ヤンキー魔法少女!

雨夕美

第1話  爆誕!? ヤンキー魔法少女!



「いやぁーーー!?」

「大人しくしろっ! へへっ……」



 たった一つの選択肢を間違えただけで、起こりえる悲劇。いつのもコンビニへ向かわずに、散歩気分で夜道を一人で歩いていた私。たまたまなのか、それとも狙われていたのか、この状況では考える事など出来なかった。



「むぐぅ!?」

「よし! これで大人しくなったなぁ? えぇ?」

「おい!? 早くやろうぜ!?」

「慌てんなよ…… このハイエースされちまった、この娘をゆっくり哀れんでからよぉ…… へへっ」

「おい!? ハイエースじゃねぇよ!? この車はキャラバンだよ!」

「どっちでもいいだろっ!?」

「よくねぇ! キャラバンのバンなんだ! ハイエースじゃねぇ!」

「(むぐぅ……)」


(いや…… 誰か…… どうして私がこんな目に……)


「うっせぇな!? 分かったよっ! じゃあ、このキャラバンのバンで、バンバンにパンパンしてやっからよぉ!?」

「キャラバンのバンじゃねぇ!? キャラバンバンだ!」

「あぁ!? お前がキャラバンのバンって言ってたじゃねーかよっ!?」

「お前がハイエースなんかと間違えるアホだからこそ、分かりやすく言ってやったんだよっ!」

「アホじゃねぇ!? 知ってるよっ!? バンとワゴン設定があるのもっ! ハイエースがこういう時の代名詞になってるから、使っただけだ!」

「だったら、なんでキャラバンを代名詞にしようと努力しないっ!? 何がいけないんだよっ!? キャラバンの!? キャラバンバンの!?」

「……ハイエースの方が売れてるからだろ」

「なっ!?」


(……今の ……うちに ……あ、開かない)


「おっと、そうは問屋が卸さないぜ嬢ちゃん?」

「(むぐぅ)」

「チャイルドロックを知らないとは…… へへっ 手足も縛るかぁ」

「そうだな…… その後にゆっくり……」

「(むぐぅ!?)」


(誰か…… お願い…… 助けて……)




特攻服マトイが欲しいか……?




(えっ!? 誰っ!?)




特攻服マトイが欲しいエロか……?




(マトイって何!? エロ!? もう誰でもいいから助けてっ!?)




特攻服マトイが欲しいならくれてやるエロっ!!!




 救いの無い暗さが立ちこめていた車内を、猛烈な光が吹き飛ばす。その神々しいまでの光が生まれていたのは自分の身体か。いや、自分の身体が光っている訳ではなかった。光っていたのはマトイと呼ばれた特攻服だ。


「これは…… いったい……?」

「な、なんだぁ!?」

「お、俺の、キャラバンが光って!?」

「お前のキャラバンが光ってる訳じゃないエロ」

「「「 !? 」」」


(両手に乗るくらいのサイズのピンクの……カッパ……)


「なんだっ!? お前はっ!?」

「お前らに名乗る名は無いエロ」

「な、なんだとぉ!? 俺のキャラバンバンに勝手に入り込みやがってぇ!?」

「何を言ってるエロ。このキャラバンバンは、お前のじゃ無いエロ」

「なっ、何を!?」

「お前…… これ盗難車だったのか?」

「ち、違う! ちゃんと三十五年ローンを組んで買った新車だっ!」

「車検証を見るエロ。所有者はローン会社で、お前はただの使用者エロ」


(三十五年も払い続けるの……? 都内で車買うって大変なんだね…… じゃなくってっ!?)


