素人はこれを使え的な描写について

 まずはこれで慣れろ。あるいは、お前にはそいつが似合ってる。などなど、そんな感じで渡される拳銃の描写は創作物ではわりよく見る描写です。

 なのですが、度々それについては、本当に正しいのかと議論を繰り広げられている光景も稀によく見ます。

 では、なぜ拳銃じゃ駄目なんでしょうか?その辺りの解説も踏まえた上で、創作上ではどう扱えばいいかなど、そういった話をしていきたいと思います。

 これといって答えが明確に決まっているわけでもなく、私の持論というか個人の意見も含まれると思うので、それと知った上でお読みください。


 ではまず、初心者に拳銃を勧められない理由からです。拳銃非推奨の方の意見を見る限り、重要視しているのは実際に戦闘で用いる際の使用性とでもいいますでしょうか、使いやすさ、制御のしやすさなど、そのあたりですかね。

 確かに、拳銃は肩も使うライフルと違い両手のみで保持しますから、射撃時の反動などは腕だけで受け止めることになります。大口径のものですと、反動を受け止めるか逃しきれないと銃口が暴れ、向けてはならない場所に意図せず銃口が向いちゃうかもしれません。たとえ小口径のものにしたとしても、初心者ならおっかなびっくりで握りが甘く、撃った瞬間に握りが甘くなり銃が手からこぼれ落ちることも十分に可能性としてはありえます。

 それに命中精度でも、ストックで安定化させられない分、照準がブレるので狙った箇所に当てる事自体、拳銃では至難の業です。日常的に使う方でさえ、拳銃での精密射撃はかなりの技術が必要ですからね。

 さらに制御面でいえば、手の中に収まるぶん拳銃はライフルほど身体が振り回されることもなく自由に構えられますが、それゆえ初心者は銃口がふらつきがちです。つまり、安全管理上での問題が発生するわけです。

 安全管理の項目で詳しい話は書いてあるので割愛しますが、銃は引き金引くだけで人殺せる代物ですから、ちゃんと危険な武器という認識を持って扱わないと怪我するかさせるので、ふざけたりせず慎重に取り扱いましょうというものが安全管理です。

 拳銃は小さいですし、手に収まるサイズなのでライフルほど視界にも入りづらく、その結果として銃口の向きも意識しづらくなり、特に初めて持ったような方は無意識に握ったまま腕を振り回しがちで、銃口をコントロールするというのは難しいと思います。なので、そういった面でも拳銃は初心者向きではないと言えなくもないですね。

 俺はトイガンで慣れてるから平気だぜって思った諸君、そういう玩具を弄ってる人ほど変な手癖ついてて無意識に妙なことやらかすので、たいてい初心者より要注意人物扱いされるから注意しよう!

 想像してみるのです。玩具で慣れてるからと、初めて触る本物を自分の隣でいじくり回す人を。ほら今も、弾倉を抜き挿しして遊んでいる隣人が握る、銃のまずい部分が自分の腹に向いて……その銃、さっきスライド引いて装填してなかった?


 さて、では次にいきましょう。拳銃があまり推奨できないのは、さっきの話でなんとなく分かってもらえたかもしれません。では結局、初心者に向いている銃はなんでしょうか?他の銃についても考えてみましょう。

 まず、ショットガンから。ポンプアクション式のものは操作や構造を理解していないと扱いそのものが難しい上に、散弾は点であり同時に面での攻撃なので、誤った使い方をすると他の銃以上に被害甚大です。よくあるドアをこじ開けるのに使う場合でも、実際にはわりと跳弾事件が起きており、こういったシチュエーションでは射手と着弾点がかなり近いので跳弾が自分に当たる可能性が高く非常に危険で、それもあって専用の跳弾しにくいドア破り用の弾薬まで作られるくらいには取り扱いに注意しなければいけない銃でもあります。

