最終章 菫(すみれ)色と魂のクオリア PART11 (完結)
11.
神父が声を上げると共に二人の誓いが始まった。水樹と風花を祝福するように皆、姿勢を正して耳を澄ましている。
……よし、行くかっ!
火蓮は美月に目で合図をした。
美月は左頬を上げ、ウインクで返事を返している。彼女が左手を動かした時に薬指からルビーの光が目に飛び込んできた。
目を閉じて、微かな『風』を感じるように耳を澄ませた。
胸に手を当て、静謐な『林』を想像し鼓動を落ち着かせる。
今からここは聖火台に変わるのだ。会場にいる新郎新婦を含めた全ての人間を、暖かい『火』で包み込んでみせよう。
……風花。
お前、一つだけ俺に『嘘』をついてるよな。
俺が母さんの魂だってことはわかっている。ポーランドに行った時に、ポーランド語を聞いたこともない俺が現地の記者の喋っている言葉を理解していたんだからな。
だけどな、一つだけ譲れないことがある。
このタクトは間違いなく俺の物だ。クオリアを証明できなくても、あの時に見た夢は俺自身のはずだ。
――お母さんに教わって作ってみたの。下手だけど、喜んで貰えると思って。
――その木ね、お母さんと同じ名前の木だから、愛着が沸いちゃった。大事にしてよね。
――ごめんね、火蓮。私、振られても、やっぱり水樹のことが――
……でもこのままでいい。
俺の名は火蓮、俺の使命は二人を守ることだ。
過去からは逃げない、動かざること『山』の如しってな。
火蓮は勢いよく右手を天へと掲げた。
それと同時に、楓の木で出来たタクトを勢いよく振り降ろした。
長編小説2 『魂のクオリア』 くさなぎ そうし @kusanagi104
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