第6話  闘魂!? 悪の幹部だゲハラドさん! 前編



「ただいま~」

「お、おかえりエロ……」

「?」

「な、なんでもないエロ……」


 自室に入る前に何やら物音が聞こえていたが、いつもと変わらない私の部屋だった。なんだか挙動不審なエロちゃんを見ながら、自室に戻って来れた事を嬉しく思う。学校は嫌いではないが好きでもないからだ。


「今日はどうするのエロちゃん?」

「パトロールだエロ!」

「どこに?」

「駅エロ!」

「駅?」


 言うが早く自宅を出ようと一緒に階下へ向かう。するとエロちゃんがまたもや硬直する。私のお母さんがいたからだった。


「……動いてなかった?」

「そう?」

「(……)」

「動いてたわよね?」

「ぬいぐるみだよ?」

「……疲れてるのかしら」

「ゆっくりしたら? ちょっと出かけてくるね?」

「……気をつけてね」


 いつも通りお母さんと、お話してからエロちゃんを救い出す。そのまま自分のバックに入れて玄関を出る。息苦しそうなので、顔だけ外に出してあげたのはいつもの事である。


「危なかったエロ……」

「自信満々に歩いてたけどね……」

「麗華ちゃんのお母さんは鋭いエロ……」

「鋭いのかなぁ?」

「それに息を吐くように、嘘をつく麗華ちゃんに驚いたエロ。悪女だったエロ」

「……悪女はやめて下さい」


 エロちゃんに言われるがまま、JRの駅へと向かう。


「ここの駅でいいの?」

「私鉄が入ってる駅まで行くエロ」

「どっちの駅?」

「こっちエロ!」


 電子マネーで支払いを済ませ目的の駅へと一駅。流石に電車の中では静かにしているエロちゃん。


(目立ちたくない…… けどエロちゃんと喋ってる所を見られたら…… うぅ……)


 気を使ってくれたのか、目的の場所までは大人しいエロちゃん。人気のいない場所を探しエロちゃんに声を掛ける。


「……それで、どうするの?」

「奴はここで悪事を働いているエロ」

「ここで?」

「そうエロ」


 ここは私鉄の改札付近。だが一目見て分かるあの格好のサイアークさんがいた。何回も改札に行くが中には入らないようだ。


(というか…… すごい邪魔になってる……)


「ああやって区民の通行を妨害しているエロ」

「そうなの?」


(あ…… こっち来ちゃった…… 恥ずかしい…… うぅ……)


「この私、サイアークの行動を読むとは……流石はカッパのエロ」

「(……あの娘の知り合い?)」

「(……不審者にからまれてるだけじゃないの?)」


(うぅ…… 帰りたいよぉ……)


「そうエロ! お前なんかに負けないエロ!」

「ちょ! エロちゃん!? あまり大きな声ださないでっ!?」

「(なにあれ……撮影?)」

「(ただの変態でしょ?)」

「変態ではないっ!? 秘密結社サイアークの首領ドンであるサイアーク様だっ!」

「「 ひっ!? 」」

「全く……」

「あ~ ちょっといいかな? 君? さっきから改札付近で不審な動きしてたけど?」

「え……」

「まぁ、立ち話もなんだし、すぐ下に交番あるから……ね?」

「(バッ)」

「あっ! こらっ!? 待ちなさいっ!?」

「また会おうぞ!? 魔法少女よっ!?」

「(魔法少女? なにあれ~)」

「(あの地味な娘が? 魔法少女?)」

「(この辺り、あの専門学校もあるし、そういったお店あるからコスプレじゃない?)」


(いやぁーーー!?)


 そうして居たたまれなくなった私は全力でその場を去った。


「屋上は気持ちいいエロね~」

「……」

「き、気持ちいいエロ~」

「……」

「げ、元気出すエロ~」

「……」


 私たちは駅ビルの屋上にいる。周りにはチラホラと人がいるが、私たちは端っこに陣取り目立ちたくないアピールをしていた。


「……もういや」

「あ、諦めては駄目エロ……」

「地元直結の駅じゃないけど…… 学校の誰かに見られてたら…… 私…… うぅ……」

「れ、麗華ちゃんエロ……」

「待たせたな」

「「!?」」

「え…… あなたは……?」

「も、もしかしてエロ……」

「サイアークだ」

「「!?」」


 先ほどのような怪しいいつもの格好ではなく、清掃作業員のような出で立ちだった。いくつかの清掃道具を所持しており、それこそが正装であるかのような美しさもあった。だが、一番驚いたのはその素顔だった。


(あの仮面舞踏会でするようなマスクしてない…… ちょっと素敵なおじ様って感じがする……)


