間違いを指摘する前に確認したいこと
専門的な分野の作品は、表現の誤りなどが生じやすいものです。ちょっと詳しくなってくると、その手の間違いに敏感になって、気になって仕方ない人もいるんじゃないでしょうか。
こういうのは作者側が後で気づくのが難しいですから、誰かが指摘してあげることも大切だとは思います。
ですが、それは本当にその描写が間違いだった場合の話です。
なぜこんな話をするかというと、僕の経験上、指摘する側の知識が不足しているだけだったというケースも多いからなんです。作者は程度の差はあれど、あらかじめ調べてから創作に取り掛かっているはずですが、指摘する側はなんというか、数年前の不確かな記憶だったり、そもそも確証も何もない曖昧な状態で言ってくる人も中にはいます。
そういった例もあるので、作者の方は一見詳しそうな人から意見をもらっても、慌てて修正する前にまずは指摘された箇所が間違いがどうか、確認してみてください。指摘を受けても、必ずしも自分が間違っているとは限りません。
知識を得ると、誰かの作品を見ていくうちに疑問が浮かぶことも多くなると思います。この資料を読んだ人の中にも、世に溢れる作品に触れていくうちに、なんかこれおかしくない?と思うような場面に出くわした事がある人もいるでしょう。でもそれは、自分の知識不足で間違いだと思いこんでしまっているだけかもしれないんです。
ちょっと勉強を重ねると、自分はいろんなことを知っている、詳しいんだ!と、そういう感覚に陥ってしまいがちです。ですが少し沼に足首を突っ込んだくらいだと、まだ応用や例外的な答えを知る機会は少ないはずです。その状態では正しい答えでさえ、自分が知っている範囲外だからこれは不正解だ、と誤った判断をしてしまうかもしれません。自分は詳しいつもりでも、実際には少ない情報の中から限られた回答を探すことになるわけですからね。
よほど自信があるならともかく、疑問に思った箇所があったとしても、まずは相手より先に自分を疑ってみましょう。とりあえず一旦調べてみて、確認すること。それからでも遅くはないと思いますから。
ただ、創作物が対象となると、知識だけではカバーしきれない部分も出てきます。フィクションには過剰な演出、誇張、装飾、嘘はつきものですので。
創作物には、その作者独自の解釈や作品特有の世界観、設定があります。それらを無視して実際の情報だけで考えてしまうと、よくある例として、現実では~、実際には~、というような作品の趣旨を理解していない的はずれな指摘になってしまいます。
指摘する前に、疑問に対する回答となる伏線はなかったか、あるいはそれそのものが伏線で、後で回収されるものだったりしないか、とか。そもそも自分はその作品の世界観を理解しているか、一旦考えを整理してみましょう。でないと、ちゃんと考えた上で描写しているのに指摘しちゃって、せっかく仕込んだ伏線を作者に解説させるはめになったりしかねませんから。
そもそも、あるわけないと思ったものはなんだかんだでありますし、できないと思ったものはだいたい誰かがやってたりします。絶対ではありませんけど。SNSとかでも、こんなのないって言った人に、その道の専門家的な人がありますって説明してる光景、見たことありませんか?
たとえば、ガスが漏れて腕に当たるからライフルで回転弾倉は無理とか言われてたけど、ライフル型(散弾銃だったかも)で回転弾倉の銃はありますし、ライフルと散弾の両方が撃てて銃身がいっぱい付いた、なんかスチームパンクにでも出てきそうなものも存在します。なんなら、斧に銃としての機構を組み込んだ武器だって本当にあるんです。
専門的な知識の沼は深いですから、自分が知らないだけってケースも多いんじゃないでしょうか。
最後にざっくり、指摘する際に注意したいところをまとめると……
・文章の前に『現実では~』『実際には~』がつくような指摘になってないか
リアルを追求した作品とかでない限り、フィクションでは誇張や実際と異なる描写は常ですので、的はずれな指摘になりがちです。
・自分の知識が正しいかどうか
たぶん一番重要かもしれない。少しでも自信がないなら、事前に確認しましょう。数年前の情報は現在とは異なっている可能性もあります。
・その作品の設定、世界観を把握できているか
俺の作品ではこうなんだよ、と言われないようにしっかり把握しておきましょう。伏線とかの可能性もあるので、物語の序盤からいきなり指摘するのは正直、避けたほうがいいのかなと僕は思ってます。詳しい人でもこの辺を考慮して指摘できる人は少ないと思う。
・作者(作品)の傾向、目標に沿った指摘かどうか
そこまで調べるのは難しいかもしれませんが、書籍化を目指している方ならともかく、趣味でやってそうな人に些細なところまで指摘したり、そもそも細かいところまでこだわってない作品にまで、重箱の隅をつつくようなことはあんまり言わなくてもいいと思います。モチベーション下げる原因にもなりますし、ミリタリー部分に注力していない作品では蛇足になるかもしれません。
