オヤジギャグ芝居


ある晩、新宿の街角で酔っ払い達が一面に何かを囲み大笑いしている

そこを通り掛かかったOLのお嬢さん、何事かと中をヒョイと覗きこんだ。

人が囲ってる中心にサラリーマンらしきオヤジが一人。

画用紙を使って紙芝居らしきものをやっていた。

彼の脇に立てかけてある旗には『オヤジ・ギャグ芝居』と書いてある。

「なにこれ…」

「おや、これはこれは若いオナゴがやってきた、さてさてお目にかなうかどうか」

「言っておきますけど、アタシ、笑いにはうるさいですよ?」

「ほほぅ?ではでは紙芝居、はじまりはじまり~」


そう言うとオヤジは下手くそな絵で描かれた人物になりきり声色を変え、紙芝居を始めだした。


『おやじ』

>う…うぐぐ…

>おいっどうしたオヤジ!

>ぐ、ぐお…

>ま、まさかオヤジ!?

>あうう、はぁはぁ…

>しっかりしてくれオヤジ!

>はぁはぁ、は…

>オヤジ、オヤ…オヤジー!

>なんだ?オレはケツがいてぇだけだが

>

>おや…?ヂ(痔)…?




「うぷっ」

「ぎゃはははは!」

「げらげらげら!」


周囲の酔っ払いのオヤジたちは笑いこけている

「おや、お嬢さんお気に召さない、いいね、その目冷やかだね、よしっ次だ行くぞう、吉幾三」

「ぶぶー!」

「げらげらげら」

「……」



『大変だ』

>てぇへんだ、てぇへんだ!

>なんだってんだい、どうしたい

>べらんめぇ、てぇへんだったらてぇへんなんだってんでぇ!

>ちょいとアンタ落ち着きなよ

>てぇへんだってぇのに落ち着いてられっかい

>わかったから一体何が大変なんだい?

>屋根の上から飛び降りたんでぇ!

>それで?

>受け身に失敗してこの有様よ

>

>あららホントに


>手ぇ変だ◎



「ぶーーーぷぷぷ!」

「うひゃははは、はぁはぁ」

「くくくっ、ぷくくくく」

「……」

「あれぇお嬢さんまだ口がへの字だねぇ、じゃあ次行こか、」


『それにつけても』

>金が欲しいよ、金がよ~

>アンタってばまた無い物ねだりかい

>なんだってウチには金がねぇんだ

>アンタがマジメに働かないからだろう

>何もせずに金が欲しいよ~金~金~

>やめな!みっともない!子供たちの前で二度とお金の話なんかすんじゃないよ!!

>

>ひぇぇ…おっかねぇ~…



「ぶひゃーー!」

「ひゃーーひゃっひゃ!」

「ひひ、ひぃひぃひぃ」

「どうだっお嬢さん!」


「…駄目、てんで駄目ね…」

「なぬっ?」

「だってヒネリが全然ないもの、単純すぎて先読みしちゃえるわ」

「……」

「聞いてるの?つまり本筋のオプションとしてヒネりを…、ねえ!」

「お、お…」

「?」

「おっぷしょん」

「ぎゃーーーっはっはっ!」

「……」

「よーし!次行ってみよー」



『グルメ』

>はーいパイヤくん、オッパイの時間でちゅよ~、

>「ちゅ~ずちゅちゅちゅ…」

>(んー、こりゃ駄目だ、しょっパイな)

>恵美!パイヤくんを独占しないで!はい、わたしの方がオッパイおいちいでちゅよ~

>「ぢゅ~ぢゅるぢゅるぢゅずず…」

>(あー?まずいじゃねぇかこれ、すっパイぞ)

>ちょっと可里奈、パイヤくんまずそうにしてるわよ、全く。は~い沙織ちゃんのオッパイでちゅよ~

>「ちゅっ、ちゅば、ちゅば、じゅっ」

>(ふぅ、切れが悪いな…こりゃ、しっパイだ)

>

>ぎゃっ!痛!なに!?パイヤくんがアタシの乳首噛んでる!

>「がじがじがじ、がぷっ、ちゅちゅ~~~」

>(ふむ、血と乳が混ざってマイルド…うんこりゃいいあんパイだ)

>大丈夫沙織?!ちょっと伴さん、あんたんとこの子でしょ!なんとかしなさいよ

>それは無理よぉ

>なんでっ

>

>この子は立派な伴パイヤですもの



「あはっはっは」

「ほほぉ、ふむふむ」

「うんうん、ははは」

「これでどうだっ!笑いとヒネリのシンフォニー!」

「ふん、愚かね、ヒネリをたてれば笑いがたらず笑いをたてればヒネリがたたず。アナタにその両立は無理みたいね」

「なぬぅ~…?」

「ほら、もう終わりなのかしら?」

「ま、まだあるぞ!聞くがいい、とっておきだっ」



『恐怖のみそ汁』

>よーし、今日はとうさんが晩飯を作ってやろう。みそ汁もとうさんが作ったんだぞ

>え、イヤイヤ!何が入ってるか分かったもんじゃない!

>何言ってやがる、頑張ってこしらえたのに

>嫌よ怖いわ恐怖だわ!

>ほら何か浮いている…!

>それは具じゃないか、


>うう、もしかして今日…





そこで女が口をはさんだ

「わかってるよ、どーせ」

「なんだと?」

「今日、芙(ふ)の味噌汁だって言うんでしょ」

「……」

「バッカみたい、凍死しそうだわ」

「……」

「だから分かるんだってば、先が読めちゃうってさっきも…」

「いいやお嬢ちゃん、そいつぁ誰にもわからねぇ…

いや…」

オヤジは残り少ない髪の毛をむしり、ふ、と吹いてあさっての方を向いた。


「かみのみそしる」


「……アヒャーッハッハッハッハッ!」


終劇

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