。前回初めて、穂波を見舞った際に、彼女がぽつぽつと零した話。
その中で、穂波が崖から落ちた際に骨を折っていたことも知った。紺髪の男のおかげで、不思議とすっかり治ってしまっているが、頭は骨を折ったことをしっかり記憶していたのだろう。穂波はその日のうちに熱を出した。
大高の方は、傷は痛むが熱自体は四日目には引いている。動けない自分の代わりに、穂波が走り回って、処置をしてくれたことを知っている分、先に治ってしまったことが申し訳なく思えた。
大高はまだ熱い穂波の額を指先で軽く打つ。
「早く治せよ」
「うん」
穂波は布団の中でもごもごと頷いた。
「それにしても変な男と花に埋め尽くされた庭なぁ……」
「う、嘘じゃないよ!」
「誰も嘘なんて言ってないだろ」
大高は眉根を寄せて天井を仰ぐ。けれどいくら考えても答えは見つからず、彼は頭をかいた。
「なんで助けてもらえたんだろうな」
薬を貰えたことも、村へ返してもらったことも、なぜそうされたのか理由が分からない。花畑へ導く三尾の黒鳥と、そこに住む紺髪の男。噂で聞いたこともない明らかに異質な場所。穂波は疑問にも思わないのか、不思議そうな顔をして見上げてくるばかりで黙り込んでいる。
「やっぱり、分かんないな」
「……きれいな場所だった、気がする。あんまり覚えてないけど」
「ふぅん」
「大高に貰った羽、あの鳥のだったの。きっと、だから」
なくしちゃったけど、と穂波は尻つぼみに言って、涙ぐむ。
「いいよ。また見つけたらやる」
沢に行ったらあるかもしれない、と大高は性懲りもなく考えて、傷が治ってしまったら探しに行くことを決める。
熱で火照った頬を腫らして、穂波はほにゃりと顔を緩やかに崩したのだ。
*
幾重にも色を弾く黒い羽。彼らがそれを見つけることは、その後、二度となかった。
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