第43話 すらいむか
芳雄視点
「茂! 大丈夫か!?」
「まずいにゃ! さっきの威力だと今の勇者のレベルじゃ死んでしまったかもしれないにゃ!」
不吉な事を言う白猫といっしょに傍らに駆け寄っていく。
しかし、まだ大丈夫なはずだ、さっき少しだけ身じろぎしたのが見えた。即死じゃなければ俺の体液で治療できるかもしれない。
横たわった茂は目をつむりピクリとも動かない、間に合わなかったのか。
「茂! おい! 嘘だろ!」
まさかの事態に気が動転してしまう、かるく顔をはたいてみるが目を開く事は無い。
「くそっ。」
無理やり俺の触手を口の中に入れようと試みる。
「何をするにゃ!」
「俺の体液には回復効果があるんだ、黙ってみてろ。」
どうか生きていてくれ!
祈りながら口の中に突っ込んでいく。
「モガッ!?」
こいつ、まだ生きてる! 良かった、じゃあこのまま液体を・・・
「ブッ、ゴホッちょっやめ!」
「は?」
うん、生きてる、生きてるけど・・・。思った以上に元気なようだ、うっすらと目を開けて俺の方をうかがっているようだ。
「・・・もしかして、死んだふりしてたのか?」
「・・・・・・。」
「こら! 目を閉じるんじゃない!」
「その・・・すまん。このままじっとしてれば襲われないかなと思って。」
なんて奴だ、こいつは本当に”勇者”なのか?
「怪我ないかにゃ?」
「え?」
「あれだけの攻撃を受けたにゃ、相当なダメージが入っているはずにゃ。」
「いや、実はけっこうピンピンしてるんだ、ほら、ステータスのダメージバーもほとんど減ってないだろう?」
そう言うと茂は横たわりながら緑の半透明な板のようなものを出現させた。
「うお!?」
そこには茂のレベルやらステータスやらの情報がこと細かく書かれているようだ。なんだかこいつだけバーチャルリアリティのゲームをやっているようだな、ダメージと書かれている箇所には赤く塗られたバーがあり、確かにほとんど減っていない。
「本当にゃ、おかしいにゃあれだけの攻撃を受けてほとんど無傷だにゃんて。」
「へへ、当たり所がよかったんだよきっと。」
「ヘヘじゃねえよ、びっくりさせやがって。」
しかし確かに無傷ってのは不思議だな。
実はかすっただけだったとか? でも思い切り吹っ飛んだように見えたし・・・。
まぁ、無事だったら良いか。
エルたちに加勢しようかと振り返るとマドカが悪魔の姿をした化け物と闘っているのが見えた、さっきまであんな奴いなかったのに、あいつらが召喚でもしたのか?
それからエルはレナード王の方を凝視している・・・。つられて俺もそっちを見るがレナード王もマドカたちの闘いが気になっているのが見受けられるだけで特におかしな様子は見られない。
しかし、突如レナード王の後ろにあった剣が振り上げらたのが見えた。
「レナード王!」
俺の声に気付いたレナード王が振り返る、凶刃はもうすでに王の目に前に迫っている。このままでは王の命が危ない!
その時だった。
「お父様! 危ない!」
エルがレナード王の前に、飛び出してきた。剣が袈裟掛けにエルの体を切断するのがはっきりと
見えてしまった。
「「エルゥゥゥゥウウウウ!!」」
俺とレナード王の声がかぶさり悲痛な叫びとなって天にこだまする。
ルリと秘書も事態に気付いたようでこちらに目を向けた。
「エル!?」
「エル様!」
しかし、凶刃は悲しむ暇さえ与えてくれないようだ。
再び、レナード王に向かって剣が振り上げられる。
「レ、レナード王、危ない!」
注意を促すが、彼はエルの死に動転してしまい、全く反応していないようだ。
もうだめだと思った直後。
エルの腕が動き、振り上げられた剣を掴んだ。
「何処の誰かは知りませんが・・・。お父様はやらせません!!」
なんと! エルは生きていたようだ、そのことにほっと胸をなでおろす俺たち。
そうだ早く止血しないと、あんなにも大きく斬りつけられたんだ、運よく致命傷ではなくても失血死してしまうかも・・・あれ?
「エル・・・どうしたのだ・・・その体は・・・血が・・・。」
血が・・・、全く出ていない? それどころか服が破られただけで傷がついている様子はすらない。
「お父様・・・芳雄様・・・今まで黙っていてすいません、実は私・・・。」
その言葉を聞いた俺はこの日一番の驚きに襲われた。
「スライムになっちゃったみたいなんです。」
「は?」
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