きっと二度読む

やあなんともまあこれは面倒なSF。同時に、強烈な個性とおそらくは葛藤を持つ作品の登場を喜ばずにはいられない。
終わりまで持ち込み、思惑を表現しきった作者の手腕に、まずは☆3に留まらない賞賛を送らざるを得ない。しかしこれレビューはしにくいなぁ……と困ることしきり。

誠実な文体、展開、キャラクター像、そして(多分)端々に仄見えるSF作家らしい他作品の引用などには非の打ち所が無い。
分けても秀逸なのは、SFの外堀を埋めていくただひたすらな事実の羅列。重要視される世界観設計を、物語の始まりである発想一つで読者に押しつけ、あるべきものをあるべきものとして描写していくさまは、取っ付きづらい反面慣れると思惑が見て取れて、むしろ雰囲気に一本筋が通っていく。
終わりまでたどり着けば、僅かに揺れ動く文体や行動、最後のエピソードなどがいやおう無く二度見へと誘うだろう。読み返して突きたくなる、なるほど確かにSFだ。

流石にレビューらしい体裁をとらなければいけないから、簡単なガイドラインも書いたほうが親切だろうかと以下に付記しておく。
作品の発想は人の価値に纏わる思考実験である。平均値を取りえない個体に平均値を押し付けると世界は、個人はどうなるかというお話だ。
そしてこの話では、もっぱら平均値にいたるために、自身の有能さを失うことになった主人公の過程が描写されていく。主人公の思想や分析を通して、平均値になることで何を失い、そして何を手に入れたのか、最終的に読者に問いかけようとしてくる。おそらくは失うもののほうが多かったのではないかと、意見は分かれるだろうが、私などは思う。
アルジャーノンの下地を踏襲してか、やがて文体にも手が入る。そうした気配りや土台がしっかりしているおかげで、後半のスピード感は抜群だ。

まずは是非読まれたし。甘いが強い酒を飲んだかのような苦味を、読後感に約束できる。