 これは猟銃などの水平上下二連式のシンプルなやつも同様で、こちらは操作そのものは単純ですが散弾を用いる限りリスクは大きいですし、装填から射撃まで他の銃に比べるとかなり忙しいので、そういう面でもあまり初心者向きではないと思われます。


 では、ライフルはどうでしょうか。この括りだと幅が広すぎるので、まずは射撃間隔を切り替えられるオートマチックライフルにしておきましょう。

 拳銃の話でストックの話題を出したので、ならばこれが正解……と思われるかもしれませんが、これも微妙なところです。単発連射安全装置、切替式の銃は大抵この3つがレバーとかを操作するだけで簡単に変えられる構造になっているのですが、それゆえ安全装置がかかっているのか外れているのか、連射モードになってるのか、それが一目で分かりづらいのが難点の一つです。当然、扱い慣れた人からすればレバーの向きや文字の表記、赤い点などから安全装置がかかっているか判別可能ですが、使うのは初心者です。ただでさえ慣れないものを触るのに、安全装置にどこまで気を配れるかわかりません。もしかしたら、慌てて操作してしまい単発で撃つつもりが連射モードになってて、味方ごと正面を掃射してしまうなんてことにも。まあ、そのレベルの人に持たせるのは大変危険なのでナイフでも持たせてあげましょうな話でもありますが。

 中には安全装置と連射方式の切り替えが別になっている銃もありますし、AR15系とAK系なんかは安全位置の次に入るのが単発と連射逆になっているので、安全装置外して最初に入るのが単発だなんて教え方すると、AK持った時にフルオートで連射してしまってえらいことになっちゃいます。まあこういうのは、逆に描写としてはありかもしれませんね。ですが、これもまた操作が難しいものですから、ちょっとお勧めはしにくいですね。


 なら結局、何がいいんだって事になっちゃいますが。意図せず連続して撃ってしまわない機構に、銃床がついた銃。そうなると無難なところは、ボルトアクション式のあまり大口径でないライフルあたりがいいんじゃないかなと。わりとそういう意見は、こういった議論でも見る気がします。オートマチックライフルは安全装置がかかっていない状態では、たとえ単発に設定されていても引き金を引くだけで自動で次の弾薬が装填されてしまいます。なにかの拍子にうっかり引き金に指がかかっただけ、反動で思わず指が触れただけで、意図せず発砲してしまう危険性があるということです。その点、ボルトアクションライフルなら勝手にボルトが動くわけじゃないので、余程のことがない限り次弾が装填されることはありません。

 発砲時の反動もストックがあるので腕と肩で受け止められるのですが、大口径のものは強烈ですし、そういったものを何度も撃ち続けるのは練習しないと辛いというのと、万一撃っちゃ受けないものに当てた時の被害を考えると、小口径のものがいいのではないでしょうか。

 一応、22口径の拳銃弾を用いるライフルでも猪とかは倒せるようです。特にライフルは銃身の長さなどの要因で、同じ弾薬を使用する拳銃より初速が向上したりするので。

 扱う人や状況によって何が最適かは変わると思うので、最良の武器ではないかもしれませんが、選択肢としてはアリなんではないでしょうか。ストックでの保持もそうですが、長銃身の銃は弾道も安定しますし、命中精度的にも拳銃と比べるとだいぶ変わりますからね。


 最後は、上記のものを踏まえた上で創作的な側面から考えるとどうだろうか、って話を。ここからは多分に私個人の見解が交じると思うので、これが正しいとかではなく一個人の話として受け取ってください。

 日常では、娯楽や狩猟、あるいは害獣の駆除、強盗などの防犯護身目的等のやむを得ない状況でもない限り、そうそう初心者・素人が銃を手にする機会はありません。またこのような理由では、常に触れ、持ち歩くということもないでしょう。

 初心者が日常的に銃に触れなければならない状況となると、大規模な犯罪あるいは戦争・紛争に巻き込まれるか、創作作品的な話でなら、ポストアポカリプスな世界観で誰もが銃を手にしなければいけなくなった、とかそういったものが挙げられます。

 となると、年端もいかない少年少女や、大人でもあまり力仕事に向かない人でさえ武装する状況になるわけですが。そういった方々にも、先述の通りに小口径のボルトアクションライフルを勧めていいのでしょうか?

