バストマン


オレが変わってるって?

そんなコト百も承知さ。

レオタード一丁でユキジル・シティの魔天楼を駆け巡る。

でもよ、意外と気持ちいんだぜ?

悪友のアイツも言ってたさ。

ブリーフ一丁で街を駆け回るのはサイコーにハイだって。

オレ達のコトを人々はユキジル・シティの悪夢と呼ぶがそんなこと知ったこっちゃない。

オレの名はバストマン。

股間と胸の膨らみを隠しきれない20歳のスーパーヒーロー。


ついでにヤツのコトも紹介しておこう。

悪友のミルカー。

タンパク質を大好物とする22歳のマッドサイエンティスト。


この街を賑わせて、いつか『ユキジル・タイムス』誌の一面に二人の勇姿を飾るのがオレ達の夢だ。



「オレ達、そろそろ潮時かもしれねえな…」

ふいにミルカーが言った。

オレは唖然とした。

何を言うかこの男は。引退などまだしてたまるか。

「でもよぅバストマン、今じゃ巷はハイパー・コットンって言う元警部のスーパーヒーローが世間を騒がしている。オレ達、なんだか蚊帳の外って感じがするんだ…」

「弱音を吐くなミルカー!

オマエのその開発したルーラーミルキング(以後RM)は素晴らしい武器だぜ!今世間ではグラマラスなんざ流行っちゃいない。

貧乳ブームってコトを忘れたのか!?

オマエのそのRMはそのグラマラス(デカ乳コンプレックス)に悩む女性の手助けとして活躍している!

それなのにおれときたら…!!」

「バストマン…」

説明してもいいだろうか!?

ルーラーミルキング(RM)とはミルカーの造った最新の乳搾り機で、バストにハメ込むとあっという間に貧乳が出来あがるシェイプアップ器具である!

オレはミルカーを天才だと認めている。

ちゃんと今のご時世の女性のニーズに応えている。

それがなんだオレは。

マニアック層の少数男性の心しか癒せていない。

この豊満なバストはこの時代にもう不必要なのかも…

いいや!

そんなの間違ってるさ!

人類はまた再び、乳の偉大さに気付くはずだ!

その日が来るまでオレは諦めない!


オレが何故こんな体なのかを教えよう。

恐らく突然変異なのだと思う。

いわゆるミュータントってヤツだ。

男根もついてるし巨乳も携えている。

生物学者は興味深々だろう。

いつかX-MENチームからお呼びがかかるかもしれないな。

しかしオレはミルカーだけがいればいい。

アイツとオレのコンビは無敵なんだ。


ミルカーは変態だ。

仕方がない。そこはオレも理解してやってる。

ミルカーはRMで搾った生鮮人乳が大好きだ。

とれたてピチピチの人乳をワイングラスに注ぎ、いつも窓辺でユキジルシティの夜景を眺めている。

様になってるぜ、ミルカー。


オレは今夜もいつものように魔天楼にくり出した。

このバストを巧みに弾ませ、ビルからビルへ飛び移る。

『バストスプリング』

つまり巨乳跳躍ってヤツだ。

ビルへ飛び移るのにこの技を活用している。

ビルへ飛び移るのにこのバストで衝撃をやわらげて跳ねるのだ。

ぼよよーん。

「あっバストマンだー!」

下の方で子供の声がした。

片手を挙げ、颯爽と去る。

これがヒーローの醍醐味ってヤツだぜ。


今夜もまた路地裏でシャイボーイ達がオレの出番を待っていた。

貧乳ブームの波に押され、世間に疎まれないよう、夜な夜なオレのバストを見ることで心を癒す連中。

嫌な時代になったもんだぜ。

以前はもっと堂々と街の中で、バストをさらけ出し闊歩出来たというのに。

あの頃は結構もてはやされたな。

まあ一部の人間、倫理教育委員会等はオレを蔑んでみていたが。

そしてミルカーも含め、ユキジルシティの悪夢だとかガンだとか呼ばれる羽目になったのだ。


手前のビルで跳躍し、一回転を決め着地する。

そしてバッと立ち上がり胸を張る。

あまりの大きさとその揺れに「おおぅ」と路地裏シャイボーイズ達が唸った。


「さぁとことん拝むがいい!よくその眼に焼きつけろ!これがバストマンのおっぱいだ!!お触りは駄目!」

「待ってましたバストマン!!」

シャイボーイズから歓声と拍手喝采。

オレはレオタードの前をはだけてやった。

「吸うのも駄目ですか?」

「ならん!見るだけだ!」

まったくなんてガキだ。

もしホントにやろうモンなら百裂巨乳張り手の刑だ。

…いや。駄目だな、喜びそうだ。


その瞬間背後に気配がした。

振り返ろうとする前にバストマンはおっぱいを鷲掴みされていた。

「AAAAGH!!」

あいたたた!

もげるっちゅーの!