「ここではなんだ。あの中で話そう」

「え……」

「あ~ 乗ってみたいエロ!」


 サイアークさんは私たちを先導するように、屋上へ設置された小さい小さい観覧車へと進んで行く。


「三百円持ってる?」

「はぁ」

「三百円も持ってないエロ!?」

「し、仕方ないだろ…… 色々と出費があって火の車なんだ……」


 仕方なく私の少ないお小遣いから、二人分になる六百円を支払い、係員の誘導に合わせて中に入る。


「乗ってみたかったんだ。ありがとう」

「はぁ」

「この中なら自由に話せるエロ!」

「あの~?」

「なんだ?」

「改札付近で何をしていたんですか?」

「あぁ。忙しそうなサラリーマンの前に無理くり入って、入金のない電子マネーカードを改札機に読み込ませる仕事だ」

「はぁ」

「……何やってるエロか」

「するとどうなると思う?」

「改札は開きませんよね?」

「そうだ。するとサラリーマンは舌打ちをする」

「はぁ」

「馬鹿エロ」

「馬鹿ではない。そういった事を繰り返す事により、苛立ちを募らせたサラリーマンがこの日本社会に牙を剥く! そうして行き着く先は、この秘密結社サイアークの戦闘員となるのだっ!」

「……」

「……」


(え? なるの?)


「あぁ~ 良い景色エロ~」

「なんだか新鮮だね~」

「「ね~(エロ)」」

「話を聞けっ!?」

「麗華ちゃんに奢ってもらってる、情けない秘密結社の首領ドンは黙ってるエロ」

「なっ!?」

「だいたい、もし不満を募らせても絶対お前の所なんかに行かないエロ。一度でも就労という社会の荒波に揉まれてみれば、そういった間違いも起こさないエロ」

「なっ!?」

「あ…… もう下に着いちゃうね」

「あ~あエロ お前のせいで半分も楽しめなかったエロ」

「くっ」


 観覧車に入る時と同じように、係員の誘導に従い下車する。微妙な感じがするまま屋上へと降り立つ。


「また今度乗ろうかエロちゃん?」

「気に入ったエロ!」

「……」

「お前は絶対乗せてやらないエロ」

「なっ!?」

「当たり前エロ。三百円も持ってないクソのような秘密結社の首領ドンとなんて乗りたくないエロ」

「き、貴様ぁ~!? クソだとぉ!? この私を愚弄しおったなぁ~!?」

「さっ 麗華ちゃん行くエロ」

「う、うん」

「逃がさんっ! 特別秘密空間魔法式発動!」

「「えっ!?」」


 歪んだ。世界が。そのまま歪む。身体がタコやイカのような軟体動物になったかと思うようなうねりを見せる。そのまま意識も飛びそうになるが、その刹那に身体がその空間へと落ちる。


「あっ!?」

「あべぇ!?(エロ)」

「ご、ごめん。エロちゃん大丈夫?」

「……もっと違う時に密着したかったエロ」

「え?」

「……なんでもないエロ。意識が混濁してるだけエロ」

「ここは?」


 みるからに採石場な場所だった。だが見渡せる場所を越えると、先ほど体験したような歪んだ世界がある。


「このサイアークの魔法はいかがかね?」

「お前っ!? 禁止項目に触れてるエロっ!?」

「禁止項目?」

「こういった空間を操る魔法は不安定な為に、法律で禁止されてるエロ」

「私なら大丈夫だ。何せ新世界の淫獣ズーキーともコンタクトに成功したことがある」

「なっ!? それは本当エロか!?」

「いんじゅう? ズーキー?」

「数々の淫獣王をすらも敬遠するという淫獣ズーキーは恐れられる存在エロ」

「そうなの…… 恐いね……」

「そうエロ! そんな簡単に空間をいじってはいけないエロ!」

「ふふっ ははっ はぁーはっはっはっ! お前がそれを言うかね?」

「……」

「エロちゃん?」

「まぁいい。ここなら邪魔は入るまいて。召還! ゲハラド!」

「なっ!? 幹部のゲハラドを召還するエロかっ!?」

「ここで倒させて貰うぞっ!? ヤンキー魔法少女よっ!」


 しかしいつまで立ってもそのゲハラドさんは現れない。私はこの特別空間を見渡してみたが、それらしき人は存在していなかった。


「おいっ!? ゲハラドっ!? 何しているっ!?」

「あ~ すいませんね。外回りの営業入ったので…… また……」

「マジ?」

「マジですよ」

「そ、そうか。頑張ってな」

「はい。すいません。それでは行ってきます」

「……」

「……」

「……」


(仕事って大変だね……)


「召還っ!? 戦闘員ニーターくんっ!? 君たちだけが無職だっ!?」

「お前も変わらないエロ」

「うるさいっ!?」


 ようやく声に応じられたのは、いつもの四人組である、ニーターさん達だった。


「シンシ! チョリ! バグ! オデ! ヤンキー魔法少女を倒すのだっ!?」

「「「「 ニー!!!! 」」」」





★ 次回  闘魂!? 悪の幹部だゲハラドさん! 中編  ★





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