魔術属性学 ――幕間
「――あーあ、変なこと聞いちゃったかなぁ。ねぇ龍安君?」
「……そうだね、運が悪かったと思うしかないんじゃないかな」
茜の問いかけに対し、慎は本から目を離さずに言った。
焔堂が話している間、慎は眠かったのでほとんど寝ていたのだが、茜が何をしたかクラス内でうわさになっていたので、そしてそれが慎の耳に入ってきたことにより、慎は茜が何をしたかを把握することができた。
――曰く、中園が焔堂を泣かせた、と。
焔堂の人のよさそうなぶん、それを落ち込ませた茜の印象が少し曇ったというべきだろうか。
まぁ、慎にとってはそんなことは死ぬほどどうでも良かったので、その噂話は、茜が何をしたか、という部分を除いて忘却の彼方へと飛んでいったのだが。
「……どうでもいいっておもってるでしょ」
「いいや?」
真顔のまま慎は嘘をついた。
それを嘘とは見抜けなかったようで、少し眉を寄せていた茜は朗らかな笑みを見せた。
「そう? ならいいんだけど――あ、そうだ。龍安君の得意属性は何だったの?」
唐突な話題転換に少し頭を悩ませつつも、慎は先ほどの時間の記憶を探る。
「……闇、だったね。闇属性は『四門』じゃなくて『九門』っていう分類に入るらしいけど」
「……きゅうもん?」
「ああ、魔術の属性の、四門とは違う分類の仕方のことだよ。ちょっと珍しいらしいね、ちょっとだけ――まだ習ってないけどね」
「……ま、その『きゅーもん』って言う内の闇属性が得意だったんだ?」
「うん」
「……なんか、それって……『闇』でしょ? ……なんだか怖そう」
「……中園さんはどうだったの」
「え、私? 私はね――なんだか二つ得意な属性があるらしいよ。光属性と火属性だって」
そういうパターンもあるのか、と慎は少し面白く思う。
二つの得意な属性がある場合。これはあまり珍しくはないことだ。
得意な属性というのは先天的なものではなく、感情や気質――すなわち後天的に定められるものに左右される。もっとも、生来、髪が紅くなるほどに得意属性が偏っている場合はそれに限らないが。
光と火が得意である、つまり二つの属性が得意だというと少し得をしているようにも聞こえる。だが、二つの属性を一度に伸ばそうとするのはなかなかに難しい。結局どちらも中途半端に使えるようになり、俗に言う器用貧乏になってしまう人間も多く、得意な属性が一つの者よりも少々考えて能力を伸ばさなければならない。
「へえ、二つも得意な属性があるんだ。火と光か……」
慎はふと『魔術属性学』の教科書を開き、目次を見る。
すぐに目当てのページを見つけ、本をぱらぱらとめくり始めた。
「……火は、攻撃的な気質、転じて行動的な性質を示す。光は快活、ポジティブさをともに表す……か。うん、納得だね」
「……?」
――魔術の属性は、特に得意な属性というものは、術者の『気質』をよく表す。それが表面に出ていようと心の奥底に押し込められていようと、先の授業で使われた水晶玉は色にしてよく表す。よって、心療内科などで使われることもあるそうだ。
「……つまり、魔術、特に得意な属性というものは術者の気質に大きく左右される――だそうだよ」
「???」
茜は頭の上にいくつもの疑問符を浮かべている。
慎は教科書を閉じ、小説に視線を戻した。
「……え、結局それってどういう意味?」
慎はふむと息をついた。
「……闇属性が得意な僕の本質が根暗だってこと」
「……え、え、どうしてそうなるの」
「独り言だから、別に忘れてくれていいよ」
快活、ポジティブ、行動的。およそ茜に当てはまらないものはない。
魔術の得意属性とはここまで如実に人を表すものなのか、と慎は少しだけ感心し、また文字の上に視線を滑らせた。
魔術・魔法高等理論 反比゜例 @Lindworm
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