「久々やなあ。バストマン。」

「キ、キサマはコットン警部…!!」

「あかんなあ、こないなトコでストリップショウなんて。風営法禁止やでぇ。」

「な、何を言うオレはAAAGH!!」

「この胸は法律違反ちゃうかバストマン?」

「AAAAAGH!離せ…OH,NOOOHHHHH!」

「まさか気持ちええんちゃうンか、どないやねん。」

「Son of a Bitch!!気持ちいい訳なあああAAAAAAHHANNN!」

この様子を食い入るようにシャイボーイズが見ていた。

なんとオレは恥ずかしいトコを。


オレは、女として目覚めてしまったのだろうか。

コットンがオレの乳房をまさぐり続けている。

その乱暴な手つき。

なんともよらぬ感じが体の中で起こっている。

オレは、オレは…

「男だああああ!」

足を後ろにかち上げコットンの股間を蹴り潰した。

「ぐひゃあ。」

なんとも言えぬ声を出しコットンが膝まづいた。

「コットン、キサマァ!」

「ぐ、ふふ、ワテはコットンちゃうで、ハイパー・コットンでおま!」

「ハイパー…だと?」

「そうや、ハイパー・コットンや。YJPD(ユキジルシティ警察)の上層部と科学班の力でサイボーグ化されたハイパーァァ…コットンやああ!!」

「クッ…訳の分らぬことを!!」

「そんなことあらへん。おまんらみたいな輩が街を汚す。それを阻止するためにワテは体を捧げたンや!!」

「ふっ。だったらもろいモンだな。今のキサマの金玉もサイボーグだったとしたら。」

「く、しゃあないんや。国の予算が下りんでサイボーグ化は右半身だけなんや。

ちなみに今オマエが潰したンは左金玉や。」

「そうなのか、ありがとよ。弱点を教えてくれて。」

「し、しもうた!!」

コットンがたじろいだ。

今こそコイツを叩きつぶすチャンス。

「おおい、出てこいや!ワテ、ピンチや!」

すると影から一人、男が出てきた。


「お、オマエ…」

「すまん、バストマン…」

ビルの陰から姿を現したのはなんとミルカーだった。

「ミルカー?なんでオマエがここにいる?」

「本当にすまんっ!!」

ミルカーがマントの前をはだけた。

中はいつものようにブリーフ一丁。

いや。

ブラジャーもつけている。

あれは…!

「バスタード発射!!」

ミルカーが叫びそのブラジャーから液体が飛び出した。

バストマンの目にかかる。

「ぐああ!か、辛い!目が辛いいいい!!」

あれはミルカーがオレの為に製造してくれた武器だった。

大量の練乳とマスタードを混ぜ合わせたモノ。

それがバスタード。

「ああああ!」

たまらずバストマンは大通りに飛び出した。

あんな暗く狭いとこでは戦えない。

しかしミルカー、おまえ…

「ぐひょひょ。バストマン、どうや。どんな気分や。親友に裏切られる気分は?」

「コットン、キサマが絡んでるのか!」

「やっとこさキサマらのアジトをつかんだんや。そんで中の武器やマシンを押収したに過ぎん。このRMものぅ。」

コットンの手にはRMが握られていた。

「ワテらをなめん方がええで。このミルカーの母ちゃん姉ちゃん、それに妹。

彼女らのバストがどうなってもええんか?」

あっ…

そう言えばミルカーの家族はみなグラマラスだった。

世間のブームに流されず、みな巨乳を維持していた。

みんなそれを誇りにしていた。

それにこのオレを応援してくれていた…!


「Geasus!!汚いぞコットン!!」

「むひょひょひょ!やれ!ミルカー!」

こんなのってあるか。

オレはこんな戦い望まない。

オマエもそうだろうミルカー?

「さあさあ、みなさんお立会い!風前ともし火ヒーロー達のコンビ解消の一戦の始まりやー!」

大通りにはいつしか人が集まってきていた。

バストマンのさらけ出した胸を見て貧乳の女の子達が言っている。

「何アレ、ダッセェ。」

「キモーイ、まるで牛じゃんね。」

くそう。

「おおっとバストマン、オマエは動くな。ミルカーの家族がどうなってもええんか?」

「Fuck!!汚いぞコットン!!」

「言っとれ。おいミルカー、オマエはこれじゃ。『RM改』。これでバストマンのあのシンボル、巨乳を搾ったれ。」

バストマンは戦慄した。

マジかよ。

そんなコトされたらオレは、オレはー…

スーパーヒーローは廃業だ。

「はよやらんかいミルカー!とろとろしよったらオマエの母ちゃん貧乳やぞぉ!!」


バストマンはよく聞かされていた。

ミルカーの母ちゃんのコトを。

ミルカーにとって彼女の巨乳は自慢だった。

一緒に風呂に入ったエピソードは何回聞かされただろうか。


「すまん!バストマン!!くらえ!RMしぼり!」

バストマンは覚悟した。

仕方ない。

友の為。

オレはここで降りるとしよう。

ヒーロー稼業はここに幕を降ろそう…


「AAAAAAAAGH…」

「すまん!すまんバストマン!」

RM改がバストマンのバストに吸着し振動した。

みるみるウチにバストマンのそのおっぱいが萎んでいった。

とぅるんっ

RM改がバストマンのおっぱいから外れた時にはおっぱいはなかった。

おっぱいなのだがおっぱいと呼べる代物ではなかった。


ガシャン!

