第3話  無職!? 悪の手下のニーターくん!



 昨日初めて会った悪の魔法士サイアークさん。私たちは彼に指定された場所へと律儀に赴いている。実はサイアークさんとの戦いが、これから待っているのである。


「このあたりは風が気持ちいいね」

「気持ちいいエロね」


 私たちは自転車で、隣接する区内の埠頭にある公園へと向かっている。快適な旅を保証する私の愛車の「マーちゃん」。マーちゃんはいわゆるママチャリだけど、カジュアルな見た目なの石橋さん製。


「この辺りなの?」

「あそこエロ」


 近くの道路には大きな車がいっぱい走っていているが、この公園にはあまり人がいないようだった。見回しても公園付近に路上駐車している人たちが、まばらにいるだけ。


「さぁ行くエロ」

「……うん」


 これからどうなるのかもよく分からないが、助けてもらった恩がエロちゃんにはあるので、エロちゃんと一緒に公園内に入っていく。


「いないね」

「……出てきたらどうエロ?」


 すると、近くにあった公衆便所からサイアークさんが一人出てくる。以前と変わらない格好で、タキシードのような服にマントとハット。そして顔には秘密の舞踏会でするようなマスクをして、ステッキを装備している。公園は砂利の広場があり、木々に囲まれている。その木々の向こうに見えるのは東京湾。そして大通りと合わせて高速道路から聞こえる車の走行音。


「待っていたぞ」

「便所でエロか? おおかた拾い食いでもしてお腹壊したんでエロ」

「なっ!?」

「大丈夫ですか?」

「し、心配はいらない。そのエロが適当な嘘をついているに過ぎない」

「何が嘘エロか。立ち上げた清掃会社は上手くいかない。そして騙されて購入した会員権のフルローンの支払いに困窮して飯も食えてないエロ」

「……」

「……」

「……会員権ってなにエロちゃん?」

「後で教えてあげるエロ」

「それは秘密だといっただろう? カッパのエロよ?」


(会員権も気になるけど、お腹は大丈夫かな?)


「ふっ。この秘密結社サイアークの首領ドンであるサイアークが、この世界を支配すればフルローンなど気にする事もない」

「ついに本性を現したエロね! そんな事は許さないエロっ!」

「あの~?」

「なんだ?」

「世界征服をするつもりなんですか?」

「そうだ。この停滞した世界を救うには、私が支配者となって民を導く必要がある」

「何が支配者エロ! お前になんか世界征服どころか、この日本だって征服出来ないエロ!」

「ふふっ ははっ はぁーはっはっはっ!」

「何がおかしいエロ!?」

「その通りだ」


(認めちゃうの? サイアークさん?)


「現時点では金銭的な理由により世界征服はおろか、日本征服も難しいだろう」

「馬鹿エロ。素直に認めたって許さないエロ」

「愚かな。誰が諦めていると言った? まずは東京! ……も難しいだろうから、区内征服から始めるっ!」

「区内征服ですか……?」

「そうだ魔法少女よ! 私の住んでいる品川区からだっ!」

「はぁ」

「品川駅の存在しない品川区など恐るるに至らん! 秘密結社サイアークはまず、品川区より全世界を支配する事をここに宣言するっ!」

「ついに宣言したエロね!? もう言ってないじゃ済まないエロよ!?」

「あの~?」

「……なんだ? 魔法少女よ?」

「品川駅って品川区にないんですか?」

「そうエロ。港区だエロ」

「へぇ~」


 感心するように頷く私。住んでいても知らない事がいっぱいあるんだと再認識した日でもあった。


「もう戦うしかないエロ」

「もともと私たちにはその選択肢しかないだろう」

「そうエロね」

「そうだ」

「……」


(どうやって戦うんだろうサイアークさん? もしかして凄い強いのかなぁ? だとしたら恐いなぁ…… 優しくして欲しいけど、戦いだもんね…… はぁ……)


「その前に一つエロ」

「なんだ?」

「どうしてこんなところに呼び出したエロ」

「ふっ」

「何がおかしいエロっ!?」

「知れたこと…… 近くの公園では警察に捕まる可能性を否定出来ない。だがここなら安心だ。少し前に撮影許可という形で申請を出している。本日に間に合って良かった」

「……よく通ったものエロ」

「……捕まりたくないからな。……真剣に考えた」

「けどエロ。こういった申請は警察署で行うんじゃないんだエロか? その時に捕まれば良かったのにエロ」

「詳しくは知らんが、都内の海上公園なら管理先への申請になる」


(警察には勝てないんだねサイアークさん)


「馴れ合いはここまでにしておこう……」

「そうエロね……」

「……」


 サイアークさんがこちらを一瞥する。エロちゃんが私の手を引き距離を取ってサイアークさんと対峙する。特撮ものなら絵になる状況かもしれなかったが、私は近くに人がいない事が本当に嬉しかった。


「エロちゃん?」

「どうしたエロ?」

「変身するの?」

「待つエロ。何か隠しているエロ」

「ふふっ。流石はカッパのエロ。見破られたか…… 出てこいっ! 秘密結社の戦闘員ニーターくん!」

「「「「 ニー!!!! 」」」」


 またもや公衆便所から出てくる、秘密結社サイアークの戦闘員ニーターくんと呼ばれた者達合計四人。彼らは白いマスク風にTシャツを上手く利用し、顔を隠していたが目だけは見えている。上半身は裸で、白いホットパンツに白いサスペンダーを付けていた。そして白い上履きに白いハイソックス。


(え……?)


