第8話  闘魂!? 悪の幹部だゲハラドさん! 後編



「……お嬢ちゃん大丈夫かい?」

「あっ、やっ、見ないで……」

「これを着て。私の背広ジャケットで悪いけどね」

「……ありがとうございます」

「けれどこれじゃあんまりだ。そこのホテルでお着替えしよう」

「えっ…… ですけど…… そこはラヴホテルじゃ……」

「違うよ? 全然違うよ? あれはブティックホテルさ」

「ブティック……ホテル」

「そう。ラヴホテルじゃないから安心だよ?」

「そ、そうですか……じゃあ」

「さぁ…… いこうか……」


(ブティック…… ホテル……)


 初めての経験に驚くものの、簡単に入室を済ませた私は今、バスローブを着てベットに腰掛けていた。全裸でストリートにいた私に背広ジャケットを掛けてくれた優しいおじさんは今、シャワーを浴びている。


(助かった…… 本当に…… 良かった…… はぁ……)


 私は突然の出来事から救ってくれた、優しいおじさんに感謝した。そしてこれからの事を考えていると、そのおじさんがシャワーから出てきた。


「落ち着いたかな?」

「はぃ…… ありがとうございます」

「驚いたよ…… まさかこのような所に天使が舞い降りているなんて…… ね?」

「えっ?」

「ははっ ささっ 君もシャワーを浴びるといい。気持ちが穏やかになるよ?」

「え? あ、はい……」

「着替えはこれね。この中にあるから」

「何から何までありがとうございます」

「ナニも気にすることはないよ…… さぁ、ゆっくり湯浴みしてきなさい」

「はぃ」


 おじさんに勧められるままシャワーをする。髪を濡らすと乾かすのが大変なので、髪をアップして濡れないようにする。


(ふぁ…… 気持ちいい……)


 煌びやかな内装。まるでラヴホテルのような感じもした。


(けど…… おじさんはブティックホテルっていってたもんね…… ラヴホテルじゃないよね?)


 うん。と自分とおじさんを信じるように身体を清めていく。おじさんが言った通り、気持ちが穏やかになる。


(けど…… どうして…… オデさん……)


 私は悲しみに囚われていた。何故なら愛車のママチャリのマーちゃんのハンドルが、ヤンキー仕様のアップハンになってしまったから。


(ハンドルを上にされただけじゃなくて…… 完全に内側に絞られて…… うぅ…… むしろ鬼の角のようなハンドル……)


 私は悲しみのあまり、シャワーを浴びながら床に膝をついて泣き出してしまった。嗚咽がこの室内をこだまする。


(いつまでもこうしてられない…… 早くマーちゃんを回復させてあげないと……)


 シャワーを止めてバスタオルで身体を拭き上げる。大きな大きな鏡に映る自身の身体。確かに同世代に比べて乳房は大きい。けれど背は低い。本当に小柄だった。あまり長く見ていても悲しくなるだけだったので、おじさんが渡してくれた服を着ることにした。


(えっ? これって?)


 確かに服は入っていた。だが下着はない。このままおじさんから渡して貰った服を直に着て良いのか判断がつかなかったが、また裸にバスローブで出て行くのも恥ずかしかったので、そのまま着ることにした。


