旅の途中で通りかかった長く冬が続く街。旅人のリズと魔法人形のタルトは、そこで泥棒騒ぎに巻き込まれます。事件解決のために氷に閉ざされた城に向かった二人は、果たして犯人を捕まえることができるのか――。
水晶採掘の街に伝わる青年と氷の女王の娘の恋物語を背景に、主人公たちが冒険を繰り広げます。迷路あり、謎解きあり。もちろんファンタジー要素もバッチリ。きっと最後はこうなるんだろうなと安心できる反面、謎解きではそうきたかぁと思う所もありました。剣と魔法のバトルじゃないファンタジーをお探しの人にもお薦め。
主人公の相棒が抱えて歩けるサイズの人形という異色の作品。でも魔法人形なので、動くし喋れます。キャラが生き生きしていて、二人の親密さや信頼感がよく伝わってくるので、バディものとしても楽しめます。どうして二人が一緒にいるのか、なぜ旅をしているのかは全く語られませんが、長い旅の途中を切り取ってきたようで、逆にそこが良いです。
(「白銀の異世界」4選/文=藤浪保)
丁寧に積み重ねられる描写が、非常に魅力的な作品です。
舞台は、一年中雪に覆われている氷の街。
赤い髪の少女と、動いて喋る魔導人形という一風変わったコンビがその常冬の街で冒険物語を繰り広げます。
この作品の特色は、雪に覆われている街の情景がとても丁寧に語られていくところです。
読者がイメージするのを手助けするように詳しく描写を積み重ねながらも、
しつこさやくどさというものを感じさせない、さらっとした文体で読みやすいです。
その文体のさらさら感もまた冬の雰囲気を読者の肌に感じさせます。
読み進めていくうちに、記憶の中にある一番綺麗な氷や雪の景色が引き出されてくるような感じがしました。
そんな丁寧な描写を強化しているのが、主役の一人である魔導人形のタルトちゃんです。
タルトちゃんは好奇心のままに常冬の街を観察します。
地の文は彼女の視点に寄り添って書かれることが多く、私たちはまるで冒険に付き添っているかのように彼女の見たものを追体験できます。
景色を楽しみながら冒険をしたい方に強くおすすめします。
終わることのない冬に閉ざされた町を訪れる、二人(?)の旅人。氷の女王の呪いが原因と言われる永遠の冬の謎と、旅人たちが巻き込まれる騒動の顛末とは――
古典児童文学を思わせる幻想的な空気が魅力的なこの作品。
個人的にもっとも惹かれた点を挙げるなら、それは作中の雰囲気づくりの巧みさであるといえます。
終わらない冬と、氷と雪に閉ざされた町――現実にはありえない、幻想的な光景です。しかし、しっかりとした筆致で丁寧に描かれたフリューリングの町は、奇妙な現実感を伴って読者の脳内に再生されます。
ストーリーの筋は、さほど奇をてらわず、オーソドックスなものという印象。しかしそれだけに、読者の期待を裏切ることはありません。すっきりと読後感がよい仕上がりになっています。
惜しむらくは、この作品が完結済みとなっていること。
主人公のリズ・タルトコンビや、悪役二人組はなかなかいいキャラをしており、いろいろ話が膨らみそうな伏線も用意されているように見受けられます。
この世界観で描かれる新たな物語を、ぜひ読んでみたいものです。