大変興味深く拝読させて頂きました。
大人の為の寓話……物書きとして、こう言う手法で様々な主張をされることについては大賛成です。
そして本作が秀逸だったのは、筆者の立場が、実際は解かりませんが、少なくとも作品上は右にも左にも偏っていない点です。
事実を寓話と言う形に置き換えて、ありのままを伝える。
隠しもせず、歪めもせず、ただ事実をありのままに……。
これは、情報を扱う者の、最低限にして最大のモラルでもあると思います。
そして、寓話に登場する「うさぎさん」や「きつねさん」にもそのまま言えることなのだと思います。
また、こう言った寓話で、政治に興味がない人でも何かを考えるきっかけとなり、そして、何かを考え、厳しい目を持つ人が少しでも増えていくことも重要です。
それにより、現実世界の「きつねさん」や「うさぎさん」の態度や選択も、きっと変わっていくのではないでしょうか。
大人向け寓話。でも、青少年に読んでもらいたい寓話。その点、先にレビューされている桜井さんに賛成です。30年以上も前の科目名で言えば、”公民”とか”現代社会”のコマかなあ。
世界の警察官の役割を、アメリカが投げ出した現在。この寓話のようなシチュエーションを日本も迫られ始めるでしょう。
私は、キツネの村長の行動って、村民不信が根底に有ると思うんです。明日の危機に目を瞑り、自分の今日の都合だけを主張する村民。だから、ああいう行動を取らざるを得ない。結果、弊害が大きくなるのですが、村長や主人公を責められないでしょう。
1人ひとりが「代わりに、こうしよう」という現実的な代替案を持ち寄らないと駄目だと思います。作品では、それっぽい場面が有りますが、現実社会を映そうと意図する作者は、敢えて代替となる解決策を提示してません。私は作品の展開しか現実的な選択肢は無かったと思います。
翻って現実世界に思いを馳せると、敵対相手と会話するプロセスが一歩手前に有ります。共存の余地が無いと、結局は争いになりますが。この作品の設定では、敵対相手と会話できないのが辛いですよね。話し合いを軽視しがちな現実世界に警鐘を鳴らす観点でも、動物主体の寓話という体裁を採用したのは秀逸な選択だと思います。
ここまで読者を考え込ませるとは、本当に素晴らしい作品です。
短編にはMAX2つが信条なんですが、星3つ付けました。
(閲覧者へ)
作者が街コンに出品している「縁結び神」がお勧めです。こちらは、考え込まず、安心して楽しめる作品です。
他の作品は未読なので何とも言えません。
以下、ネタバレになる可能性もありますので、未読の方は注意。
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全員(うさぎ、くま、きつね、とら)、いい人だというのはわかる。
そして、みんな自分の仕事を一生懸命やっている。ただ、うさぎさんを除いては。
きつね、とらの村長は政治家だから、きれいごとばかりではやっていけない。外圧だって、駆け引きだってあるし、嘘だって必要かもしれない。
一方、うさぎさんの仕事は、物事を見て、ちゃんと報告すること。けれど、彼はそれを怠っている(あくまでも、この作中でのこととして)。
親友のくまさんが死ぬ可能性だってあったのに……。
うさぎさんの立場になったら、自分が必ず正しいことが出来るとは言えない。けれど、うさぎさんが自分の仕事を怠ったのは事実。
きつねは間違っていたのだけれど、それは彼なりの最善を考えて行動した上での結果で、彼は仕事を怠ったのではない。(やはりあくまでも、この作中のこととして)
最後に、作者はこれは寓話だと明言しているから、うさぎとは、戦争中に大本営発表を垂れ流ししていたマスコミのことでしょう。たぶん。