04 ループころりん(最終話)

「レイナ、あぶない!」

 

 ヒューンヒューンと飛来する、巨大な白岩の塊おむすび


 片手剣をブンッと振って、エクスがヘルプに駆けつける。


 エクスは、飛んでくる白岩の塊おむすびに横から飛び込み――


「せいっ!」


 飛び込んだ体重を片手剣に乗せ、振り下ろす。


 ガキィィィン!


 白岩の塊おむすびはあまりの重量。片手剣で切ることはできなかった。

 

 しかし、軌道をズラすことは出来た。


 ドドォン! ―地に落下― 


 コースが逸れた白岩の塊おむすびが、レイナの数メートル横あたりの地面に落下する。


 一方のエクスは、反動で後ろに飛ばされた。


 わずか白岩いっぱいで、驚きの重さに!


「いてて!」


 倒れたエクスが起き上がろうとする。


 ――そこに、白岩の塊おむすびの追撃が迫る。


 カオステラーは、既に地面に落下した白岩の塊おむすびは気にも止めず、固く握った次の白岩の塊おむすびを投げつける態勢を取っていた。


 ――白岩の塊おむすびについては、「3秒ルール」はどうでもいいらしい。


 ――食べ物では無いから…だろうか?


 エクスはまだ立ち上がっていない。


 そこに――


 バチュッ! バシュッ! 


 いち早く状況に気付いたシェインが、杖から魔法を放っていた。


 カオステラーが構えた次の白岩の塊おむすびに一発命中した魔法は、岩を破壊するあたわず虚しく四散。


 しかし、白岩の塊おむすびを持つ腕の1本に当たったもう一発は、少しはダメージを与えたようだ。カオステラーが一瞬ひるむ。


 ――エクスが立ち上がるには、十分な時間かせぎ――


「シェイン、助かったよ!」

 エクスは立ち上がって礼を言う。


 シェインは無言で頭を少しペコリと下げただけで、自ら移動しながら、次の術の準備に入っている。 


「エクス、ありがとう」

 助けられたレイナは、エクスに礼を言う。


「うちのファミリーに何てことしやがんだ!」

 タオが怒りをあらわに敵に飛び込もうとするが、敵は八本腕だ。隙が無い。


「くそっ!」

 たたらを踏むタオ。


「辺りの岩がなくなるまで、がんばって回避して!」

 レイナが仲間にそう呼びかける。


 確かに、弾の原料となる白岩  ―おむすび用の白米―  が無くなれば、敵の投擲攻撃は止む。


 弾切れを待って、カタをつける。


 いい戦法のように思われた。


 ――しかし――


 ニュオッ! ―腕伸ばし―  ギュッ! ―拳握り―  ドダァァン!  ―インパクト―  


 ニュオッ! ―腕伸ばし―  ギュッ! ―拳握り―  ドダァァン!  ―インパクト―  


 ……


 ……


 ドドオオオゴロゴロゴロゴロ!  ―ガケ上から落下する白岩― 


 カオステラーは、背後へ向けてその腕を伸ばし、ガケの壁面を強打。


 衝撃で落下してくる、白い巨石。


「…弾の補充に、抜かりはないってわけね」

 レイナが言って構える。


「やりやがるな、この『おむすびヒュンヒュン』野郎は」

 タオが不敵に笑う。


「元は、おばあさんですよ?タオ兄」

 次の術を準備しながら、冷静にツッコむシェイン。


「タマ切れを待っては居られない、ってことだね。壁ドンされるから」

 と、状況を把握するエクス。


 ――彼らは、壁ドンの新たな4つ目の行為を目撃した。


 ・1つ目は、オレキャッスル ―壁の薄い集合城― で、隣室がギシギシ ??? うるさいのをたしなめる、非モテ関連行為。

 

 ・2つ目は、男性がイケメンに限る女性を壁際に寄せ、目の前で手を壁に突いて女性をドキッとさせる、恋愛関連行為。

 

 ・3つ目は、壁を叩きたくなるほどの不満や憤りを感じた時に壁を殴る、単純暴力行為。


 そして、

 

 ・4つ目は、カオステラーが、肥大した腕を伸ばして壁を突いて岩を落下させ、弾の原料を補充する、補給関連行為。(NEW!)


