8話 再び内務省危機管理局にて
センブロ少年たちの「パーティ」がフェルザン東の海上で漂流状態に陥っていることが判明したころ、彼らの冒険による対応で、政府はまたしても混乱状態に陥った。
「外務省としては、彼らを許すわけにはいきません。あれはどう考えても密航です。わが国の法律で厳しく裁かれるべきです!」
「じゃあ外務省が彼らを見つけて逮捕でも何でもすればいいじゃないか?」
「い、いや。我々には逮捕権はありませんからね。そこはあくまで公国警察さんの管轄ですよね?」
「何言ってるんだよ。ウチは船なんか持ってないぞ!海軍が船出して責任もって探すべきだろ!」
「諸君は何かあればすぐ自分たち国防軍に押し付けようと……!大体うちの船は今定期点検中でほとんど使えないぞ!」
そうこうしているうちに、矛先は危機管理局へ向かう。
「そもそも危機管理局がこうした事態に備えたマニュアルを事前に整備しておくべきだったのでは?」
誰かがこういいだしたのを機に、それまで会議の末席でおとなしく座っていたサストラとティルタの上司であるソリアーノ班長は防戦一方になった。
「あのですね……現在内務省危機管理局でも、昨年から対策本部会議を開きまして、当面の対策についても皆様にご了承いただいているところでございまして……」
「それとは別に、マニュアルについても検討しておくべきだっただろ!」
「は、はぁ……」
特に大きな組織でもなく、予算も少ない危機管理局はこういうときとかく立場が弱い。その割にことがあると、その責めを真っ先に負うのが、危機管理局の務めだ。ソリアーノは会議の終わりには、汗びっしょりになっていた。
政府機関同士の醜い、しかし必死な押し付け合いを、内務省危機管理局のペーペー二人は、ずっと部屋の外で聞かされていた。
「あ~あ、班長また詰められてるよ……だいたいさぁ、あいつら『自己責任』だろ?勝手に海のファ~……」
「だから愚痴は最後まで言えって、サストラ」
「だからさ、勝手に海の藻屑にでもなればいいんだって」
「あ、やっぱ言いきらなくってよかったわ……」
結局、すったもんだあったものの、政府はセンブロ少年を捜索、保護することを決め、捜索は海軍が行い、公国警察が事情をよく聞いたうえで、その後の処分を決めることに決定したのだった。
捜索は難航した。センブロ少年が漁師の息子で、なまじ海になれていたために、彼らはこの寒い冬の海であったにも関わらずかなり遠くまで行ってしまっていた。
しかし、幸か不幸か、極秘だったはずのパーティの冒険計画は、センブロ少年のおしゃべりのために、あらかた近郊の村人たちの耳には入っていたのだった。
村人たちは口々に、彼らが隣国バルグーンを目指していたことや、その後南のパルタマで修業を積む予定であること、世界を救えば女の子からもモテモテ、最後は回顧録を書いて大儲けを企んでいることまで、政府はすぐに掴むことができた。
しかし、彼らが目指していた隣国バルグーン王国に問い合わせても、それらしい集団が到着したという事実は確認できなかった。
さらに悪いことに、彼らの乗っていた船と思われる木片や帆の一部が海に漂っていたという報告が、海軍から上がってきた。
最悪の結末が、あらゆる人々の脳裏に忍び込んでいた。
フェルザン公国ただいま勇者募集中 虎尾伴内 @torao_bannai
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