延長戦3.「なにげに」や「さりげに」~日々生まれてくる言葉たち

【前置き】

 約半年ぶりのご無沙汰となります。

 現在、二〇二二年三月の下旬。ロシアのウクライナ侵攻から約一ヶ月が過ぎた頃に、本稿を執筆しております。


 コロナ禍も終わらぬ中、まさかの国連常任理事国による他国への大規模侵攻が始まってしまうとは、夢にも思っていませんでした。


 繊細な方は新型コロナと戦争のダブルパンチを、さぞや気に病んでらっしゃることでしょう。ですが、個人に出来る事は限られています。災害や戦争と向き合うことは大切ですが、それも度を過ぎれば自分の精神が参ってしまいます。

 どうぞ適度な距離を保って、世界と向き合っていただきたいと思います。


 かくいう私も、気付けば新型コロナの感染状況やウクライナの現状を調べていることが多くなっていて、「これはいかん」となりました。

 少し心を整理する意味もあって、久々に本作を更新することとしました。


 皆様が一時的にでも、世間の騒がしさを忘れる事ができれば幸いです。



【本文】

 先日、ボケっとTwitterを眺めていたところ、日経新聞さんの校閲グループのアカウントが、とても興味深いアンケートを実施しているのを目にしました。


『みなさんは「さりげなく」の意味で「さりげに」を使いますか』

https://twitter.com/nikkei_kotoba/status/1508311392910131200


 「さりげに」という言葉。人によっては全く馴染みがないかと思われます。私が目にした時点のアンケート結果でも、殆どの方が「違和感があり使わない」と回答していたようです。

 私はと言えば、逆に話し言葉の中で多用してきた言葉なので「へぇ、そんなに違和感がある人が多いのか」と意外に思いました。


 と、同時に、以前読んだある記事を思い出しました。

 毎日新聞校閲センターさんが運営しているWebサイト「毎日ことば」に掲載されていた、以下の記事です。


『「なにげに」「さりげに」「〜みたく」 | 毎日ことば』

https://mainichi-kotoba.jp/photo-20191128


こちらは、表題の「なにげに」「さりげに」「〜みたく」という三つの俗語が、新語に慎重な姿勢で知られる「岩波国語辞典」の最新版でどのように扱われているかを解説した記事となります。


 第七版では誤用としていた「なにげに」が、第八版では「誤用から生まれた表現」と改められています。

 その一方で、「さりげに」と「~みたく」は変わらず「誤用」とされています。

 どちらも話し言葉ではよく使われている表現なので、「誤用」と言い切ってしまうことには少々違和感がありますが……確かに、文章上で使うことは(会話文以外では)あまりない、とも思います。


 さて、更に一方で、「デジタル大辞泉」では「なにげに」も「さりげに」も俗語として採録されています。

 それぞれの語釈は以下の通りです。


なにげ‐に【何気に】

[副]《「なにげない」の「ない」を取り、形容動詞活用語尾「に」を付けて副詞化した語》俗に、はっきりした考えや意図がなくて行動するさま。「―時計を見たら3時ちょうどだった」

[補説]初出の時期は不詳だが、昭和60年代の初めか。近年では、「この菓子、何気においしい」のように、「わりあい、なかなか」「意外と、実は」などの意を込めて用いられることもある。


さりげ‐に【▽然りげに】

[副]《「さりげない」の「ない」を取り、形容動詞活用語尾「に」を付けて副詞化した語》俗に、何事もないように振る舞うさま。「見知らぬ人が現れたので、―監視した」


 どちらも『「ない」をとり、形容動詞活用語尾「に」を付けて副詞化した語』とされています。

 更に「なにげに」の方は補説にある通り、『わりあい、なかなか』『意外と、実は』のように、元となった「何気ない」とは異なる意味も生まれています。


 「あの人、何気に優しいよね」と言ったようなセリフは、確かに私も書いた覚えがあります。元となった言葉とは違うニュアンスが生まれているのは、中々に興味深い現象です。


 このように、新語に慎重な「岩国」と、デジタルの強みを活かして最新の内容を取り入れていく方針の「デジタル大辞泉」とでは、随分と扱いが異なっていますね。


 他方、「新明解国語辞典 第七版」を拝見すると、「さりげに」は採録無し、「なにげに」は『誤用』という姿勢を取っています。

 「新明解」は既に第八版が発売されていますので、そちらでどうなっているのか気になる所です。折を見て調べておきたいと思います。



 以上のように、「なにげに」と「さりげに」という言葉については、辞書によって扱いが異なるのが現状のようです。

 「~みたく」についても、少ないながらも一部辞書で採録されているのを確認しています。「精選版 日本国語大辞典」では「みたいだ」の語釈内に、


近年、話しことばで「仁王さまみたく、まっかになって力んでる」のように、連用修飾法として「みたく」が用いられることがある。「みたい」の「い」を形容詞語尾とみて、作り出したものと思われる。


という記述が見受けられます。

 見事に辞書によってバラバラですね(苦笑)。


 いずれの言葉もまだ使われ出して日が浅いですし、何より、話し言葉の中から生まれた表現ですので、こういったことが起こるのでしょう。

 今のところ、「なにげに」は市民権を得ようとしているが、「さりげに」と「~みたく」はまだまだこれから、と言った感じでしょうか?


 まさに「言葉は生き物」の典型と言えるお話かと思います。


 以前、「番外編その2:複数の辞書を参照する事の大切さ」で、複数の辞書を参照する大切さをお伝えしましたが、もっと言えば「同じ辞書でも複数の版を参照すると、言葉の意味の変遷を知ることができる」かもしれません。


 結構、おすすめです。


 「何気に」時間を忘れられます。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

間違えやすい日本語表現 澤田慎梧 @sumigoro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