最終話

 彼女の瞳は、真剣そのものだった。

 死んで、逃げてしまいたいほど。

 それでもまた、迎えるのはこの終業式の日。そこにいる木村雪乃と、眼前の彼女に連続性はないにせよ、きっと、何度も何度も繰り返さないと、彼女が私を好きと思わない世界は、訪れない。

 なぜなら確かに、私は浅羽のことがずっと好きだった。

 もし、私が彼女の立場であれば、彼女と同じような条件にあれば、同じことをした可能性だって、十分にある。世の中はなんだって、気付いたもの勝ちなのだ。

 同じことを何度も繰り返し、何度死の苦しみを経ても成し遂げたいこと。

 ただ、それを実際に行動として起こしてしまうことは、間違いだ。

 彼女の精神は、すでにおかしい。

「それで、私と付き合ってくれる?」

 わかっているのに、言えない。

 この話を切り出さないと、受け入れないと、彼女は死ぬ。

 同情や、諦めではない。

 結局これを、この木村雪乃を、形だけでも受け入れることが、私が、彼女の呪縛から解き放たれる唯一の方法なのだ。

 ひとつひとつ、きちんと別れる支度をするために。

「わかったよ」

 ついに彼女は羽化を迎える。

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ついに彼女は羽化を迎える 枕木きのこ @orange344

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