第4話  因縁!? エロちゃんとサイアークさん!


「本当にここに住んでるの? エロちゃん?」

「そうエロ」


 区内の埠頭にある公園で戦いもせず終了した私たちは、古めのアパートの前にいる。


「行くエロ」

「で、でも…… いきなり行って大丈夫なの?」

「安心するエロ。何かあったら変身ヤンキー魔法少女エロ」

「だ、大丈夫かなぁ」


(表札が「サイアーク」になってる……)


 そのまま二階の角にある部屋のドアを器用に開けようとするエロちゃん。だが鍵がかかっているようで開かない。


「こんにちはエロ~ あなたにプレイステーション4が当たりましたエロから、手続きにやってきたエロ~」

「……そんなので開けてくれるの?」

「マジでっ!? うっ!?」

「ほらエロ」

「ホントだ……」

「貴様…… この純真無垢な私を騙すとは…… くっ……」

「お邪魔するエロ~」

「あっ! こらっ!? 勝手に入るでないっ!?」

「ほら麗華ちゃんも入るでエロ」

「お、お邪魔しま~す」

「待っつっんっだ!? 麗華と呼ばれる魔法少女よっ!?」

「はぁ」

「……頼む。ちょっと待っててくれ」

「はい」


 そのまま鍵まで閉められて、アパートの廊下で待機させられる私。室内では何が起こっているのか、気になるような騒音がする。エロちゃんは中に入ったままだった。悠久の時間を過ごし、そろそろ家に帰ろうかと思った頃にお呼びがあった。


「どうぞ」

「あ、失礼します」


 正直、室内は汚いのかと思っていたが、それ程でもなく小綺麗にはされていた。三畳ほどの台所を抜けると、四畳半の和室が私を迎え入れる。中央にはちゃぶ台。


「緑茶です。どうぞ」

「ありがとうございます」

「茶菓子くらい出すエロ」

「なんだとぉ!?」

「(ドンっ!)うるせぇんだよっ!!!」

「ひっ!? す、すいません……」


 すると隣の部屋の住民から壁を叩かれると同時に、お叱りを受ける悪の魔法士サイアークさん。


「ま、まったく。この私にあのような言葉遣いなど……」

「しょうがないエロ。プレイステーション4が当たったなんて戯言をハガキで真に受ける馬鹿エロ」

「くっ……」

「麗華ちゃんエロ?」

「なぁに?」

「この悪の魔法士は、ハガキで来たプレイステーション4の当選を信じ切って騙されたエロ」

「なっ!? それは秘密という約束だったろう!?」

「(ドンっ!)うるせぇんだよっ!!!」

「ひっ!? す、すいません……」


 同じように叱られる秘密結社の悪の魔法士さん。なんだか可哀想な気分になる私。


「あのような巧妙な騙しには誰もが引っかかる。致し方の無い事」

「どうしてハガキごときで信じるエロ? 大体当たったなら送ってくるエロ。わざわざ呼ばれて赴かないエロ。おおかた、赴いた先で胸元が開いたお姉ちゃんに、なんでも安くなる会員券の優待割引だって言われて契約したエロ」

「くっ……」

「結局プレイステーション4は貰えず、大して安くならない会員券をフルローンで購入したという事実だけが残ったエロ。そうエロ?」

「あのような谷間に…… 勝てるものなどいない…… 目の前だぞ…… くぅ……」


(大丈夫な人なのかな?)


「ま、まぁいい。どうしてここに来た?」

「宣戦布告エロ。さっきは戦えず終いだったエロ」

「ふん。何が宣戦布告だ。奇襲万歳の間違いではないのか?」

「……言うエロね」

「……貴様が私を馬鹿にするからだ」

「……」

「……」


(険悪なムードだよ…… 帰りたい……)


「エロはお前がエロにした事を一生忘れないエロ」

「ふふっ ははっ まだ根に持っていたのか……」

「エロちゃん? 何かされたの?」

「そうエロ。こいつは魔法の国ではお偉いさんだったエロ」

「えっ!?」

「……そんなに驚かないでくれ。中学生…… それも華の中学二年生にそう言われると…… うぅ……」

「あ~ 泣かしたエロ~」

「あ、ご、ごめんなさい」

「……うん」


(本当にお偉いさんだったのかな?)


