思い出の氷に再会する

 丁寧に積み重ねられる描写が、非常に魅力的な作品です。
 舞台は、一年中雪に覆われている氷の街。
 赤い髪の少女と、動いて喋る魔導人形という一風変わったコンビがその常冬の街で冒険物語を繰り広げます。

 この作品の特色は、雪に覆われている街の情景がとても丁寧に語られていくところです。
 読者がイメージするのを手助けするように詳しく描写を積み重ねながらも、
 しつこさやくどさというものを感じさせない、さらっとした文体で読みやすいです。
 その文体のさらさら感もまた冬の雰囲気を読者の肌に感じさせます。
 読み進めていくうちに、記憶の中にある一番綺麗な氷や雪の景色が引き出されてくるような感じがしました。

 そんな丁寧な描写を強化しているのが、主役の一人である魔導人形のタルトちゃんです。
 タルトちゃんは好奇心のままに常冬の街を観察します。
 地の文は彼女の視点に寄り添って書かれることが多く、私たちはまるで冒険に付き添っているかのように彼女の見たものを追体験できます。

 景色を楽しみながら冒険をしたい方に強くおすすめします。

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