第44話 深追いはしない
スライムになっちゃった? 誰が? エルが?
「いやいや、違うじゃん、どう見てもスライムの体じゃないじゃ・・・。あれ!?」
肌色だったエルの体が青く、そして半透明に変質してい。まるで、うん、そう、スライムみたいに・・・。
「い、一体なんでそんな・・・。」
「ぐあっ!」
声がした方を見ると、マドカが吹っ飛び広場にあった屋台に突っ込んでいく所だった。
「クハッ! オモシロイ! 儂とサシでここまで渡り合うものがイルトハ!」
「お前こそなんなんだ! いくらなんでも頑丈すぎるぞ!」
ガレキをかき分けながらマドカが立ち上がってきた。しかし、セリフとは裏腹に足取りが悪い、傷だらけで今にも倒れそうだ。
悪魔の方は無傷のようだが、肩で息をしている。
未だ混乱する状況だが、兎に角まずはこの状況を打破してからだ。
「芳雄様! この剣どうやら”誰かが持っている”みたいです!」
つまりこの剣は浮遊しているんじゃなく、なにか透明なモノが持っているということか。
「な、なるほど、了解!」
エルの言葉を聞き意味を理解した俺は、剣の柄の部分から5cm程離れた空間にスライム弾を放った。
「ギャアアアア!!」
すると何もなかったはずの空間から叫び声が聞こえ、剣の柄の部分から鮮血が飛び散り太った男がそこに現れた。
ん? あれ? こいつ見たことあるぞ! そうだ、確か奴隷販売所にいたクリーピーとかいうやつだ、なんでこんなところに。
クリーピーは俺が放ったスライム弾によって右腕を圧縮され行き場を失った血液が皮膚をパンクさせそこらじゅうに血をまき散らしている。
相当な激痛なんだろう、変な声をだし、口から泡を吹きながらうずくまってしまった。暫くして声が聞こえなくなった所を見ると激痛に耐え切れず気絶してしまったようだ。
「なんでまたこいつがこんなところに!?」
「芳雄様はこの人の事知ってるんですか?」
「まぁちょっと色々あってね。でも、今は全部置いておこう、あの悪魔たちの対処が先だ。」
正直一旦整理したい、あの悪魔族がなぜここにあらわれたかも、茂が無傷だったのも、クリーピーがここにいるのも、エルが半透明になったのも一つ一つ理由を知りたいが、今は後回しだ。
「マドカ! バトンタッチだ!」
「ナニ! これからがいいところナノニ! 邪魔するナ! グフッ。」
いやいや、どう見ても満身創痍だろ、血がだらだら出てるし。
「ルリ!」
「はい。」
ルリがスパイダーマンよろしく、糸を飛ばしマドカを引き寄せ蓑虫にする。同時に俺が悪魔の前に飛びだし鋭い爪をスライム体で受け止める、と言うか体の中にうずもれさせる。
「ぬぁあ! 儂はまだ戦エル!」
「マドカは確保したわ!」
「よし!」
無事マドカを保護したことを確認し、改めて目の前の相手に相対する。
改めてみると獣の顔に巻角に蝙蝠の羽までついてこれぞ悪魔って感じの風貌をしている。
「ふぅ、今度はスライムが相手か、俺も舐められたもんだ。」
「舐めてるかどうか、これでも食らってから言え!」
叫ぶと同時に消化液を出し、爪を溶解させ・・・られない!?
「無駄だ、酸は俺にはきかねえよ。てかさっさと離せ!」
「つまりもっと力を籠めろってこと?」
と言うことで圧力を加えてみる、すると爪が力に耐え切れずバキッと折れた。
「はぁ!?」
「消化液は効かなくても圧力には耐え切れないみたいだな。」
この程度の力で折れるなら身体の方にもダメージは通るはずだ。
しかし今の攻撃で警戒したのか空に飛んでしまって距離をとられてしまった。それならスライム弾を撃ち込むまでだ。
「うお!?」
こいつ思った以上にすばしっこいな、初撃を外してしまった、悪魔の背後にあった街灯の鉄棒に当たり、鉄棒がひしゃげる。
悪魔はそれを仰天の目で見つめているようだ。
「クリーピーの不意打ちは防がれるし、お前みたいな化け物は出てくるし、なんなんだよお前らこんなの聞いてないぞ!」
「それが俺もわけがわからないんだわ。」
いくつものスライム弾を撃ち込んでいく、しかし中々当たらない・・・あ、かすった。
「ぐあああ!」
足先にかすっただけだが、周りの筋繊維が破裂し、鮮血が噴出している。いかほどのダメージかはわからないが、とりあえず相当痛そうだ。
「くそ! アネモーラ! ここは一旦引くぞ。」
「え! 冗談でしょ!? どんだけ待ったと思ってるのよ!」
「馬鹿! 俺たちの目的を忘れるな! まずは引いて体勢を立て直すんだ!」
「ちっ、覚えてなさいよ!」
お決まりのセリフを吐いて悪魔と悪魔族の女が去っていった、言われなくても忘れないわ。うーん・・・、言動からするとやっぱりあの悪魔は男の悪魔族が変身した姿だったのか。
「はぁー・・・。」
やっと一息つけそうだ。
「芳雄!」
ルリが俺に声をかけてきた、どうやら彼女は広場で倒れていた人たちを一か所に集めて回っていた用だ。
「お前の液体を彼らに与えてやってくれ。」
どうやらもう一仕事ありそうだ。
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