「ふふっ ははっ はぁーはっはっはっ! 見よっ!? これが秘密結社サイアークの戦闘員ニーターくんだっ!」

「(あ、あの娘…… や、ヤバい…… 向かいの家の娘だ…… バレたら……)」

「(知り合いっすか? 地味そうですけど可愛いっすね?)」

「(……)」

「(オデェ!? 女子中学生オデェ!?)」

「お前達っ!?」

「「「「 ニー!!!! 」」」」

「私語厳禁だっ! 契約書にそう書いてあっただろう!? ニー! 以外は喋ってはならんっ!」

「「「「 ニー!!!! 」」」」


(え……?)


 明らかに私の許容範囲を超えた敵キャラがそこにいた。体格もまばらで一人はお相撲さんのような体型。一人は小柄で吹けば飛びそうな雰囲気。残りの二人は身長こそ違うもの、がっしりとした体つきではなかった。


「戦闘員を出してくるとは…… 今日は本気エロね?」

「こちらはいつでも本気だ。だが警察という鎖から解き放たれた今っ!? 私たち秘密結社サイアークが、品川区征服に乗り出す時が来たという事だっ!」

「この埠頭公園は品川区じゃないエロ」

「……」

「……」

「ふんっ。平行線のようだな」

「平行線もなにも触れ合いたくないエロ」

「ならば先手必勝! ゆけっ! 戦闘員ニーターくん!」

「「「「 ニー!!!! 」」」」


(え……?)


「(ヤバいって!? あの娘に身バレしたら俺通報されちまう!?)」

「(パイセン大丈夫っすよ! 顔隠してるから分からないっすよ!?)」

「(…………っ)」

「(オデェ!? 本物の女子中学生オデェ!?)」


 一向に襲いかかって来ない戦闘員のニーターくん。でも私は本当に助かった。何故なら、思考が停止しそうだからである。


「エロちゃん……」

「なにエロか?」

「あれ…… 敵なの……?」

「そうエロ!」


「(けど雰囲気とかって伝わるだろうっ!?)」

「(う~ん。そうっすねぇ~ まぁ、バレる時はバレるっすよ!?)

「(……………バタン)」

「(オデェ!? 一人倒れたオデェ!?)」


 話し合いをしていた戦闘員ニーターくんの、一番か弱そうな彼が一人その場に倒れる。


「(おいっ!? 大丈夫か!?)」

「(大丈夫っすか?)」

「(オデェー!?)」

「(ひ……)」

「(ひ?)」

「(ひ、人と…… 話すの…… ひ、久しぶりで……)」

「(そ、そうか…… 無理するな……)」

「(そうっすよ! 無理したら駄目っすよ!)」

「(ひ、引きこもりで…… い、家から…… 出て…… 恐くて……)」

「(オデェ!? 大丈夫オデェ!? 一緒にいるでオデェ!?)」

「(あ、ありがと…… ほ、ホントに…… うぅ…… 恐い…… 恐いよぉ……)」


 倒れた一人を優しく見守る残りの三人。何かを話しているようではあったが、こちらにまでは聞こえてこない。


「あいつらはなんなんだエロ」

「……敵なんだよね?」

「……自信なくなったエロ」

「サイアーク? あいたらはどうしちゃったエロか?」

「人生生きていれば色々とある。私も彼らとなんら変わりはない。だからこそ、戦闘員として雇ってやったのだ」


 そうしてサイアークさんと一緒になって彼らを見つめる私たち。


「(ご、ごめん。ぼ、僕は、う、うまく話せないんだ…… ご、ごめん)」

「(気にするな)」

「(そうっす!)」

「(オデェ!)」

「(あ、ありがとう。こ。こんなに、や、やさしくされたのは…… いつ以来だろうか…… が、頑張って、そ、外に出て、よ、よかった……)」

「(そうだ。君が外に出たからその気持ちを享受したんだ。誇っていい)」

「(そうっすよ! こんな危ない仕事を受ける気概あるんだから大丈夫っすよ!)」

「(オデェ! 守る! オデェ!)」

「(み、みんな…… でも、まだ、恐い…… うぅ)」

「(焦らず行こう。時間はまだある)」

「(そうっす! いっぱいっす!)」

「(オデェ! 仲間! オデェ!)」

「(う、うん)」


 そうして彼らの優しい気分に浸っていた私たちは、申請した撮影時間の終了という現実をもって戦いも終了した。





★ 次回  因縁!? エロちゃんとサイアークさん! ★





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る