朱崩れ
桜下
第1話
葬式だ手続きだ遺産だと親戚が話しているのを彩芽はただ部屋の隅で聞いていた。悲しみなのか寂しさなのか、彼女にも分からない。周りも自分の心もピントが合わない。そのような感覚だった。
「彩芽ちゃん。だね?」
ゆっくりと視線を向けると、そこには父、いや、母よりも少し若い男性。
「誰ですか?」
普段ならもっと使える敬語を発揮することなく、初対面の男性に問いかける。
「僕は君のお母さん、
にこやかに叔父だと語る男性に、彩芽は親近感が湧きつつも、どこか警戒をする。
「……そうだよね。君のお母さんは長らくこちらとは疎遠でいた。君が村のことを覚えていないのも無理はないだろう」
「……覚えていない?」
覚えていないも何もそんな村、名前も知らないと彩芽は顔で表す。
「んー……まぁ覚えていないよね。君まだ小さかったから」
澄人が困った笑顔言うのに対し、少し苛立つ。
「さっきから何が言いたいんですか?」
遂に少し嫌悪感のある言い回しをした。しかしそれを気に止めず、彼は言った。
「そうだね。率直に言おう。彩芽ちゃん。箒村に来ないかい?」
「は……?」
彩芽が驚いているのに気づきながらも話を続ける。
「今、君を誰が引き取るかという話になっている。君が嫌でなければ、僕の村、家に来てくれないかと思ってる」
「……何か狙いがあるんですか?……私を引き取るのに何のメリットが?」
皮肉ではなく、単純な問が口から零れた。可愛くない。彩芽自身もそう感じていた。その問に笑顔で澄人は答える。
「メリット……。僕に娘ができる!……かな?あはは あ!変な意味には捉えないでくれ。いや、ね?僕には妻はいても子供がいないんだ。姉さんの娘さんを奪うようで少し気が引けるけど、妻とも話し合って、今こうして彩芽ちゃんと話してる」
困った笑顔をしているが、目は真剣で、彩芽は先程のような苛立ちを感じなかった。
家の中なのにまた頬が濡れる。両親の死による悲しみか叔父の優しさのせいなのかは分からない。しかし、彩芽は決めた。
「よろしくお願いします。お世話になります。叔父さん」
そう笑顔を澄人に向ける。澄人が彩芽の頭を撫で、いつの間にか澄人の後ろにいたその妻であろう女性が抱きしめた。
暖かい
冷えた指、制服ごしに感じるぬくもりにまた涙した。そして、この日1番、大きな声をあげ、泣いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます