続編予告

「依頼ぃ?」

「先輩があんな部活名にしたからですよ」

「不登校のクラスメイトがネットアイドル……ふむ」

「全裸に包帯を巻いて……リスカ配信?」

「あなたはドクターキリコにはなれないわ」

 続く自殺部の日々――。


「死を想えだって~! 達筆~! あたしも昨日リスカしたよぉ~」

「……あなたの入部は認めないわ」

「――パパもママも、あんまり帰ってこないよ」

「ねぇ、しよ。生きてるってこと、感じたいから」

「それは、遠い国のどんなニュースより生々しくて、切実だった」

「天ヶ瀬唯――――っ! あたしだって……あたしだって! 死を想う! 傷ついて、傷つけて、自分の体温を感じて、生きてるって叫んでやる! あたしは、此処にいるって、叫んでやるんだからぁ!」

 ――月曜の朝の朝礼で、手首をかき切った少女、加東あゆみ。


「二十七歳。これがロック少年にとってどんな意味合いを持つのか、お前ら知ってるか?」

「死んで伝説になりたかったんだ。でも、無理だった。無理だったんだよ」

「俺に、この部活の顧問を、やらせてもらえないか?」

「結局俺はさ、諦めてしまった人間なんだよ。そういう反抗心に、妥協を挟んでしまった人間なんだよ。自分の若さに、折り合いをつけてしまった人間なんだよ」

「それはいい歳のオトナからしたら痛々しいことなのかもしれない。でも俺にはもう出来ないことだから。だから、守らせてほしいんだよ」

「スメルス・ライク・ティーンスピリッツ」

 ――夢破れた元バンドマン。死に損ないの教師、峰畑真斗。


「なるほど、転校生美男子に潜む陰、ね」

「あ、森鴎外の高瀬舟……」

「俺はもう、目の前で死にたいみたいな顔してるやつなんて、見たくないからさ」

「ああ……、僕はただ、受け入れてほしかったんだ」

 ――母の自殺を目の前で〝見届けた〟少年、林倫太郎。


 唯に触れ、変わっていく人たち。


「見て見てぇ! 自殺部マスコットキャラクターすーさくん!」

「……血入りバレンタインチョコレート……?」

「ちなみに私は脈無しだ!」

「何よこのっ……アホガセ!」

「低俗な罵倒ね、あなたの人間性の浅さが透けて見えるようだわ」

 日常。


「同じクラスだな、三原」

「我々自律支援考察同好会は、より善い生、よりよい学生生活を追及するため、日々議論を重ねています」

「三原、お前も案外授業中読書したりとかするんだな」

「青木くん……一緒に部活、行こ」

 進級。


「部誌を作るわ」

「自殺未遂者インタビュー⁉」

「メンへラポエムは掲載を拒否します」

「新聞部頼もしいな……」

「見せつけてやろうじゃない、『死を想う』ってことを」


「天ヶ瀬……お前これ、本気か?」

「いいじゃねぇか、気に入った! 最高の舞台にしてやろうぜ!」

「メメントモリ・エンターテイメント!」

「みんな頑張ってくれているのに私だけ何もしないだなんて、部長失格じゃない」


「えー、あー、今日は、軽音楽部や文化祭担当の先生方に無理を言って、この機会を設けさせていただきました。ありがとうございます」

「スメルス・ライク・ティーンスピリッツ」


「嘘だって、言ってくださいよ……先生!」

「死にてぇなあ」

「死にます、さようなら」

「成仏ぅ?」

「妹が幽霊に……? ――こんな大変な時に……頭おかしいこと言わないで!」

「ああ、そうかぁ。分かったよ、私、ほんとはさ、生きて、いたかったんだ。

 そんなことに、死んでから気づくなんてさ、皮肉な話だよね」

「あなた……。授かったわ、私たちの子ども」


「この物語はフィクション――けれど、でもきっと、この世界の何処かに、確かにある物語」


「自己満足、今はそれでいい。あわよくば誰かに伝う、そんなことを願いつつ、ね。

 でもその自己満足の先に、変わる何かがあるのなら――私は簡単に満足したりしない。その満足のハードルを、手の届く場所に置いたりはしない」


「メメント・モリ――!」

 学園祭。




 そして――――…………



「私は許さない。人の死をあんな風に扱うことを。

 私は許さない。大切な人の死を、踏みにじることを」



「胡那多です。平井胡那多。一年六組です」


「何だこの惨状……ああっ、部訓がっ!」

「そんな……酷い、私たちの……部室が」

「先輩……っ!」



「私の兄、佳那多は、三年前の夏――――」



『自殺について 一年六組一番 青木和海』


「私はね……作家になりたい。だって私は、青木くんが認めてくれた〝文学少女〟だから。

 大切なこの日々の中で思ったこと、感じたこと、ちゃんと形にして残しておきたいから。

 私は此処にいるよ、って叫びたいから」


「あなたが今私たちに向けるそれは、あなたの大切な人を屋上に向かわせたそれと、一緒なのではないのかしら?」


「止めるなぁッ! 貴様らに誠実さがあるのなら! 真摯さがあるのなら! 自分をマトモな人間だと思うのなら! 唯ちゃんの話を最後まで聞けぇッ!」


「もしもそれが、思春期に発症する一過性の病のようなものであれば、悩み続けなさい。悩み、苦しみ抜きなさい。そして、必ず生き残りなさい。何がなんでも生き延びなさい。そのためになら、いくらだって、どこまでだって、世界の果てまでだって、逃げていい。その果ては、やがて始まりになるのだから」


「苛まれる青春にも、きっと意味はある」


「それでも生きるしかないの」


「それは諦観じゃないわ」


「善き生を」


「死を想え」



 死を想う、青い春。



「私は、此処にいる」


     自殺部 天ヶ瀬唯は死を想う

     (続編執筆未定)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自殺部 天ヶ瀬唯は死を想う 蒼舵 @aokaji_soda

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