氷上を滑る。競い合うでもなく表現するでなく、ただ滑る。
競技としてではなく娯楽の延長線で滑っていた少年が、ある出会いからアイスダンスの世界に入っていきます。
その中で、人との関わりや競技の奥深さや広がりに戸惑い苦労しつつも進んで行きます。
青春スポーツ物、という感じがして好いです。
作中で、色々と氷の上を滑る描写が出てきたりするんですが、主人公の少年が自分の気持ちと感覚を込めて語ってくれるので、読んでいて追体験をしているような気持ちになれます。
読んでいて、がんばれよ、と応援したくなるお話でした。
と、ここまでが途中まで読んでのレビューでしたが、ここからが第一部の最後まで読み終わっての引き続きのレビューです。
ある意味、出会いと興味、行動の始まりと憧れ、といった輝かしい物が前面に出て来ていた前半に比べ、後半では影とも言える部分も語られます。
気軽に出来ない間口の狭さ。それゆえの競技人口の少なさ。それによるガラパゴス的な指導や行動の狭さに、世界に比しての実力の低さ。
一言で言えば、日本におけるマイナー競技の影の部分が、登場キャラ達の行動や結果、そして想いも込めて語られます。
それはある意味、苦しい現実です。けれど、前に進むなら、見ずに済ませる訳にはいかない事実でもありました。
そこで折れるか諦めるか、それとも――
そんな気持ちに読んでいてなりますが、それでも最後には、まだまだ前に進んでいくんだ、という力強さが感じられます。
それらを読み終わり、やはり、がんばれよ、と思うお話でした。
以上です。レビューでした。
面白かったあ。
読後に放心するような優秀作品。アイスダンスがどういう競技かの描写はもちろん、そこで生まれるドラマが秀逸でした。
まずはスケートリンクや指導者、チームメイト、大会の質など、様々な要素がアクセルになったりブレーキになったりする描写がリアルです。マイナースポーツって本人の才能や努力よりも環境に振り回される部分がすごく多いので、そこを見せるのがうまいなあと思いました。
それともう一つ抜群に優れているのが、嫉妬の描写でした。対人競技だと負けって意外と簡単に受け入れられるものなのですが、採点競技はあいつが俺より上なのは納得いかん、というのがつきもので、それが様々な形で人間関係に反映され易いジャンルと思います。ペア競技だと特に、あいつと組んだから勝った、負けたという話もあるのでしょう。そこも巧みに入れ込まれていました。
競技の魅力を存分にアピールし、またその競技だからこそ起こる悲しさや醜さはうまくドラマとして昇華できており、恋愛やライバル関係が生み出す喜怒哀楽も豊富。アイスダンスと少年を鮮やかに描ききったとても良い作品でした。出会えてよかったと思える傑作です。
あえてマイナースポーツを題材にした、瑞々しい青春ストーリー。作者さん、好きなんだろうなあ、と思います。マイナースポーツの場合、そもそも調べるのが大変です。専門誌も、普通の書店なんかには置いてませんし。ネットだと立ち読みできないし。取材しようにも、近所にスケートリンクなんかねえ、となります。プロ作家なら、大学やプロスケーターに取材できるだろうけど、シロウトじゃ「はあ? アンタだれ?」て言われちゃいますしね。あえてスケート、しかもスピードスケートやフィギュアではなくアイスダンスを選ぶところに、作者さんの熱さを感じます。本来、スポーツとは好きだからこそやるもの、という根本的なテーマを感じました。