「い、言わせておけば~ 言いがかりを~」

「言わせるも何も事実エロ。ちゃんと車検証に記載されてるエロ」

「おい! なんだか分からんが、こいつも縛っちまえばいいだろ?」

「そうだな…… しかし…… カッパに愛撫する趣味は…… へへっ」

「いやぁーエローーーっ!? 何してるエロかっ!? そこな娘!? 助けるエロっ!?」

「えっ!? どうやってっ!?」

「その特攻服マトイは力の源なんだエロっ! 力任せに相手を倒すエロっ!」

「なんだぁ!? 一瞬で着替えるとは…… へへっ こいつはコスプレってやつかぁ?」

「サラシを取って晒して欲しいみたいだなぁ?」

「……」

「……」

「……それはどうかと思うぞ?」

「あ? 三十五年もローン組んで車買ってる奴には言われたくねぇな? あ?」

「なんだとっ!? 十五社目でようやく審査が通った、この俺様を馬鹿にするのかっ!?」



(「あの~? これどうしたら、いいんですか?」)

(「さっき言った通りエロ。思い切り気にせずぶっ飛ばすエロ」)

(「でも…… そんな力は私ないです……」)

(「安心エロ! 大丈夫エロ! 思いっきりやるエロ!」)

(「……うん」)



 それなりにフラットな車内を屈むように進む。両脇を締めて、肩の近くに置いた拳を一生懸命に前に出す。自分でも心配になるほどの頼りなさだ。だが、私の拳に相手が触れた瞬間、それは認識違いだったと確信した。


「あべぇ!?(……ガクッ)」

「あぁ!? いきなり攻撃してくるとはっ!? こいつめっ!」

「きゃっ」


 私は恐くて相手から顔を背けると同時に、両手でこちらに来ないで下さいアピールをした。するとその両手に触れたもう一人の男も吹っ飛ぶ。


「あべぇ!?(……ガクッ)」


 先ほどまでの窮地は何処へいったのだろうか。キャラバンバンと呼ばれたこの車内を照らす特攻服マトイ。そしてピンクのカッパちゃん。倒れた男二人。


「……あのね? この車の扉が開かないの」

「リアゲートから出るエロ」


 倒れた二人の男たちのポケットをまさぐりながら、そう答えるカッパちゃん。私は素直に従い、車両後部にあったハンドルを回しリヤゲートを開いた。


「助かった…… 本当にありがとう……」

「さぁっここは危険エロ。自宅へ戻るエロよ」

「うん」



 周りに怯えながらも無事に帰宅に成功する。両親に今日あった事を知られないように、自室へと直行する。



「……戻って ……来れたぁ」

「すぅーーーっ」

「どうしたの?」

「な、なんでもないエロ……」

「?」

「と、とりあえず自己紹介エロ。魔法の国からきたカッパのエロだエロ」

「あ、はい。助けて頂いて本当にありがとうございました。藤堂麗華とうどうれいかです。この春で中学二年生になりました」

「中学生…… それも二年生エロか……」

「そうだよエロちゃん? エロちゃんでいいのかな?」

「いいエロ。気兼ね無しに話して欲しいエロ」

「うん」

「それにしても麗華ちゃんは、本当に地味な女の娘エロ」

「そう? けどそうかもね」


 確かにその通りだった。そういう言い方をされるように生きてきたからだ。目立たず、標的にならないように、それは学校でもだ。大人しく生きつつも、ある程度の交友関係は作りつつ深入りしない。家庭での手伝いという魔法の言葉を上手く使い、友好関係を壊さないように生きてきた。


「でもセミロングの髪は綺麗エロ。それに前髪を髪留めで止めてる所や、上に縁の無い眼鏡も似合ってるエロ」

「ホント! 嬉しい。私のお気に入りなんだ」


 お気に入りを褒められて素直に喜ぶ私。もう少し地味な眼鏡の方が良いのかもしれないけど、眼鏡くらいはお洒落してみたかった。するとエロちゃんが目線を私の胸元へ落とす。


「小柄な中学生にしては育ってるエロ」

「!?」

「どうして目立たないようにしてるエロ?」

「……目立ちたくないから」

「……そうエロか」

「……」

「……」


 聞いてしまった事を後悔しているような顔つきで、エロちゃんが考え込むように黙る。そうして、その沈黙が気まずさに変わりそうな頃に話し始める。


「麗華ちゃんにお願いがあるエロ」

「うん。助けてもらったし、お願いぐらい聞くよ?」

「本当エロ?」

「本当だよ」

「ヤンキー魔法少女になって、この世界を救って欲しいエロ!」

「!?」


 そうして私は本日この時より、ヤンキー魔法少女として生まれ変わるのであった。





★ 次回  秘密!? 悪の魔法士サイアーク! ★


 



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