第42話 VS悪魔族

エル視点


 勇者様は大丈夫でしょうか・・・。

 あの悪魔族の魔法が当たって少し身じろぎした後、全く動かなくなったのが気がかりです。

 早く勇者様の所に行って回復魔法をかけてあげたいですが、悪魔たちはすぐにもまた攻撃を仕掛けてきそうなので、迂闊には動けません。


「エル! あの魔法をマンティコアの時みたいに無効化することはできるか?」

「いや、無理だ・・・、あのクラスの魔法はとてもエルの魔法じゃ・・・。」

 どうしようかと迷っていると芳雄様が声をかけてきました。私の代わりにお父様が答えてしまいましたが。

 私のアンチマジックの魔法はある程度の魔力を使った魔法なら打ち消せる技です、その効果は私の魔力量に起因するため、芳雄様からいただいている液体のおかげで魔力を大量にいただいている私は、かなりの力を持つアンチマジックの魔法を使えることができます。


「あの悪魔族の放った魔法はかなり強力なものですが、今の私なら無効化できると思います。」

「よし、じゃあ俺は茂・・・ああ、勇者の方を助けに行く、エルはみんなと連携してあの敵を押えていてくれ。勇者を助け次第加勢する。」

「わかりました!」


 そう言うと芳雄様は勇者様のところへ駆けていきました、ポヨンポヨンと跳ねる後姿がかわいいですが私は私で悪魔族の魔法に対処しないといけません。


「聞き捨てならないわねー、あんたみたいなおこちゃまが私の魔法を無効化するですって?」 

「・・・・・・。」

「無視? 本当にムカツクわねあなた。いいわ、あんたから消してあげる!」


 悪魔族の掌に再び黒い渦が作られ始めます。


「おい! やめろ! アンチマジック!」

「ふふふ、無駄よ、いかにかの有名なレナード王の魔法でも私の魔法は止められないわ!」


 私のお父様は一国の王であるとともにゼルディアス家の始祖である強力な魔法使いの血を色濃く継いでいる方でもあり、その力は宮廷魔術師に並ぶとも言われています。そんなお父様の魔法でも彼女たちの魔法を打ち消すには至らないようです。やはり私がやるしかありません。


「食らいなさい! ダークネスカノン!」


 先ほどの3倍ほどの大きさの黒い光の玉が私に向かって放たれます。


「アンチマジック!」


 私の声が響くと同時に黒い光は急速に収束していき、私に届く前に消滅しました。やはり今の私の魔力量はお父様をもしのいでいるみたいです。

 悪魔族は信じられないと言った顔をし、お父様は目を丸くしています。

 ゼルディアス王国では王家のくせに魔力量が少ない落ちこぼれと言われていた私が夢見たいです。これも芳雄様が私を救ってくれたおかげだと思うと自然と笑みが浮かんできます。


「エル・・・、一体どうしたのだ・・・その魔力量は・・・。」

「詳しくは後で話します。今はあの悪魔族の対処が先です。」


 悪魔族はさっきの魔法が防がれたことに相当なショックを受けているようです。しかしすぐに表情を変え、私を睨み付け始めました。


「まさかエルフの姫様にここまで魔法の才能があったとはねぇ・・・、あの諜報局の奴らはなにをやっていたのかしら・・・。こうなったら今度はもっと大きな魔法で・・・!」

「おい落ち着けアネモーラ! こんなところで無駄に魔力を消耗するな!」

「ぐっ。」


 またアネモーラと呼ばれた悪魔族の掌に黒い光が集まってきていたのですが、男の悪魔族に制されました、正直言って私ももう一度防げるかは微妙なところだったのでほっとしたのですが顔には出さないよう努めます。

 このまま去ってくれればいいのですが・・・。 


「魔法が効かないなら今度は俺の番だ。」


 やっぱり簡単には去ってくれないみたいです。男の悪魔族の身体が巨大化していき、巨大な角と翼が生え身体は異形のものに変わっていきました。


「ふぅぅぅうう・・・。さぁいくぞ。」


 完全に人の姿から悪魔そのものの姿に変わった彼が私の方に向かって突っ込んできます。きっと私を先に殺せばあの女の方の悪魔族の魔法も使えるようになると踏んだんでしょう。

 私はそのあまりの速度に反応できません。


 ガキィィン


「させるカ!」

「おお、そういえばお前がいたなオーガ族の姫様。」


 マドカ姫が私の前に飛びだし、大剣で悪魔の爪を防いでくれました。そこから悪魔とのつばぜり合いが続いていきます。


「ぬう! やるナ! 貴様! 儂の全力と張り合うトハ。」

「姫様こそ、この形態の俺と渡り合えるのは俺の仲間でもそう何人もいないんだぞ、それをオーガ種が抑えるなんて。お前の父親にしてもそうだがお前らの血族はどうなってんだ。」


 接近戦では私に出番はありません、マドカを支援したいところですがあの女の悪魔族の魔法のために私の魔力はとっておきたいところです。

 周囲に目をやるとルリが腰を抜かしている秘書のフェスタさんを庇っていました。彼女は糸を包帯代わりにすることができるのできっと怪我をしたフェスタさんを治療しているのでしょう。

 それからお父様の方に目をやります。すると、お父様の背後に奇妙なものが見えました。


 最初は見間違いかと思いました、だってそうでしょう? 


 独りでに剣が動くなんて。


 しかし気付いた時には既に剣は音もたてずお父様のすぐ背後に忍び寄ってきていました。

 そしてその剣が振り上げられた瞬間。


「お父様! 危ない!」

「え。」


 私はお父様の背後に飛び出し、その剣を受けました。


 肩口から腰まで袈裟掛けに硬いものが通った感触がしました。

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