「お、出てきたね…… うぉう!? 眩しいっ!?」

「えっ!?」

「最高だよっ!? 最高の存在だよっ!? 君はっ!? 誇っていい!」

「は、はぁ……」

「君は女子中学生だね? しかも二年生?」

「は、はい」

「やはり…… わたしの目に狂いはなかった…… 長年の夢が…… うぅ…… ありがとうっ! ありがとうございますっ!?」

「い、いえ…… こちらこそ……」


 おじさんは感動したように涙を見せ、それを隠すことなく前面に展開していた。そしてその私は何故かおじさんが所有していた、男子学生服を着ている。学ランだ。


「そうだ…… 済まないがこれも付けてくれ……」

「えっ?」

「頼む!」

「は、はい」


 そうして私は一つの品を装備する。それはハチマキだった。色は白。ここでも白なのかと思いたくなったが、オデさんの事を思いだして泣きそうになるので、考えるのを止めた。


「ハッラッショー!」

「は、はぁ」

「応援されたいっ!? 応援されたいよぉー!?」

「あ、あの~?」

「も、もう…… が、我慢出来ない……」

「えっ!?」

「行くぞ~!?」


 すると、おじさんが強引に私の手を掴み引っ張る。そのまま押し倒されるような勢いでブティックホテルを後にした。


「あの…… どちらに……?」

「自宅だ」

「えっ?」

「その服を返して貰わなくてはならないね?」

「は、はい。もちろんです」

「そして、記録媒体に情報を残す必要があるね? 高クオリティな機材をもって?」

「え、は、はい」

「なら付いてきなさい」

「は、はい」

「ティクシー! ヘイ! ティクシー!」

「どちらまで?」

「ここだ。超特急で。金額は増し増しする」

「よろこんでっ!」


 完全に法の外である速度を出しながら、首都高速まで利用しおじさんの家へと向かう。なんだか見慣れた風景になってきたので、地元の近くかもしれない。


「運転手さん。アスリートはコーナーリングいいね」

「これ乗ったら、他の車じゃ個人タクシーやれないね~」

「すっごい早いですけど…… なんだか安定していますね……」

「分かるかい嬢ちゃん? このコーナーの多い首都高でもしっかり踏ん張ってくれるのさぁ~ こいつは最高の愛車で最高の相棒パートナーさ」

相棒パートナー……」

「どうしたの?」

「嬢ちゃん?」

「私…… 愛車を…… 勝手にカスタムされたんです…… しかも…… ヤンキー仕様に…… うぅ……」

「そうだったのか……」

「嬢ちゃん。私も昔ね……愛車であった単車をパクられたのさ……」

「えっ?」

「大事に大事にしていたんだけどね~ 一ヶ月後に河原に捨ててあったよ。警察が発見したんだ」

「ヒドい……」

「しかもフルチューンされて戻ってきた。けど、どうしても他人が乗ったってのが気に入らなくてね…… 悪い事をしたよあの単車には……」

「運転手さん……」

「嬢ちゃん? もう愛車には愛はないかい?」

「え……」

「もし愛があるなら…… 直して大事にしてやりな…… 俺には出来なかったし後悔もしている……」

「はぃ…… うぅ……」

「これを使いなさい」

「ありがとうございます…… うっ……」

「流石はマスターズの運転手さん。女性の扱いもマスターズですね。ハハッ」

「よせやい。俺はしがないドライバーよ」

「あの…… マスターズってなんですか?」

「優良個人タクシーの運転手って事だよ。屋根の上に星が三つ付いてたら優良運転手のハイエンドだね」

「たまたま運が良かっただけさ~」

「運の良さは必要ですよ」

「ははっ 慢心せず前進するよ~」


 そうして窓から見える夜景は、最初に見た時より輝いて見えた。それは運転手さんと助けてくれたおじさんの心遣いのおかげだろう。


「嬢ちゃん負けるなよ? グッドライフ!」

「グッドドライヴ!」

「ありがとうございました」


 そうして鬼のような加速は見せず、指さし呼称しながら市街地を走り去る個人タクシーの運転手さん。そして目の前には綺麗な一軒家があった。


「さぁ入ろう」

「はい」

「待つんだエロ!?」

「エロちゃん!?」

「ほう?」

「麗華ちゃん!? 離れるんだエロっ!?」

「ど、どうして?」

「そいつは秘密結社サイアークの幹部の一人…… ゲハラドだエロっ!」

「えっ!?」

「バレてしまっては仕方ない…… そうだ…… 私がゲハラドだ……」

「そ、そんな……」

「そいつは本当に捕まった事があるエロっ!」

「ふん。だがここは自宅前…… ちょっと歩こう……」

「そんな奴の話を聞く必要はないエロ! 行こうエロ!」

「でも…… 私……」

「さぁ……」


 結局、ゲハラドさんに付いていく私とエロちゃん。エロちゃんは私を心配してくれているが、どうにもこの人が悪い人とは思えなかった。


「ナニから話そうか……」

「どうして…… 捕まったんですか……?」

「許せなかった……」

「ゆる…… せない……?」

「私はこれでも家族持ちでね。色々と苦労はしてきた。その中で転職に失敗し、無職だった期間があったんだ」

「はい」

「そんな時にハローワークに行った。そうして…… くっ…… 奴らは…… いや…… 受付の一人だったのかもしれない…… それを置いていたのは……」

「いったい何を置いていたんですか?」

「ハローワークの受付に…… クマのプーさんを置いていたんだ……」

「それで激高したんだエロ」

「えっ!?」

「ハローワークに行く人全てが有職であるとは限らない。むしろ私のように無職で仕事を斡旋してもらおうとする人が多いのではないのかっ!? それなのに…… あのような仕打ちを…… うぅ……」


(ショックだったのかなぁ…… 私には就労の経験がないから分からないよ……)


「初回という事で放免という事にはなったが、それからさ…… この世界を憎むことになったのは……」

「そうでしたか…… それと、ゲハラドっていうのは?」

「どうしても何もそいつ見れば分かるエロ。カッパみたいにハゲててラードを塗ったように脂ぎってるエロ。ゲーハーのラードでゲハラドだエロ!」

「……」

「エロちゃん! ヒドい事を言わないで!」

「ヒドい事も何も事実だエロ」

「けど……」

「そう言った偏見も含めて復讐に走った男だ…… だが一つだけ言っておこう魔法少女よ…… そのカッパには気をつけなさい……」

「えっ!?」

「な、何を言うんだエロっ!? れ、麗華ちゅわん!? こ、こんな悪人の声に耳を傾ける必要はないエロ!」

「今夜はもう遅い。その服は絶対にクリーニングしないで、そのまま返してくれ。では……」


 そうしてゲハラドさんは、頭を月明かりに照らされながら自身の行く道を輝かせて行くのであった。





★ 次回  真実!? ヤンキー魔法少女!  前編 ★

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