湯けむりの三角コーナー

あおの元ボスは何かと使えるからといって、相談役をつけてあげようと言った。キャンパス内の内線で誰かを呼び出すと、そのまま教授は、先程そらが書きなぐったレポート用紙の数式に夢中になってしまった。


数分のうちに教授室をノックする音があった。

教授室のドアの前に立っていたのは、あおやそらとは一回りも二回りも大人な凛々しい女性であった。


彼女は整った顔立ちに、フレームの薄い眼鏡を突き通すような眼力のある目をしていて、左頬の泣きぼくろがチャームポイントだ。長めの黒髪は緩くフェーブを描いて胸元にかけて束ねられている。

そらとあおの胸を足しても圧勝のEカップと腰のくびれは黒のスーツでぴしっと整えられ、タイトなスカートから伸びるのは、そらやあおの倍はあろうかという長さを誇る美脚。その美脚を包む薄い黒のストッキングが溢れ出る彼女の魅力を倍増させている。

「はじめまして、真澄 ますみと申します。先程、ボスから事情は伺いました。これからは相談役という形でお2人のサポートをさせていただきます。」


「ますみ?この前のんだお酒にも真澄ってなかったか?あれはなかなか美味しかったな!」


「あ、、えっ、よろしくお願いします。てかそらさん!人前でお酒の話はやめた方がいいんじゃ...」


あおの元ボスの教授と会うことが出来た2人は、教授室で記憶天象儀メモリウムを展開させて、彼の度肝を抜いた。2人の話を聞いた教授は、近く列島半消失れっとうはんしょうしつに関わっている国の関係者に、そらの提案を伝えると約束を交わしてくれた。

それから記憶天象儀メモリウムに興味津々な教授のために、そらがいくつかの理論を教授にレクチャーしたのち、冒頭に戻る。


「そら様のお話は伺いました。それではこれからの事につきまして、お2人にお話がございます。」

教授は特に内線でそらの話をしていた訳でもないのに真澄は既に伺っているという。あおは、この麗しいお姉さんがワケありな機関から来ているのかと思ったりした。そもそも、三角コーナーで日本の半分を取り返そうなどという訳の分からないことを聞いて、平然と職務をこなすあたり、彼女自身にも一癖も二癖もありそうな気がする。

一方そらは、全く不思議がるようなこともなく、さも当然のように真澄さんを引き連れて行こうとしているあたり、肝が座っているというか、どちらかと言うとメイドを使い慣れている感がある。

近くの空いていた談話室に入ると3人は1つの丸テーブルを囲んで座った。

「それでは、今後の展望なのですが、お2人にはまた下関に帰っていただくとよろしいかと思います。」


真澄が言うところによれば、あおの元ボスは明日にでも内閣関係者とテレビ会議があるようで、おそらくそこで三角コーナーの事を伝えてくれるという。

そらは、それ以降の判断を政府に任せると言ったが、線宇宙交差転移せんうちゅうこうさてんいの詳しい条件や異世界の事情について知っているのはそらくらいなので、おそらく国会から証人喚問などで呼ばれると思われる。それに協力するつもりであるなら下関に帰っておくべきだということである。


