現実と区別のつかないほどのリアルさがある。放射能物質や、原子力施設についての詳細な描写、犯行メンバーの一致と不和。そのせいで、読み始めてから、読み終えるまでその世界の中にいたし、読み終えた後も、自分の一部にまだそれがあり続けるような気がする。
個人の上に社会は重くのしかかっていて、社会に背を向けた彼らが、社会のではなく、人間としての正しさを問おうとする。彼らはそのために大きなエネルギーを生み出そうとする。社会がもう少し柔軟であるならば、そこまでのエネルギーはいらないのか、不正を廃した後に何が彼らを繋ぐものとなるのか、それによって社会は成り立つのか。読了後の悲しみを伴う解放感とともに考えさせられることは多い。
まず、何かこれからとんでもないことが起きそうだという予感をにおわせるタイトルが素晴らしい。これだけでぞくぞくしますね。
作中では原爆や原発などについて語られており、その知識量に圧倒されます。
3月11日が来ると毎年ここぞとばかりに黙祷を捧げたがる人たちが現れますが、物書きの端くれならば眼を閉じたりせず、現状を正しく認識するためにしっかりと見開いて、この作品を読んでほしいなと思います。
もちろん祈ることが悪いことだとは言いませんが……。
こういう注釈付きのレビューしかできない自分がもどかしいです。
Web上ですらすでに表現の自由は存在しないのでしょうか。
この作品は、作中人物の手記というかたちをとっており、もはや紙のうえにしか自由は存在しないということを暗に主張しているようにも見受けられます(※たぶん考え過ぎだと注釈をつけておく)。
これほどうまく事が運ぶのかは疑問ですが、何だかできそうな説得力があります。それはやはり膨大な知識に裏付けされた文章があってのことでしょう。
現実では、やってみないとわからないですし、今後真似する予定もないので確認はできません。ただ、最終的な成否を分ける不確定要素があるとすれば、それは人の心にあるのでしょう。他人の心の裡はおろか、自分の気持ちでさえきちんと明確に表せる者は少ないはずです。
犯罪は許されるべき行為ではありません。
ですが、ときにダークヒーロー的な存在が現れ、警鐘を鳴らしていく。そんな世間に風穴を開ける爽快感は誰にも否定できないでしょう。
Mr.Childrenの『マシンガンをぶっ放せ』を聴きながら読むことをおすすめします。
雰囲気を伝えると、映画化された「予告犯」に似ています。原作は未読なんですが、あの映画にメッセージ性が近い。でも、ストーリー展開は全く違います。
また、原発物としては、本作品を読み始める前に高村薫先生の「神の火」を連想したのですが、「神の火」より本作品の方が遥かに良い作品です。「神の火」は終盤がグヅグヅになっていますが、本作品は程良い火の通り方です。
なお、作者は模倣犯の出現を危惧して、あまり脚光を浴びたくないと語っています。その気持ち、良く分かります。如何にも実行できそうな内容です。個人的には、あの場面でもっと早く警察に捕まるような気がしますが、兎に角、良く練り上げられています。