7話 シャマポルタ港にて
フェルザン公国暦148年の1月半ば。寒さと雪が厳しいことで知られるフェルザン公国北部のシャマポルタ港から、4人の少年たちが旅立とうとしている。
「センブロ、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫さ!俺の見立てでは、沿岸沿いを東にぐるーっと回って南へ行けば、もう少し温暖なところへ出られる!そこで武器を揃え、さらに南へ行ければ、大国パルタマだ!」
得々と計画を語るリーダー格の少年が、センブロ・スペリコラト。18歳になる彼は仲間の友人たちと共に、冬の晴れ間を縫って海へと漕ぎ出そうとしている。
センブロは漁師の息子ということもあり、冬の海には慣れっこだ。しかし、センブロより背が低いやせっぽっちの少年は不安げだ。
「なあセンブロ、もうちょっと暖かくなってからにしようぜ……なぁ?」
彼は僧侶見習いのヴィリア・ケリーア。センブロより少し年下の16歳で、昨年から修業を始めたばかりだ。
センブロ一行は他にも軍人志望のプラジュリ・リエーロ、紅一点で魔術師見習いのシヒア・マジアで、いずれもまだ半人前の若者たちばかりだった。
一行は漁で多くの船が出入りする午前中の、一番混雑する時間帯をあえて狙って、冬の海へと漕ぎ出した。海に詳しいセンブロは潮の流れを読みながら少しずつ南下していく。
センブロの見立てでは、その日の夕方から夜には、フェルザンを出て、南隣のバルグーン王国へ出られるはずだった。
その後ウタレシア大陸北東部を沿岸伝いに南下し、最終的には大国のパルタマに入って修業を積み、「レベル」を上げて、本格的に魔王軍と対峙しようというのが彼らの計画だった。
「おいセンブロ!ちょっと岸から離れすぎじゃねぇか?」
「大丈夫だって、ある程度沖に出ないと潮の流れに乗れないんだ。もうちょっと待ってろ!」
夜が迫っている。当初の予定では、もうバルグーン王国の北端に到着してもおかしくない時刻だ。
「センブロ!?どうなってんだよ……!暗くなるまでには陸にあ、上がれるって言ってたよな?」
冬の、さらに夜の海だ。見習い戦士のプラジュリがセンブロを問い詰めるが、センブロにも、もう余裕がない。
「う、うるせぇ!黙って漕げよ!」
四人の乗った船は、小さな帆船。普通なら風と潮の流れだけで進めるのだが、予定とは違う方向に進む船をなんとか制御しようと、センブロが帆を動かすが、なかなかうまく行かない。
終いにはセンブロも体力の限界から操帆をやめ、深夜には船は完全に漂流状態になってしまった。
寒さをやり過ごすべく、小さな船室に四人が身を寄せ合っている。僧侶見習いのヴィリアが、時折神に祈りをささげるたびに、彼らは少し元気を取り戻すのであった。
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