「ふむふむ。そういうことなら下関に戻ろうか。」

そらはくちびるに指を当てながら真澄さんの話を聞いたあと、そういう結論に至った。

あおはそらについていくだけなので、2人の話を聞き流しながら、美女と美少女に囲まれて幸せだなあなどと考えていた。


「それでは、外に車を用意して待機しておりますので、準備が整いましたらいらっしゃってください。」

そう言って真澄は深々とお辞儀をして会議室から出ていった。

いろいろしゃべってのどが渇いたとそらが言うので、あおは構内の自販機スペースにそらを案内した。

大学構内を歩いていると、中庭に総理官邸前で見た巨大な睡蓮の花、もとい電磁重力波受信塔でんじじゅうりょくはじゅしんとうSui-Ren《すいれん》があった。

「おお、これは下関にもあったやつか?」

そらはあおに訊ねる。

「そうですね、、電磁重力波受信塔といいます。そらさんの世界にはなかったんですか?」

そらはふむふむと唇に手を当てると、

「私のいた世界にはこれはなかったが。そうか、線宇宙交差転移は局地的に重力波が乱れるからな。それを検知するわけか。」

そらも納得した。


そんなこんなを経た後、あおとそらは真澄と合流した。

「ここの温泉は結構有名だそうだな。せっかくだから入っておきたいものだな。」

そらはふと思い出したように言うと、真澄は

「お時間はありますので、よろしいかと思います。」


ちゃぷん。


今日は平日の夜ということもあり、観光客は少ない。そらとあおと真澄は、草津温泉街の一角にある小綺麗な温泉につかっている。

このへんの温泉は大きなところでなければ基本無料で入浴することができる。財布も持たずに気軽に湯巡りができるわけである。そらたちがつかっている温泉もタダで入ることができた。

タダより怖いものはないというが、あおとそらは今、それ以上に怖いものを目の当たりにして怯えている。


おおきなおっぱいである。


服を着ている時点で既に抑えきれない魅惑のボディを持った真澄が服を脱いだのだ。

張り、形、サイズ共に文句のつけようのないおっぱいに加え、綺麗な曲線で縁取られたお尻としなやかな美脚である。結えられた黒髪から滑り落ちる水滴がうなじをつたう。

それはもはや人が殺せるレベルと言っていいほどに魅力的なお姿であった。


そんな真澄があおとそらとともに同じ湯船に浸かっている。あおとそらは、すぐ近くで水面からゆっくりと浮き沈む真澄のおっぱいに釘付けであった。あおとそらをあと5人足してもかなわなそうなおっぱいを見ているうちに、それは羨望や憧れを通り越して恐怖に変わってきた。

「なぁあおよ。私はなぜだかあれを見ていると、手を合わせて救いを乞うてみたくなるのだが。」

「そ、そらさん、正気を保ってください...!人は自らの命を奪う存在にすら、信仰を抱きたくなるものなんですよ!」

「御二方とも?私の顔になにか付いていますか?」


ちゃぷん。ちゃぷん。


改めて温泉につかったあおは、湯気をまとって揺れ動く湯船の水面を見ていてふと思った。

「そういえば、列島半消失れっとうはんしょうしつのとき、一夜にしてなくなった東日本の跡地は全部海になっていましたけど、あれはそらさんの世界の海と入れ替わったんですか?」

「ふむ。実はあの海は、我々のいた世界の海ではないのだ。」


そら曰く、線宇宙交差転移において、転移先の空間にあったものは消滅してしまうのだそうである。

「消滅というか、宇宙群座標中の虚数軸に落ちてしまうのだ。」

本来であれば、日本が一夜にして半分なくななったその日、そのぽっかりと空いた東日本の跡地に周囲から海水が流入し、その大きな液体の流れは津波を引き起こし、残った日本どころか、世界的な大災害を引き起こしていたという。

「しかし私の協力者が、私が転移する先の世界の混乱を避けるため、ほかのパラレルワールドから海を転移させてきた。と考えられる。」

「、、、協力者?、って誰ですか?」

もちろんあおに心当たりなどない。

「キモト様ですね。」

すかさず答えたのはそらではなく、真澄であった。

「ご名答。よく知っているな。じじぃ殿は私の恩師で私の父の活動を影から支えていた人物だ。会ったことがあるのか?」

「いえ、お会いしたことはありませんが、列島半消失の後、キモト様から何度かコンタクトがあり、その指示によって我々が組織されました。」

「ほう。なるほど、さすが師匠。それで真澄を選んだわけだ。ふむふむ。」

そらはすこしにやにやしながら唇に手を当てた。あおは真澄の言う組織とはなんなのか、キモトさんってどんな人なの気になったのだが。


長話を聞いてるうちにふらふらしてきたので湯船から出ようとしたが遅かった。視界がブラックアウト、膝の力が抜けてあおはタイルの床のうえにぶっ倒れた。


長湯は禁物である。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

下関の三角コーナー さんぼんじん @sashimi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