レイ・ブラッドベリを知らないとしても

最近の若い人に、果たしてシュールなキレ味のことをレイ・ブラッドベリと表現して伝わるのだろうか。かくいう私も映像関係でしかその名前を意識したことはないのだけれど……。

近況ノートの着眼点を読むまでもなく、『限界世界』で想起されるのは巷をにぎわせるあの人間味溢れるチャーミングな男性です。
ゆえに、読む人が読めば怒りだすような論旨や設定が展開されていくのですが、その怒りすら踏み台にして「そんな程度のこと」と切り捨て、さらに人間社会の深いところまでぶっこんで行く様はシュールで穿った視点の賜物です。
……まあ、設定自体はなんというか、オープニングシーンからセックスするようなエロ漫画やエロゲーで良く見られるものなんですが。
ただ個人的に、暗さを照らし出した上で糾弾するに留まるよりは、その理屈の上でなんらかのアクション・リアクションが欲しいかなとは思いました。短編(ショートショート?)で収まりきらない可能性はありますが、もう少しアクションで表現してくれるとのめり込めるような気がします。ニヒルな視点で見つめるだけでは、やはり物語にはなりえないのではないか。見つめるだけ、毒を吐くだけの人間は、物語を見るまでもなく実社会にいくらでもいてしまいますから。
否定的な言葉を並べてしまいましたが私はこういうのが好きです。濁らない瞳で描かれる黒い部分は貴重な才能ですので、是非ご一読をとお勧めの一品です。

4/12 追記
やらかしてきたなぁ……(誉め言葉)。
引き出しの多い作者でしょう。ゆえにジャンル分け不能。呆れかえるようなネタすらきっちりとした物語にして笑いに向けられる、次何出てくるかまったく判らない一際異彩を放つタイプです。フォローして追いかける価値あり。

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