6話 内務省第4会議室にて

「ただいまから、第一回魔王対策本部会議を行います。それではまず、議長である危機管理局長のトト・ルイーゾからの挨拶です」

 魔王の襲撃を受け、フェルザン公国政府はさっそく魔王対策本部の設置と、それに伴う会議をスタートさせた。

 会議の事務担当は危機管理局が担うことになり、それまで平和だったはずの危機管理局は忙しくなる一方。休日返上で資料作りと内部調整に追われる羽目になってしまった。

「今日土曜日だぜ、土曜日。ほんとなら総務局の奴らと山スキーへ出かける約束ファァ~」

「サストラ、愚痴ぐらい最後まで言えってば」

 縦割りの行政組織では、危機管理局がいくら忙しくても、他の部署は一切助けてはくれない。サストラといっしょに山スキーへ出かけるはずだった総務局の連中は、バタバタの彼を尻目に、今日は公国南西にある山岳地帯でお楽しみである。

 

「やはりここは国防軍が主体となってことに当たっていただかないと!」

「いや、しかし危機管理及び公国警察の担当は内務省だろう?我々はそれに従うのみだ!」

「埒があかん!ここはいっそマルティ首相直轄としてはどうか……?」

「それでは我々首相官房の業務がパンクします!断固反対!」

 会議は踊る、されど進まず。この未曽有の事態を受けても、フェルザン公国政府は誰が魔王軍の撃退に対処するかさえ、決めかねていた。


 結局、魔王軍襲撃から一月後の12月末に、この対策本部会議で決められたのは、被害のあったフェルザン北部に軍と警察を当面増援するとか、国際社会と共同して対処に当たる、などの当たり障りのない内容の策に終始していた。

「こんな政府に頼っていられるかよ!」

「首相辞めちまえよ!」

「大公さまは何をやってるんだ!」

 当然そんな声が国中に響いた。フェルザン公国暦147年は、そんな不満と共に終わっていった。


 明けて公国暦148(世界暦412)年の1月、すっかり株を下げた内務省危機管理局にさらに追い打ちを掛けるような話が飛び込んでくる。

 公国北部に住む18歳の少年、センブロ・スペリコラトとその仲間たちが、突如魔王軍に立ち向かう!として、公国の北にあるシャマポルタ港から密航し、魔王軍打倒に向けて文字通り船出したのである。

 当然このニュースは瞬く間に国内を駆け巡った。

「『我こそ勇者!』18歳の少年旅立つ!勇敢なるセンブロ少年らの雄姿!」

「昔から正義感が強かった……涙の母語る」

 国民は美談が好きだ、同じぐらい政府の悪口も大好きだ。この美談は瞬く間に「政府はセンブロ君を見習え」と、政府叩きのネタにされていったのである。


「どうせ不良少年あがりか何かだろ?」

 サストラはすっかり醒めた見方だ。このとこの忙しさで髪はすっかりぼさぼさ、無精ひげも生えかけている。

「そうとも言いきれないぜ、もしかしたら魔王倒すかもよ?」

 ティルタは冗談ぽく笑っているが、どれだけ忙しくとも、身なりは崩さないのがポリシーのようで、髪は普段と同じく、ちょっといい匂いのする整髪料でなでつけられていた。

 二人はいつものパスタ屋で、いつものクミ・ド・ポーモ(イカとトマトのパスタ)を食べながら、「自称勇者」の少年について書かれた新聞記事を眺めていた。 

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