第45話 演技が下手だなぁ()
領主の屋敷内・応接間
「勇者殿、此度の貴殿の働き、感謝の念に堪えない。改めて礼を言うぞ。」
「有り難き幸せでございます、レナード王様。」
王様と勇者が改めて互いにあいさつを交わしている。二人ともさっきまでアレな感じだったけど、落ち着いた今はなんだかきちんと様になっているように見える。
でもレナード王の方はわかるけど、茂の方も様になっているのはなんでなんだろうか? うさん臭い話だったけど、やっぱり勇者の因子とかいうのを持っているからなのか?
ちなみにレナード王の感謝はあの悪魔族との戦闘の事じゃないぞ、研究所でエルを助けたのは勇者って事になってるからそれに対する感謝だ。
なぜそんなことになってるかと言うと、ゼルディアス国としてはエルの救出は国王が勇者に依頼したからその成果が欲しい。何処とも知らないスライムがエルを救出したとなれば帰還した時に箔がつかないからな。俺としてもその代わりに勇者という後ろ盾を得られるし、エルの変化についても隠せるから助かるってことで口裏を合わせることにした。エル自身は不満げみたいだけど。
さて、今俺たちはあのあと領主の屋敷に案内されたんだが、この屋敷の応接間は元の世界の常識と比べるととても大きい、30畳ほどの豪奢な部屋の真ん中に大きな長テーブルが備え付けてあり、王様は端っこの上座にある豪華な椅子に、茂はその右隣、エルと俺は左隣、つまり茂の正面に、マドカとユリは俺たちに続いて座っている。
この部屋の主である領主様は勇者の隣でハンカチを額に当てとめどなく流れている汗を拭きながら王様の顔色を窺っているようだ。
「いやぁそれにしても驚きました、まさかレナード王自ら起こしになるとは・・・。」
声たっけえなこの人。
「大事なわが娘のためだからな、救出されたとの報を聞き、いてもたってもいられずはせ参じた次第だ。入国手続きが事後承諾になってしまったこと、許してほしい。」
「い、いえ、そんな、あ、頭をお上げください陛下、恐れ多い事でございます・・・。しかし、どうやってあの扉が開いていることを知ったのです?我々でもごく一部の者しか知らないはずですが・・・。」
「む、領主殿、世の中にはあまりしらない方が良い事もあるのだぞ?」
王様が領主に向かって凄んでいる、なんで言い繕っているんだ?
あ、そうか極秘諜報機関とかいうのを使ったから詳しくは喋れないのか。
・・・阿呆やでこの人。
「勇者様にはわたくしたちから連絡石をお渡ししておりますので、エル様を救出した後すぐに連絡してくださる手筈であったのです。そうですね?勇者様?」
秘書がすかさずフォローを入れてきた。
王様が「あっそう言えば良かったのか」と言う感じにさみしげな目線を秘書に向けた。
「え? ・・・あっうんうんうんそうそうそう、この石をレナード王からいただいてな、エルフの姫君を助け出した直後に連絡したのだ。」
そんな秘書さんの絶好のパスを茂がトラップミスしやがった。一応持ち直したみたいだけど大丈夫か?
「あ~!なるほど、そうだったのですね。流石レナード王様でございますな。」
何が”流石”かはわからないが、なんとか切り抜けられたようだ、茂があからさまにホッとしている。演技下手だなぁ。
(・・・・。)
なんだ? 何か言いたいことがあるのかねエル君。
「しかし、大変な事態になりましたなぁ・・・、姫様の変質に悪魔族の襲撃・・・。レナード王様はあの悪魔族どもに心当たりは?」
「うーむ・・・。ありうるとするなら帝国か・・・かの国では最近悪魔族どもの部隊が作られたと聞くし・・・、しかしなぜあれほどピンポイントに狙われたのか解せん。」
「そうですか、まぁそれに関しては捕らえたあの男を尋問すれば何かわかるでしょう。」
あの男とはクリーピーの事だろう、あの後クリーピーは衛兵によって捕らえられ、独房に入れられている。
衛兵たちの多くはあの戦いの前に悪魔族たちによって殺されてしまっていた。兵たちのレベルは一般人と比べると高いが、それでも襲撃してきた悪魔族と比べるとかなり低く、ほとんどが即死だったそうだ。幾人かはルリや街の医者たちの治療と俺の体液によって回復したが、それでも多くの兵と街の住民たちの命が失われたことはこの街にとって大きな損失になってしまっただろう。
後で国際問題にならなければいいけど・・・。
さて、ここでクリーピーが何者だったか話すのは簡単だがどうしたものか、上手く説明しないと勇者じゃなく俺がエルたちを助けたことがバレてしまうかもしれない。
うーん・・・。まぁ言わなくてもいいか、そのうちクリーピーが自分で喋ってくれるだろうし。どうやって喋らせるかは知らないけど、やっぱり中世式の拷問みたいなことをやるんだろうか。
いやー想像したくねえわ・・・。
「それから・・・やはりエル姫の身体のことですな・・・。」
「そうだな、エル・・・説明できるだろうか? なぜそんな体に? それからそのスライムはなんだ?」
俺はいつものようにエルの頭の上に鎮座しているためエルの顔をうかがい知ることはできない。
(どうします? 正直に話しますか?)
念話でエルが俺に話しかけてきた。
(正直にって言われてもなぁ、俺もなんでエルが急にスライム化したのかわからんし)
(実はそれに関しては心当たりがあるんです。)
異世界の人たちはスライムな俺の体液が大好物なようです。 甲虫 @iwaimachi
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