8.後日談
巨獣との戦闘から1か月ほどが過ぎた。
戦闘により、あたり一帯に大きな被害が出たということもなく、せいぜい周囲半径2,3㎞の木が折れたか、折れそうになっているか程度だ。戦闘後巨獣は気絶したのか、身を沈め体を起こすことはなかった。
戦闘後ソータとウルガはうずくまって意識を失っているシーアと遠くに飛んで身動きが取れないイギーを背負って回収し、そのまま巨獣が離れる方向に逃げた。いつ起きるかはわからないが、巨獣を思いっきり殴ったことでソータの右こぶしの骨は軽く折れていた。こぶしからは血が流れ、力が入らないそうだ。
唯一無事なウルガは3人のけがの状況を心配しながらも、3人の代わりに動物を仕留めて食料を持ってきてくれた。ただ、食事の際、ウルガが執拗にソータにあーんをしようとして、ソータがそれをやめさせようとし、イギーとシーアがニヤニヤしながらそれを眺める光景がしばらく続いたそうだ。
そのなかでもシーアが一番早くけがを直し、結果的にシーアはイギーに、ウルガはソータにというダブルあーん状態になったという話はまた今度にしよう。
そして、今現在。
「数年に1回合うかどうかのレベルなのに、なんで今会うかなぁ…」
ソータが足の治ったイギーと女性陣とともに森を駆け抜けながら、そうぼやく。ソータのぼやきが聞こえたウルガはそんなソータを、まぁまぁ、と慰める。
「仕方ないじゃん、今年は運が悪いんだよ。仕方ない仕方ない」
「いやいや…ウルガがドラゴンの巣なんていじるからでしょ!?この時期のドラゴンは子供守るのに忙しいから変に手を出さなきゃ襲ってこないし!」
ウルガの発言に勢いよく待ったをかけるソータ。
そう、今4人は空中から襲いくる赤い大きなドラゴンから逃げている。と言っても、その全長は1か月ほど前に戦った巨獣よりははるかに小さく、極めて一般サイズと言えるものだ。ちなみに、追いかけられている理由はソータの言ったとおりである。食料探しにノリノリで慣れてきたウルガがソータを拾った時と同様いらないことをし始めた結果である。
「なにおう!?私だってみんなのために食料を頑張って集めてるんだぞ!」
「じゃあ、近くのギギでよかったじゃん!なんで、つい最近いやな思いしたばかりの山に登って、あまつさえドラゴンの巣に突っ込んだの!?馬鹿なの!?…あ、馬鹿だったね、ウルガ。ごめん」
「ちょっと、勝手にバカにしといて納得するのやめてくんない!?」
ドラゴンから走って逃げながらもギャーギャーとしゃべりあう2人。それを遠巻きに見ながらイギーは笑う。
もともと虎人族は人と違って治癒スピードが恐ろしく早い。なので骨折程度ならすぐ直るのだ。おかげでイギーはこうして元気に走れるわけだが…全速力では走れない原因が一つあった。
ここ1か月の間、なぜかはわからないがイギーはシーアをいわゆるお姫様抱っこすることを強要されていた。もちろん、シーアの体はイギーよりも早くに完治しており、特に問題はない。だが、狩りの時以外の食事の時や寝るとき、移動の際は完全にべったりである。
さすがに一応危ない場面ではあるのでシーアに自分で走ってもらうようにいうのだが…
「おい、シーア?そろそろ、お前も自分で走ってほしいんだが?」
「いやよ、それにこれくらいなら私を抱えてても大丈夫でしょ?それに、しばらくの間私が背負っていたのだから、これぐらいやってくださいな?」
と、返される始末である。イギーが足を負傷している間、移動の際はシーアにやってもらっていた。イギーにはその間の恩が確かにあるのでそれを言われると何も言えないから仕方ない。
と、2組に分かれて独自の空間を作りながら団体で逃げる4人を見てさすがにドラゴンもイライラしてきたようで、腹立たしげにまるで口から火を噴かせたのちに一気に滑空してくる。
しゃべっている4人もさすがに気づき、イギー組は左へ、ソータ組は右へとよける。一応、このドラゴンを倒すという選択肢もなくはないのだが、今は別に食料をとる気もないうえに、このドラゴンを倒すと子供が育たない。そうすると今度来たときにこのドラゴンがおらずに、食料に困るので、あまり倒したくはないといったところである。
その結果が今回の逃走劇という訳だ。
森の中をうまく回って再び2組は比較的走りやすい地面のある道を走っていく。滑空で獲物をしとめられなかったドラゴンはさすがにこれ以上は巣から離れるのがまずいと考えたようであきらめたように巣のある方向へと戻っていった。
その様子に一息ついた一同。そして、すぐにまたそれぞれのお喋りを開始しながら巨獣から離れる方向へと進んでいく。もしかすれば、似たような動物が又いるかもしれないが、心の底からそうでないことを祈る4人であった。
巨獣は深い眠りの中で夢を見る。自分とよく似た生物が、最後に自分にこぶしを浴びせたあの生物とよく似た少年に毎日丁寧に世話をされていたことを。
巨獣はそれが何なのかはわからなかったが、彼にはそれがとても心地よく暖かいものだとはっきりとわかった。
人類の数億年後の地球生活 杉崎 三泥 @Sunday1
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます