山羊頭のシリアルキラー
@nitoyuyu
一人目 前編
――カツン――カツン。
小気味悪い音を立てて階段を降りる一人の男。
足元を照らす松明が、黒毛の山羊頭に幾重にも血が染み込んだエプロンと、男の異様な風体を浮かび上がらせていた。
階段を降りきった先には重厚な木の扉があり、中からは甲高い唸り声が微かに漏れている。
誘われるようにゆっくりと扉を開けると、堅牢な石造りの地下室が広がっていた。
そして、これから起こる惨劇の主役となる女が、部屋の中央で口枷を噛まされ恐怖に戦いた様子で天井の梁と手首を鎖で繋がれている。
そんな女が、扉が開くと同時に慌てて逃げ出そうとつま先立ちしている足を暴れさせた。
「動くな糞女がぁ!」
響き渡るドスの効いた大きな声で女は固まる。
「大丈夫だよ、大丈夫。心配することないよ」
怒鳴りつけたと思ったら、今度は近寄り優しく幼子をあやすように頭を撫でた。
しかし、壁際にずらりと並べられた太い釘や大きな釣り針、鞭、赤く熱された釜と鉄の棒。これから使われるだろう様々な道具が男の向こうに見えていると、その言葉は全く信用出来ない。
予想出来るような痛みを生む道具ならまだ良いが、何に使うのか検討も付かないものや布が被せられた台にある道具を想像すると、より一層恐怖を駆り立てた。
男は頭から腕や太ももを優しく触ると、女は涙を流して神に赦しを乞うような目で訴える。
「その口枷じゃ呼吸しづらいよね、外してあげよう」
男はそういうと、口に嵌めていた口枷を外した。
「どうだい、楽になっただろう?」
女はガチガチと歯を震えさせている。
「お願いだから酷いことしないで、なんでもするからお願い」
憔悴しきった声、男は満足そうに無言で微笑むと口を開いた。
「君はラッキーなんだよ? これから皆が一生で1度も味わえないようなことを味わえるんだから、君はボクに感謝してもしきれないハズさ。でもボクは気にしないよ、ボクは優しいから見返りなんて求めない。だから君は喜ぶべきなんだ、ほら笑って」
男が女の口の端を指でグイッと押し上げて、まるで笑っているかのように表情を変えさせた。
「そうだ、いい子だね。ちょっとボクは準備があるから待っててね」
男は女の横を通り過ぎ、後ろ側へ抜けていく。
「ボクはさ、整理整頓が大好きなんだ、例えば扉側の壁にあるのは穴を開ける道具。君から見て右は1つをたくさんに分ける道具、左は柔らかくしたり硬くする道具。じゃあ後ろはなーんだ?」
男は陽気に謎々を出したが、後ろから聞こえるガラスや金属が擦れたりぶつかり合う音が女の顔を皺くちゃにした。
「正解したらご褒美あげるよ」
助かるかもしれない、と思った女は掠れた声で答えた。
「痛くする道具……?」
女が答えてしばらくすると準備が終わったのか、歩いて近づいてくる音が聞こえた。
「惜しい、実に惜しい。正解は今からやるね」
男は手首につながっている鎖を更に持ち上げて女の両足を浮かせた。
「キャー! お願い、お願いだからやめて!」
女は昨日から立ち続け疲れ果てた体で、最後の抵抗と言わんばかりに暴れる。だが、首に針を刺されて液体を注入されると、直ぐに耳や顔が赤くなって体が熱を持ち始めた。
その後徐々に乾きを覚え始めた。
体の表面がピリピリと電流が走っているかのような感覚に陥った頃には、意志とは別に抵抗しようと暴れていた体が勝手におとなしくなって、浮いた足で股をこすり合わせ始める。少しふとももが擦れるだけで股からは液体がドロドロと漏れ出し始めた。
男は満足そうに足を叩いて、
「ほら、足を開いて」
男の声が掛かると女の意志とは別に体が喜々として足を開き、両足首を開いた状態になるよう鉄の棒で固定して足裏が付くまで降ろされた。
「それじゃ始めるよ、準備はいいかな」
「やめてお願い、私今変なの」
懇願する女の頼みを無視して男は女の後ろにかがみ、先端から十センチほど片面に小さな穴がたくさん開いている長さ二十センチほどの丸い鉄の棒を手にして、股の下へ伸ばした。
「じゃあ飛んでみよっか」
鉄の棒は男の手によって勢い良く穴に目掛けて吸い込まれていった。
山羊頭のシリアルキラー @nitoyuyu
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