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やわい花弁を押すように吐息をかける。
伏せられた眼差し。紺の睫毛から垣間見える冷めた双眸は人知れず熱情を含んでいるようにさえ見えて――いっそ眩暈を覚える。
※
食い入るように彼の仕草を見つめていたユンフォアは、カセンが立ち上がったことに気づいて我に返った。長い紺髪を風に流れるがままにして、やおら、カセンは娘へ顔を向ける。ふと緩んだ眼差し。そこに冷たさは微塵も感じられなくて、ユンフォアは頬を火照らせた。まるで別なのだ。そこには親しさがこもるのみで、花と相対するときのような艶めかしさはない。
ユンフォアは、唇を噛んだ。赤らむ顔をごまかしたくて、くしゃりと前髪を握りつぶす。似つかわしくない。どうしてまだこんなにも幼いんだろう、と彼女は過ぎ去った年月を想った。手足ばかりが無駄に伸びても、稚拙な心は変わらない。むしろ、年々拙くなっていく気がする。
「おいで」
伸ばされた掌に、仕方がないとばかりに苦笑してしまうのは虚栄心か。村の女たちを観察し、仕草をつぶさに真似て見せていた頃の方がまだ素直に応じられていた。
「ちょうど同じ日に来た花だよ」
カセンの手を取って、促されるままにユンフォアはしゃがみ込む。つい今までカセンが触れていたのとは別の黄緑色の花。ちょうど、光を一身に浴びる周りの葉の色と同じ。指でなぞればささくれだったとげが花弁の縁に添っているのが分かる。
「変わった花ね」
「そうだね、こういうのは珍しい」
カセンの指先が、ゆったりと花の葉を弾く。
ユンフォアはひどく暗い情念に駆られた。この美しい花たちをぐちゃぐちゃに引き裂いてしまいたいと、ふとした瞬間にいつだって思う。黄緑の花に触れる手が震えた。カセンは庭を埋め尽くす花々に、ユンフォアの知りえない深い眼差しを向ける。それは、同胞へ傾ける真心にも似ていて。超えられないのだ、何を以ってしても。
ユンフォアは、細い花茎を手繰り、咄嗟に花へ口付けていた。荒々しく、触れる。ぎゅっと瞑った目に花の姿は見えない。震える指先。それでも、花が散っていないことは、唇を柔らかに刺すささくれた花弁の感触がありありと彼女に伝えた。
――あぁ、私は。
この花さえ愛しくて。あなたの統べる花たちがどうしようもなく好ましくて。
そろりと開いた
「ティツィア」
カセンに許された花の名付け。ユンフォアは吐息に含ませ、新たな花の名を囁く。
見上げれば、カセンは目を細めて微笑んでいた。同じ仕草を、彼女は返す。
どうしようもなくあなたが好きだわ。
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