ミルカーがRM改をその場に落とし壊した。

そして膝から地面に腰を落とした。

二人とも泣いていた。

オーイオイと泣いていた。


「ようやった、ミルカー。これからはワテとコンビ組め。いくらその『改』を壊してもオマンの造ったオリジナルはここにあるってコトを忘れたらアカンで。」

RMオリジナルを振りかざし、コットンが不敵に微笑んだ。

その瞬間。

「ぐぎゃあ!」

コットンが叫んだ。

「目が!目が辛いで!?あちあちあちち!」

「どうだコットン!バスタードの威力は!」

ミルカーがコットンにバスタードを喰らわせていた。

そしてコットンの手からRMを奪う。

「おどれミルカー!何さらすんじゃ!」

「この機会を待っていた!それにオマエとコンビなんか組むもんか!」

そしてRMを地面に叩きつけた。

「おいミルカー、オマエいいのか自分の武器を…」

ミルカーは目を伏せて言った。

「当たり前だ、オマエの武器を奪っておいて何故オレだけヒーロー稼業を続けられるというのか!」

「ミルカー。」

「バストマン…」

二人の間に友情を越えた何かが芽生えた。


「おどれら、ただで済むと思うな!くらえコットン……」

コットンの体が光に包まれた。

エネルギーを充電して放出しようと言うのか。

「コットン……タックルー!!」

なんやタックルかいな。

どすどすとコットンが二人に迫って来た。

その時!

「バストマン!」

ミルカーがバストマンの顔を両手で持ち上げた。

「オレの全てを受け取ってくれ!!」

そして。


ミルカーがバストマンのその唇に自分の唇を重ねた。


「ミ、みるふぁ…」

バストマンは唐突のコトに目を白黒させた。

なんだってんだ、ミルカー。

オマエが変態ってのはよく知っているが。

男が好きだったのか?

いや…、まて。

これは…なんだ。

この気持ちよさは、なんだ?

先ほどコットンに乳をもみほぐされた時の様な快感。

どうしちまったんだ、オレの体は。

女に…目覚めた…?

いや、待て。

オレは。元々女だったのかもしれない。

女として生まれ、男根を生やしたミュータントだったってコトはありえないか?


途端にミルカーが愛おしく思えてきた。

ああ。ミルカー。

オレは、オマエに愛を感じてしまっている。

もう、そうとしか思えない。

認めよう。

認めてしまおう。


バストマンの胸が疼きだした。

ばっくん

唾液をつぅっと切らせてミルカーが言った。

「オレの愛のミルク、全部オマエに注いだぜ。」

そう言ってミルカーが力尽きるようにその場に倒れた。

「ミルカー?ミルカーーー!!」

コットンがすぐ前まで迫ってきていた。

バストマンは自分の体に異変が起こっているコトに気付いた。

胸が熱い。

こ、これは…!

バストが!!

オレのおっぱいが!!

バストマンのおっぱいが復活していた!

ミルカーが自分のエネルギーをオレに託してくれたのか!

先ほどのKissで!

オレにミルクを流しこんでくれたおかげで!


「死にさらせや変態コンビがぁ!!」

コットンが眼前にいた。

バストマンは胸を張った。

向かってきていたコットンがバストマンのおっぱいに突っ込んだ。

しかしその復活したおっぱいを見て目をひんむいている。

「しまった…!」

「バスト!スプリング!」


ぼよよーん


コットンは自分のタックルでバストスプリングにより自滅した。

遥か彼方のユキジルシティの摩天楼に消えて行った。


飛ばされる際に「憶えてろよバストマン!」と負け惜しみを残して…



それから数日後…


オレはミルカーの好物の生鮮人乳をパンに流し火にかけた。

クツクツと沸騰した頃合いを見てマグカップに注ぐ。

オレとミルカーの二人分。

ミルカーが寝室から玄関に向かっていた。

そして新聞を手にオレの方に向かってきた。

「おいおい見てみろ!今朝の『ユキジルタイムス』!」

「どうしたのミルカー?朝から想像しいわね。」

「オレ達ついに誌面デビューだ!」

「ホント!?」

オレ達は二人して新聞を覗き込んだ。

その時二人の顔がコツリとあたる。

そしてお互い顔を見合わせてクスリと笑った。

「おはよ、ミルカー」

「おはよう、バストウーマン。」

オレ達は唇を重ねた。

二人の唇が離れた向こうの窓辺、

摩天楼の向こうから朝日が昇っていた。


「さあ朝一番のお乳を出して乾杯しよう。」



END!

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トラブル その他短編 ユーキチ @yuukichi

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