小説を読むということは、自分ではない誰かの人生をなぞることだ

北村薫は『小説が書かれ、読まれるのは、人生が一度しかないことへの抗議だと思う』と述べた。



完全なフィクションであれ、実話を元にしているのであれ。

小説を読むことは、自分が、自分ではない誰かになる、ということなのだろう。

誰かの人生を、自分の中に“落とし込む”ことなのだろう。

そうやって、我々は知る。こんな誰かが、どこかに、本当にいるのかもしれないと。

自分以外の、誰かの人生を。



不思議とそんなことが心に浮かぶ、とても短くて、とても優しくて、とてもいい香りがする掌編だ。

この香りは、そう――昔、風呂で使っていた、石鹸の香りなのだと思う。

今日はボディソープではなく、固形の石鹸で身体を洗おう。

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