読み専の方が紡ぎ出すのは、切ない時を生きるモノ達。

 読み専の方にこれほど上手に書かれると、書き手の立場が危うくなるのですがね。

 現実の中でひっそりと息づくモノ達。
 人間の数が増えすぎたために感じにくくなってきたが、元々の世界の在り方はこの作品に近いのかもしれない。
 そう思わせるほど、現実と非現実が違和感なく混じり合う世界になっていた。

 なにせ、文章が上手い。というより、私の好みだった。似ているところがあるのかもしれない。
 知らない技術に手は出せない。私ならこう書くだろうと、比喩描写に手を加えたくなるあたり、やっぱり似ているのだろう。

 各話毎に主人公が変わる。彼らは非現実の世界に触れてしまった者達。そして、一人のモノと関わり合いになるのだ。
 短編綴りではあるが、しっかりとストーリーが練られていて、話の流れを楽しめる構成になっている。
 インパクトで押し込む単発仕様ではなく、静かに胸を叩く切なさに、作者の品性が見て取れる。本格的な小説の作りと言えよう。
 一から作ったネタではなく、既存の話を土台にすることで、入りやすく、受け入れやすさにつながっていると見た。
 直接的な表現を避けていることも、読みやすさを生み出しているのだろう。

 どこまで続けるかはわからないが、大勢の目に触れて欲しいと思う。
 この構成であれば、延々と作品を続けていけるだろう。
 作品の世界感を『揺らぎ』というらしい。この揺らぎが好みであれば、どこまでも追っていける作品となるだろう。