第八話


 「えっと、これでいい、のかな?」


 黒蔦ウルヅーレに干した木の実に穴を開けた物を編みこんで作られた、魔除けの腕輪ジュロイ・シェリ。旅団が旅の先々で興行を行う片隅で売られている土産物の一つであるそれは、旅団の人々の手によって作られている。


 旅団で目を覚ましてから二ヶ月ほどが過ぎ、簡単な会話が交わせるようになったハルトは、ラーナやラーナの姉であるチェシカと共にそういった裏方の仕事を教えてもらいはじめていた。


 「うん、はじめてなのにとても上手に出来ているわ。最初は難しいかもしれないけれど、何度も作っていけば、すぐに覚えられるから大丈夫よ」


 「うん、ハルトとーっても上手!」


 優しく笑うチェシカとラーナに、ハルトは照れ臭そうに眉を下げて笑った。


 「ありがとう。僕、もっとたくさん、えっと……?して、たくさん作れるようになるね」


 「ハルト、じゃないよー!だよ!」


 「あ、そっか。。だ、ありがとう、ラーナ」


 「えへへ、どういたしまして」


 にっこりとラーナと笑いあって、チェシカはそんな様子を微笑ましそうに眺めている。穏やかな時間が流れているこの旅団が、ハルトはとても好きになっていた。


 「チェシカ姉さん、これで、この魔除けの腕輪ジュロイ・シェリは出来上がり、なの?」


 「うーん、これで終わりじゃないの。この後は出来上がった物を集めて、ディガ湖の水に浸すの。そうすると、精霊ドラグ・エラがこれに触って行ってくれるから、それが魔除けになるんですって」


 「そうなんだ」


 チェシカの答えを受けて、ハルトはそっと視線を伏せた。視線の先には黒い鱗が蔦のように這う自身の細腕。


 精霊ドラグ・エラという自然に宿る存在が人に溶け込んだ時、その精霊ドラグ・エラと一体になった人の体の一部に鱗として現れる。その精霊が宿った人々の事を、精霊憑きドラグ・ララと呼ぶという。


 ハルトの世話を焼いてくれている人々から教えてもらったそれらの事は、ハルト自身が精霊憑きドラグ・ララである事を表していた。けれどハルトはその事実に実感を抱けないままでいた。


 精霊憑きドラグ・ララは身体に精霊ドラグ・エラを宿しているからか、精霊ドラグ・エラを見、その声を聞き、心を通わせ、その力の一部を借り受ける事が出来るらしい。


 しかし、目覚めてからこれまでハルトは未だその姿を見た事が無く、その声を聞いた事もなかった。鱗はしっかりと腕に張り付いているというのに。


 「だいじょーぶだよ。ハルト。ゆっくりでいいって、イビもガルドさんも、ルドも言ってたよ。見えなくても、聞こえなくても、ラーナと一緒だから怖くないよ」


 ぽんぽん、と小さな手が、ハルトの頭を撫ぜる。きらきらと光る金の瞳に、ハルトは不安に蓋をしてにっこりと笑った。

 

 にこにこと笑いあう二人を、何処か心配そうにチェシカが眺めていた。

 

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旅暮らしの精霊憑き さなぎ うか @sanagi0115

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