第2話

生まれ育った家から車で3時間。彩芽は目を覚ました。移動の際は必ず車が必要になりそうなほどの田舎だった。彩芽の住んでいた場所も田舎であったが、これほどではなかった。灰色と緑が入り交じった世界が3時間後には緑一色に変わったことに、彩芽はシャッターを切る。

「彩芽ちゃん。役場に行って手続きをしてくるから。この辺好きに見てていいよ。あまり遠くに行かないようにね」

「はい……!」

すぐに彩芽のカメラのデータが緑で埋まった。田んぼ、民家、車があまり通ることのない道路。今までと似た景色を見ても、彩芽には新しく感じた。目を輝かせるには充分であった。


そう。一面緑。彩芽の両親が死んでから半年が経っていた。1年で2回目の地獄の釜が開く日。蝉の声が五月蝿く鳴り響く夏。彩芽にとっては長くも短い半年だった。決心はしたが、心の整理は完全ではなかった。49日の間は学校に行ったり、この家が帰るべき場所である、いつも通り生活がしたい。それが彩芽の願いだった。その後、恩師や友人との別れ、手続き、遺品整理等でかなり多くの時間がかかった。しかし、そのかいあってしっかりと整理をつけ、今こうして熱いアスファルトを踏みしめている。胸元には母の形見である赤いポイント水晶のようなもの。彩芽にはこれが石であるか他の何かであるかは分からない。けれどどこか不思議なものを感じた。

これを私に渡す時、お母さん何て言ってたっけ。

そう思いながら木に止まる蝉を撮る。すると蝉は力なくアスファルトの上に落ちた。

「そろそろ戻ろう」

暫く蝉を見下ろしてそうぽつりと呟き、踵を返す。その時ふと、山の一部が気になった。あそこに何かある、と。

緑が赤に変わってきている。彩芽はほんの少し青く光る胸元のそれを揺らしながら、黒い髪をなびかせ小走りで叔父の元へ向かった。




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朱崩れ 桜下 @AyaKuzuRescope

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