最終話 Restart
龍神池の祠の前で俺はヒロを待っていた。
満月の夜。
あるいは、あの女性は龍を討ち取った武者の血筋なのではとか、あるいは龍の怒りを鎮めるために生贄にされた巫女の生まれ変わりとか……。
SF・オカルト的に考えれば、謎なんてなにもなくなる。
でも俺たちは確かに見たんだ…龍を…プレシオサウルスを、
さわった感触は今でも忘れない。
あの夏休みの自由研究。
俺たちは、龍を見たなんて書かなかった。
示し合わせたわけじゃない。
俺はSF的にまとめて提出した。
ヒロも龍神を恐竜だったのではと結論づけて提出した。
それでいいと思ったんだ。
真実は俺たちだけの秘密。
そんなことを考えていると
「アサ」
少し低くなった声と、少し高くなった背丈。
向こうから歩いてくる……ヒロ。
俺の隣に腰を下ろして、黙って缶コーヒーを差し出すヒロ。
真っ黒な缶コーヒー、ブラックだ。
「ブラックは飲めないよ」
俺がそう言うと
「俺もだ」
とヒロは笑った。
2人で苦いコーヒーをチビチビと飲みながら、ポツリポツリと話し出す。
30分もすると、昔に戻ったように話していた。
「俺の父親な…神主さんの息子さんだった…」
「そうか…うん聞いたことあったよ、俺は…」
「そうだったのか?」
「あぁ…でも、子供心に、アサには話してはいけないことだと思ってた」
「そうか…そうだな…」
「ごめん」
「謝るなよ…でさ…神主さんの話では、父さんも見たらしいんだ」
「見た?まさか龍を?」
俺たちは、握手して別れた。
ヒロは最終電車で帰っていった。
「またな…」
今度は忘れない…僕たちは「またな」で別れたんだ。
Fin
龍神池 桜雪 @sakurayuki
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