魂は細部に宿る。木目細かい描写が光るSFです。

ジャンルの分類って悩みますね。私は、現代ドラマよりは、作者がタグを付けたSFの色合いが強いと感じました。恋愛物っぽい味付けのSF。まぁ私がSFファンという事情が影響してますが。
さて、私は「死神に選ばれた女」のレビューで、作者は法学部出身か?と書きました。本作品では医学部出身か?と思いました。それだけ描写が細かく、素人には見破らせない記述です。第一章でWHOに行くなんてキャリア、門外漢には思い付けないと思います。また、治療シーンに登場する薬剤名も実在するかは素人に判断できませんが、それっぽいです。これらは一例ですが、最初から最後まで、細かく、それっぽいです。或る意味、本作品自体が仮想空間っぽい。仮想空間っぽいのは小説だから当たり前なんですが、SFファンなら理解してもらえるリアル感に溢れています。
でも、個人的に1つだけ釈然としなかったので、星2つに留めました。主人公が全てを投げ打って、危険を承知で桃源郷に身を投じた動機が、私には理解できなかったのです。この動機に共感できないと、その先の展開に上手く感情移入できないんですよね。これは、小説家より医者の方が遥かに社会に貢献しているという私の意見が、主人公なりRAYさんの意見と対立するからです(私、医者じゃないです。しがない会社員です)。だから、偏屈男の評価だと見逃してください。
でも、その点以外は、様々な要素が良く繋がった力作だと思いました。

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