 第4の壁ドンを駆使するカオステラーは、攻撃力が凄まじく、また、白岩の塊おむすびの弾幕に守られていた。


「どうするよ!」

 カオステラーが放つ白岩の塊おむすびを華麗なステップでかいくぐりながら、タオが叫んだ。


「僕に、任せてくれないか…!」

 タオよりもやや後方。エクスが仲間にそう言った。


「どうするつもり?」

 と、レイナ。


「ん?」

 エクスは、敵の攻撃をかわしながらレイナに近づく。そして、

 

「僕は、かわしつつ敵との距離を詰める。合図したら、その時僕がいる辺りに、魔法を撃って欲しいんだ」

 エクスはそう告げた。


「そんなことしたら、エクスは…!」

 驚くレイナ。しかし、


「大丈夫。試してみたいことがあるんだ」

 そういってエクスは笑った。


 ◆


 エクスがレイナ達と出会う前――


 彼は『シンデレラの想区』の住人だった。


 「空白の書」を持つ少年には、なんの運命も与えられていなかった。


 それが当たり前だと思っていた。


 けれど、レイナ達と出会い、


 『導きのしおり』と出会い、


 彼は気づいた。


 自分は何者であるかを、自分で選択できることに。


 自分の運命を、選び取ることができることに。


 それを気付かせてくれたのは、レイナ達。


 今の自分の運命、それは、


 レイナ達と一緒に、カオステラーを倒すこと。


 狂った想区せかいを、元の姿へと調律する もどす こと。


 エクスは、それを、行動で示そうとしていた。


 ◆


 放たれる白岩の塊おむすび


 我流で身につけた剣術がエクスのベースだ。その回避ステップは、タオほどではない。


 しかし、確実に、意志を持って、白岩の塊おむすびをかわす。


 右に、左に、時々バックステップで。


 かわしながら、チャンスをうかがう。


 カオステラーの手元の白岩が切れた。


 シュイン! ―腕伸ばし― 


 奴は、第4の壁ドン ―弾丸補給― を行おうと、その腕のうちの幾本かを、背後の崖に向けて伸ばした。


(いまだ!)


 エクスは、飛び来る白岩の塊おむすびを、右斜めに跳びつつ、身体のスレスレでかわす!


 そして、空中で、片手剣をブン!ブン!と2回振った。


(合図だわ!)


 それに気付いたレイナが、魔導書を。

 

 レイナの魔道書から放たれる魔力。 ―タオとシェインは牽制、陽動― 


 レイナの魔力が、ダッシュするエクスの足元に着弾。


 ドゴオオオアアアアン!  爆発―爆発―爆発―爆発―爆発  


 その爆風を「追い風」として利用し、エクスはさらに前に跳んだ!


 狙うは敵の――足元!


 カオステラーは、伸ばしていた腕を一度ちぢめ、急速に近づくエクスへと直接攻撃……


 爆風に乗り、体を縮めて、ローリングしながらかいくぐるエクス。


 その回転力をも利用し、


 カオステラーの、腕に比べて変貌が少なめな脚を――


 ズシャアアア!  ―斬属性攻撃―  


 エクスはそのままの勢いで反対側に抜け、カオステラーに対して距離を取る。


 脚を切断されたカオステラーは、崩れるように倒れた。白岩の塊おむすびも一瞬、手放してしまっていた。


「いまだ!」

 タオの鋭い叫び。


 カオステラーが、「八本腕のうちのいくつかで脚の代わりに体を支え、体勢を立て直す」と行動原理を切り替えるよりも早く――


 バシュッズガアアアン! ―杖からの遠距離魔法― 


 ドゴオアアン! ―魔導書からの炎―爆発― 


 距離を置いて放たれた、シェインの杖、レイナの魔導書からの、それぞれの魔力攻撃が、ほぼ同時に敵の各腕に着弾!