 そこそこ当てられて、射程距離も十分にあるというだけでライフルは十分実用的です。それは事実です。戦いでは拳銃と比べるまでもなく、ライフルに分があることでしょう。ですがライフルは拳銃と比べると長くて重く、特に少年少女が持つには負担が大きくなりがちです。仮にポストアポカリプスな世界観であるなら、クソでかい銃を背負い倒壊したビルや広大な荒野を長時間移動するとなると、かなりの体力を消耗することでしょう。その上で激しい戦闘で動き回れと言われても、出来る人はそうそういないと思います。

 それに室内では長物の銃はかなり引っかかりやすく、スリング使って背負っても結構ブラブラするので、ストックや銃身が壁とか物に結構ガツガツ当たります。銃に触り慣れてない人は自分が銃を背負っていると意識して行動するのも難しいと思うので、ぶつけまくって銃や周りの物を壊したり傷つけたり、そういうこともあるでしょう。もし音に敏感な怪物がいる世界で、背負った銃が壁に引っかかって音でも鳴ろうものなら大惨事ですね。体格が小さめな人だと、銃が身体に収まらないので余計に注意が必要です。頭より高い位置に突き出た銃身が引っかかったり、屈んだ拍子に銃が地面に接したりとか。

 基本的に、拳銃よりはライフルの方が強いです。室内での超至近距離での戦いならボルトアクションライフルより拳銃が上回る場面もあるかもしれませんが、距離があるならライフルが命中精度的にも有利です。限定的な状況でのみ活躍できる拳銃よりは、ライフルの方が武器としても有用とみていいでしょう。初心者ですら上手く使えば強力な武器となりえるものですから、熟練者が使えばより恐ろしい武器に変わります。となると、そんなものを壊したり失くすかもしれない初心者に預けてしまうのは考えものですよね。物資や武器の供給が十分でない環境下にある場合、軽度の破損ですら無視できませんし、そうなると貴重なライフルをまともに運用できるかもわからない人に使わせるのは、ちょっと悩ましいところです。

 それにライフルは大きいですし、拳銃と比べると初めて触る人は不安になる人も多いのではないでしょうか。ボルトアクションライフルなんかはわりとシンプルな構造ですが、それをそれとして理解できるのは事前知識のある人に限りますし、手の内に収まるサイズゆえの安心感というか、拳銃にはそういったものもあるんじゃないかと。あまりおっかなびっくりで触ると、それこそ怪我の元ですから。まあこれは、拳銃にも言えることなのですけど。

 こういう考え方をしてみると、これまでの話を否定する事になってしまいますが、最悪壊されたり失くされてもそこまで痛手にならず、軽量で動きを阻害しないため長時間の携行もライフルに比べればマシな拳銃は、初心者に勧めるのはアリなんじゃないでしょうか。これは実際に使う場面での勧めと言うより、持って運んで使うを全部ひっくるめた上での話なので、論点が違うと言われればそれまでではありますが。

 戦闘面だけを見ればライフルは役立つかもしれませんが、長物である以上、長物特有の弱点もあるわけで。そこを踏まえると、フィクションなどでよくある初心者は拳銃でも使ってろ的な描写もあながち間違っていない……かもしれません。

  

 これは仮定の話ですので、正解だとか正しいとかそういったものではありません。それにリアリティは創作の上でも重要ですが、創作であるゆえの自由度を阻害してまで拘るものではないと思いますので、そのあたりの匙加減は皆さんの自由です。

 初心者はこれを使えと、小さい女の子に10.5インチのS&W M500クソでかリボルバーを持たせるも良し、ICBMのスイッチを持たせるも良し。胸とか地表が熱くなる描写をするのも自由なのですから。

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