真冬の月
或る日、あなたも月だと気づいてしまった。
また 月に魅入られていくのね、私。
あなたは満月ではなく、少し欠けた月みたい。
今夜は
今か今かと立って待つうちに 月が出るのです。
雪模様の空に、その光は見えるのでしょうか。
毎夜空を仰いで、見えない時から心待ちにしている。
尖った三日月の先端が映える時も、まんまるから欠けてゆく時も。
遠くて 真白な 冴え冴えとした灯りに 誘われてしまった。
あなたは 真冬のお月さま。
*
私は すきだと思ったら
無遠慮に近づいて
相手からしたら 鬱陶しい存在。
同じ視線で見つめ返してって 目を覗き込むから
相手は戸惑って、その行為に 変にどぎまぎして
もしかしたら僕もって、勘違いしてしまうかもしれない。
今までの人ならば。
君は、誰かに似ていますね。
あなたは いつもそう言うの。嬉しくないわ。
私は 私であって、誰かとなんて一緒にしてほしくないのに。
僕は、君が今までに好きになった人とは違います。
近づいてくるのは拒みませんが
離れていくのを止めることもしません。
冷たいと思いますか。
そう、あなたはあなたであって、他の誰でもない。
つめたいよ。さみしいよ。 遠いね。
あなたは 誰かに 夢中になることがない。
恋焦がれるきもちが わからないのだって。
*
なのに、気まぐれに にこっとするんだよね。
ちょっとだけ 君を独り占めしたくなりました、だなんて
戯れに言ってくれた日もあったね。やさしい目をして。
僕の部屋に閉じ込めて、珈琲を飲みながら
ずっと一緒にいたいだなんて、平気で言うの。
朝から晩まで君のことばかり考えている。寝ても覚めても、なんてね。
全力で守ります。
私に何かあると すぐにすっ飛んでくるの。
どうしたのかな。ヒーローのつもりなのかな。
焦ってるあなたがかわいくて、困らせたくなる。
自惚れてるあなた。
それはそうね。私のきもちを知ってるんだもの。
好かれている男には余裕があるのです。だなんて憎たらしい。
*
冬の森の奥の小屋から 物語を紡ぐカタコトした音。
そっと近づくと、その硝子窓は 寒さに曇っていて
はぁって息を吹きかけて、そっと暗号を伝える。
かすかに見える透明の先に ちらりと見えたあなたの影。
私に気づかずに、夢中で手を動かしてる。
レモネードの香りがして、湯気でまた視界が塞がれる。
幕が下りる。線が引かれていて、入れない。
拒否されて、半透明の絨毯にくるまれて
お月さまのストローに吸い上げられていく 甘い夢。
*
君は 恋をし過ぎです。危なっかしいです。心配です。
花を追い求めるように 誰彼見つめてる。
私のこと、そう思っているのでしょう、あなたは。
今、私がすきなのは あなただけです。というと、ほらって。
今、であるならば、変遷していきますね。
変わっていくものに 僕は惑わされたりしない。
自分から 遠去かっていくその時を想像してみる。
そんな日が 永遠に来ないといいのに。
あなたはただ見送る。さみしくなったりしない。泣きたくなる。
きちんと友だちになれるようにするって誓ったけど、できるかな。
そうしたら ずっと一緒にいられるかな。
自分のことを棚に上げてるってわかってるけど、きゅってなる。
束の間でも、その日まで 側にいたいって思って くっついてる。
いつのまにか じゃれたねこのように、私たちは一緒にいる。
微かに甘い匂いがするその腕に ぎゅっとしがみついてる。
やわらかそうな髪にそっと両手を入れて、耳ごと撫でてみたい。
私の片恋。たいせつな片思い。
ノスタルジアの箱 水菜月 @mutsuki-natsumi
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