 堅い白岩の塊おむすびを手放した、ある腕は千切れ飛び、ある腕は炎に焼かれ、ある腕は爆風に吹き飛ばされ……


 そして、レイナとシェイン双方の遠距離魔法の威力が、若干抑えられていた、その理由。


 それは、仲間を巻き込まないため――


 うおおおおおお! ―猛進―跳躍―振りかぶり― 


 高く跳んだ左手の盾をパージしながらタオが、全体重を落下のエネルギーとして、その槍先両手に握り替えたに込めた。


 ズズシュウウウゥッッ! ―突きおろし― 


 エクスに脚を、レイナとシェインに数本の腕をやられ、動きの鈍ったカオステラーの脳天に、槍が突き立てられる。


 ビクン! ビクビクビクッ!  痙攣―痙攣―断末魔  


 激しく暴れたカオステラーの痙攣は次第に収まり、ゆっくりと弛緩――


 そして――


 カオステラーは、その動きを完全に停止した。


「やった…な!」

 タオの一言。顔に跳ね飛んだ返り血と、自らの汗とが混じった水分を拭く。


「やったです」

 シェインは短く言う。


「なんとかなったわ」

 魔導書を閉じるレイナ。


「おむすびを投げてくるとは、思わなかったね…って、あれ?」

 ほっと息をなでおろしたエクスは気付いた。


「そもそも、ここまで転がって来た、おむすびは?」

 エクスはあたりを見回した。しかし、見つからない。


「こんだけ激しい戦いの後だ、どっかに吹っ飛んじまったんだろ?」

 タオが言う。


「そもそも、穴に落ちすっとんとんませんでしたし」

 と、シェイン。


「さあ。カオステラーも倒したし、早いとこ、調律しちゃいましょう?」

 やや、焦ったように言う、レイナ。


「レイナ、どうしたの?そんな急がなくても…あ…」


 崖を回りこむ下りの道。そこからやってくる、人の影。


 まだ、誰かは分からないが――


「この状況で、おじいさんが現れたら、まずいでしょ?」

 と、レイナ。


「たしかに!」

「うんうん」

 うなずく、タオとシェイン。


「…おばあさんが、こんな事になっている場面も、おじいさんに見せたくないもんね」

 エクスは、レイナの気持ちを察した。


「ぱぱっと元の想区せかいに戻して、次に行きましょう!」

 レイナはそう言って、調律を始めた。



『混沌の渦に呑まれし語り部よ』


『我の言の葉によりて、ここに調律を開始せし…』



 レイナの身体から白い光があふれた。


 混沌を秩序に戻す、調律の光――


 その光に目を奪われながら、エクスは呟いた。


「そういや、なんで切り株から穴まで、こんなに距離があったんだろ?」




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ―  エピローグ  ―

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 むかしむかし


 あるところに


 すとーりーてらー が おりました



 じゅうにんの うんめいが えがかれた ほんである


 「うんめいの しょ」を かいた ひとです




 この せかいは くりかえしの ものがたり




 おばあさんは せっせと やきおにぎりを つくります


 あいじょう こめて つくります



 おばあさんは おじいさんを あいしていました

 

 おじいさんも おばあさんを



 おじいさんは やきおにぎりを おとします


 「うんめいの しょ」の きまりごと



 おじいさんは あなに おちます


 すずめから ちいさな つづらを もらいます


 なかには ざいほう


 よろこぶ おじいさん



 そのかわり

 

 やきおにぎりは たべません




 この せかいは くりかえしの ものがたり




 おじいさんは やきおにぎりを おとします


 すとーりーてらーが そう きめました


 おとさなければ


 ねずみも


 つづらも


 となりのおじいさんも


 きょうくんも


 えがくことが できないからです




 この せかいは くりかえしの ものがたり




 すとーりーてらー は あなの いちを かえました


 とおすぎて ころがる おにぎりが とどかない くらいに


 おじいさんが あきらめて やきおにぎりを たべてしまうほど とおくに



 それでも おじいさんは えんじます


 じぶんの やくわりを


 うんめいの しょ に したがって



 やきおにぎりを あなに おとし


 そして おどろくふりを するのです


 「こんなところに おおあなが」と



 おばあさんは なみだをうかべて いうのです


 3びょう るーるだから しょうがない


 ねずみが たべてくれるから しょうがない



 おじいさんも いうのです


 ざいほうが てにはいるから しょうがない


 きょうくんを えがくのだから しょうがない




 この せかいは くりかえしの ものがたり




<了>

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