第41話 悪魔たちの襲撃

 デザートの街の奥の貴族区にあると言う屋敷まで、建物のそばに停めてあった馬車に6本の足を付けたような謎の乗り物に乗って向かう。エンジンもハンドルもあるように見えず、どうやったら動くのかと思っていたら、乗り物の運転席らしきところで俺たちが建物の中にいる間待機していたらしい運転手が円状の模様に手を当てると、その模様がにわかに輝きだし、がしょんがしょんと動き始めた。

 先ほどまで泣いていた茂がスゲースゲーと興奮しながら乗り物に備えられた窓の外を見ている。

 キャラはどうした、と、突っ込みたいところだが正直俺もこれには感動する。元の世界ではありえないテクノロジーでがしょんがしょん動く乗り物に心が動かないわけないだろう?


「勇者様はランドウォーカーは初めてなのですかな?」


 領主が笑顔を浮かべながら勇者に話しかけてきた。

 はっ、と全員から生暖かい目で見られていたことに気付いた茂がごまかすように、こほんと一つ咳をした。


「え、ええ。わが故郷では普通人を運ぶとき自動車を使うのですが、このような足で動く乗り物は無いもので年甲斐もなく興奮してしまいました。」

「自動車? 初めて聞く物ですが、自動車とはなんなのですかな?」

「こっちの世界には無い物なのですか? 箱に車輪が付いているような外見で人を乗せて運ぶ物なのですが。」

「車輪ですか? こっちの世界とはどういう・・・?」

「領主よ、勇者殿は我々の住んでいるこの世界ではなく、別の世界から天使殿が連れてきた者なのだ。自動車と言うのもその世界独自の乗り物なのだろう。」


 王様が話に割り込んできた、王様は勇者が異世界から来たことを知っているのか。

 しかし領主は難しい顔を浮かべている、急に異世界などと言われても理解できないのだろう。


「異世界ですか・・・。ふーむ、にわかには信じられかねますが・・・。」

「領主は余を疑うか。」



 その言葉と同時に秘書が鋭い目線を領主の男に向ける。男は震えあがり、ちぎれんばかりの勢いで首を横に振った。


「いいいい、いえいえいえいえいえいえ! そんなめぇっそうもございますぬ!」

「領主、そう恐れるな、ここはわが領地ではなく、其方の領地なのだ。もう少し堂々としておってもよいのだぞ。」


 むしろこの人の領地だから緊張してるんじゃないですかねぇ・・・。

 他国の王様が自分の領地で怪我でもしたら国際問題にもなりかねないでしょうよ・・・。


「デ、領主殿、屋敷に飯はあるのカ?」


 空気を変えるためか、マドカが領主に聞いてきた。あ、いや、これは普通に腹減ってるだけだな。


「え、は、はい! 勿論ですマドカ姫! 少々お待ちいただくとは思いますが、我が家の料理人に腕によりをかけてさせてもてなしていただきます。」

「オオ! それは楽しみだ! 期待しておるゾ!」

「ははは・・・。」


 領主が顔を引きつらせながら笑顔をなんとか見せていたその時。


 ドォォォォオオオオオオン!!


 急にランドウォーカーの外から轟音がとどろき、地震のような振動が車内に伝わってきた。


「な、なんだ!?」

「王様! お気をつけて!」

「曲者カ!」

「運転手! 何があった!」


 みなが口々に混乱した言葉を吐く中、ルリが外の様子を伺おうと運転手に確認をとってくれた。


「わ、わかりません、急に轟音と共に我々のいる広場の真ん中から煙が上がりまして・・・なにがなんだか・・・。」


 運転手も相当混乱しているようだ。声が震えている。


「と、兎に角、王様、エル姫様、マドカ姫様。今は安全なところへ、一度引き返しましょう。」

「そ、そうだな、運転手!」


 王様が運転手に引き返すよう声をかけようとする。しかしどうも運転手の様子がおかしい・・・。


「ちょ、ちょっと待ってください・・・一体何だあれは・・・・・・!!!!! みなさん! 早くこのランドウォーカーから降りてください! 今すぐに!!」


 急に運転手が大声を上げて俺たちに乗り物から降りるよう促してきた。いち早く危機を察知したマドカとルリが、それぞれ王様と秘書と領主、俺とエルと勇者を引っ張りながら進行方向の右についている一つのドアから外へ転がりでていく。


「うお!?」

「きゃあ!」

「ぐえっ!」


「ぬお!?」

「きゃ!」

「ひえ!?」


ドゴォォォオオオン!


 飛び出した瞬間、ランドウォーカーが爆発したように粉々に砕け散った。

 その様子に無言になり、しばし砕け散ったランドウォーカーを凝視する俺たち。


 一呼吸おいて周りを見渡すとそこは円形の広場のようだったが、それはそれは凄惨な光景が広がっていた。いくつかの建物は何か大きなものが当たったように一部が崩れ火の手が上がっている。人々は悲鳴を上げ逃げまどい、ぐったりとして動かない人たちも何人か見受けられた。


ドォォォオオン

「ぐふぅ!?」


 上から何かが落ちてきたと思った次の瞬間、起き上がろうと膝に手をかけていた茂が吹き飛んでいった。


「クリフォード!」

「勇者殿!!」

「茂!」


 身じろぎしている様子を見ると死んではいないようだが、このままだとまずいかもしれない、後頭部に悪寒が走る。


「あれ? おっかしいな~、即死だと思ったんだけど。」

「下手くそね~、こうやるのよ。」


 上空から声が聞こえてきた、目をやる一組の男女がいたが、一目で人間とは違うと感じる外見を持った者たちだった。男の肌は赤く、女の肌は緑に色づき、両者とも瞳は黄色く、本来白目の部分は黒くなっていて、頭にはまるでゲームに出てくる悪魔のように2本の凶悪さを感じる巻角が生えている。そして背中には蝙蝠のような翼が備わっていた。


 女の方が俺たちの方に腕をかざす、掌がマドカの方に向けられ、黒い球体がうなりを上げながら作られ始めた。

 やばい。


「マドカ避けろ!」

「はっ。」


 マドカが間一髪その球を躱す、球は石畳に当たり、そこが半球状にくぼんでしまった。マドカは牙を剥き上空をにらむ。


「何者ダ!」

「あら? そこにいるのはオーガ族のお姫様じゃない? それによく見るとエルフの王様と天使の野郎もいるわね、それに最初にやったのは勇者じゃない!?」

「勇者ってマジかよ俺たち運良すぎじゃね!」

「あいつのテキトーな報告のおかげで思わぬ収穫ってやつね!」


 マドカの問いかけに答えもせず、自分たちの会話を始めてしまった。その様子にイラついたマドカが再度問いかけ直す。


「何者だと聞いてイル!」

「始めまして俺は偉大なる至高の魔王様の幹部、悪魔族のアルローダ!」

「そしてわたしがアネモーラよ、よろしくね~エルフの王さまと姫さま、オーガ族の姫さまそれから勇者さま・・・は、もう死んじゃったかしら? ま、他のみんなもすぐさよならしちゃうから覚えなくてもいいわよ。」


 そう言い切ると再び悪魔の掌がこちらに向けられ、球体が形を作っていった・・・。。

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