「話を元に戻すエロ。こいつは魔法の国で法律を変えたエロ」

「法律を…… 変えた……?」

「そうエロ。魔法の国では、お金の単位はマジックだエロ。その中でお札は、千マジック札、五千マジック札、一万マジック札があるエロ」

「それで?」

「なんとこいつは、二千マジック札を発行する事を決めた大悪人だエロ。そうしてその悪夢は現実化し、二千マジック札が魔法の国で発行されたエロ」

「あ、そう言えばこの世界も二千円札あったよ? 私は見た事ないけど……」

「そうエロ。見た事ないって事エロは、必要なかったって事エロ。もし需要があれば今でも多く流通しているエロ」

「……必要だったのだ」

「何が必要エロ。現に魔法の国でも、今は見かけないエロ。そのせいでエロはエロは……」


(何があったんだろ……?)


「二千マジック札のおかげで雇用が生まれたのは事実」

「なにエロ? あの二千マジック札のせいで、エロはあらゆる自販機や券売機に、[二千マジック札には対応していません]というステッカーを貼りまわる余分な仕事が増えたエロ!」

「ふん。最初はそうだったが、途中では券売機や自販機も対応し始めた」

「そのせいで、今度は新しい自販機や券売機に取り替える設置業務が、いたずらに増えたエロ!」

「ふん。魔法の国では底辺作業者だった貴様が悪いのだ」

「エロぉ……なんとか設置し終わってエロ、二千マジック札の乱は終了したかと思ったエロが、普及しなかった事による煽りを受けてエロ、自販機と券売機の設定を変えて二千マジック札を受け入れないように再設定するハメになったエロ! ふざけんなエロ!」


(苦労したんだね…… エロちゃん……)


「だがそれがどうした? 末端の現場作業員など往々にして、振り回されるもの。今までだってそうだったハズだ」

「……それは認めるエロ。けど、絶対許せない事が起きたエロ。だからエロはこうして……」

「……なんだというのだ?」

「……コンビニだエロ」

「コンビニ? この世界のか?」

「違うエロ。魔法の国のコンビニだエロ」

「コンビニで働いている時にレジでも交換したか?」

「違うエロ! コンビニで二千マジック札を使用したら…… 若い店員に偽札だって魔法警察に通報されたエロ……」

「……でもエロちゃん? 実際に流通してたんだから、お巡りさんが来ても大丈夫じゃないのかな?」

「確かにそうエロ。だけど、あの魔法警察の野郎エロが…… 持ち物検査してきやがったエロ…… そうして見つかる発禁の有害指定図書エロ…… その名も若人妻強欲ロメロ・スペシャルだエロ……」

「「えっ?」」


 エロちゃんが話し終えた後に沈黙が訪れる。この四畳半はこんなにも薄ら寒い場所であったのだろうか。


「……」

「……」


「……声も出ないエロか? お前がどんなに罪深き悪の魔法士か分かったエロかっ!? そのせいで…… エロは…… 留置されたエロ……」

「俺……関係なくない?」

「関係あるエロっ!?」

「(ドンっ!)うるせぇんだよっ!!!」

「「「ひっ!?」」」

「(おい。ここは流石にマズい)」

「(分かったエロ)」

「(そうしましょう)」


 三人で足音すら立てないようにアパートの外へ出る。廊下に淡く彩る夕日が差し込んでいた。その夕焼けをアパートの廊下から三人で見上げ、どうしてこうなったのだろうと、思い思いに耽るのであった。





★ 次回  戦闘!? 頑張れニーターくん!  ★





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