・粗探ししてないか
とにかく指摘したくて、強引に変な解釈をしてまでやろうとしてるなら、一旦落ち着いて日を置きましょう。褒めるところが一つもない、間違いだらけだ!と感じた時は、無意識に粗探しをしているかもしれません。そういう時は、作者の長所や作品のどこらへんに力を入れているのかを探してあげましょう。見つけられないなら、日を跨いでからもう一度探してあげてみてください。無いなんてことはないはずです。
・自分のルールや好みを押し付けてはいないか
投稿サイトだと、指摘する側も何かを作っている人ってこともあります。皆さん独自の考え方があっていいと思いますが、単純な間違いの指摘を超えて、俺が創作をする時はこうする!みたいな考えを押し付けたり、私は◯◯の方が好きです、みたいな独りよがりな考えは避けましょう。
・衝動的に否定的な意見を言おうとしてないか
感想欄、コメント欄は送られる側と送る側で一対一です。作者も真剣に送られてきた文章に目を通します。何も考えてねぇけどとりあえず否定しとこ、とか、これ違うんじゃね?知らんけど、みたいなSNSでするような軽いノリで否定的な意見を送るのは控えましょう。まあSNSであっても、なんかわかないけど否定しとこう、的な考えはよくないと思いますけど。
・ネットで確認もした。やっぱり間違っているように思える
この資料含め、日本語のサイトは一から十まで詳しく書かれてるとは限らないです。銃関係は特に、専門書や英語のサイトじゃないと載ってないよ、とかもしばしば。怪しいと感じたら確証が得られるまで待つもよし。
・◯◯さんが言ってたから
人の知識でなく、自分の知識で指摘してあげましょう。借り物の知識は真偽もそうですが、つまりどういうことなんですかって聞かれた時に、自分が答えられないと困りますし。自分で書いたもんだろ、他人の言葉じゃなくて自分の言葉で語れ!ってやつです。
・自分の知ってる銃の性能と違う
そもそも最近の銃は拡張性高すぎてどんな姿にも化けられるから、突撃銃が狙撃銃扱いになってても僕は違和感ないです。そもそも中距離狙撃銃としても使えるように、スコープ乗っけたりしてる突撃銃もあるよね。個人的にはむしろ、そういうの好きです。
ゲームとかは工場出荷状態とかのまんまだったりするけれど、社外製パーツとかでいくらでも銃身の長さや弾倉の容量は変えられるので、ネットとかゲームに出てるそこらへんの数字はあんまり信じないようにしよう!
・そもそも、本当に実銃なのか?
ガスガンとか水鉄砲だったりするかもしれない。BB弾やガスを注入する穴があっても、これ玩具じゃんって言う前に確認しよう。
・カタログスペックや売り文句、解説を言葉通りに受け取らない
◇この銃は誰でも簡単に使うことができます!
そう書かれてても、子供や老人まで想定しているとは限りません。
◇引き金を引くだけで安全装置が解除されるので、撃つ瞬間に安全装置がかかったままはありえません!
部品の摩耗や破損、歪み、または異物の混入など様々な原因で想定された動作が行えない場合もあります。また、使うのは人間ですので使用者の体型、射撃姿勢などでも誤動作を引き起こす可能性は十分あります。
◇この銃は暴発しない構造になってるので、暴発はありえません!
弾自体に問題があった、もしくは周囲の環境・状況(火に焚べられた、雷に打たれた)など、弾薬の火薬が何らかの原因で発火する形で、銃自体に問題がなくても暴発のリスクは存在します。
少し考えるだけで気づけることも、たくさんあります。解説やスペックの情報を踏まえた上で、それ以外の原因でなにが起こり得るか自分なりに考えてみましょう。解説や動画ではこうなってた、がそのシーンの状況に必ずしも当てはまるものではありません。
否定から入る前に、なぜ作者はこうしたんだろう?何をしようとしたんだろう?と相手のことを考えてあげてください。
ここまで書いたことは、絶対に守れとか、人の作品にあれこれ言うなってことではなくて、指摘するならせめて確証を持って正確に伝えるようにしましょうっていう、心がけみたいなものです。気にするもしないも自由。あんまり厳しく言って誰も感想とか書かなくなると、それはそれで問題ですからね。
とはいえ、相手は生きてる人間ですので、乱暴に言ったり、よく分かってないのに否定したり、そういうクレーマーみたいなことはできればやめましょう。作者のモチベーションや作品の質に影響することですから、お互い納得できる形でやれたらいいですね。
小火器についての資料 天宮 悠 @amamiya
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