気付けば夢中になって読みきっていました。
キャラの個性を際立たせる、リアリティ溢れる文章力。
ミステリーの骨子を守りつつ、徐々に輪郭を露にしていく緊迫感溢れるストーリーテリング。
スバ抜けた完成度でした。特に主人公を表現する一人称の言葉遣いと、終盤にかけてじわりじわりと読者を追い詰めていく構成力は尋常ならざる迫力とセンスでした。
私にとって現在、間違いなくカクヨムの中でぶっちぎり、一番の面白さです。これがこの評価に留まっていることこそ、カクヨムがイマイチな投稿サイトに留まる端的な例じゃないかとすら思います。
最大級の賛辞を作品と作者様に送った上で、私が読んだ上で、勿体無いと思った点を書き記しておきます。
一気に読みきったと書きましたが、決して、一瞬たりともブラウザバックに手が伸びなかったかというとそうではありません。
やはり一話が長い。脳が疲れてきます。とりわけ一話二話の序盤は、「この下りにそこまで字数を割くべきか?」と疑問になる長さでした。無理に分割する必要はなく、ちゃんと話を切れるタイミングがあるだけに、勿体無いと思わざるを得ません。
それらを助長するのが序盤のたるみの部分です。そこまで細かく描写する必要があったのか、構成としても疑問です。刈り込むことは出来たのではないかと思うのです。
はっきり言って「ミステリーというジャンルでなければ読み進められなかった」というホンネはあります。何が仕掛けられているのかと、ややマナーの悪い読者の心境で挑んでいなければ、突破できなかったでしょう。
幾つかのライトノベル要素にも、疑義は残ります。シリーズ化をもくろむのであればここらへんが軸なのでしょうが、この作品一本で完結させる限りにおいて、取り立てて重要ではない要素がしゃしゃり出てくる部分ですので、むしろ収まりの悪さが残ります。
また、推敲に関しては私はあまり気にしませんが、他の方のご指摘もあるようにカクヨム記法のミスだけは、作者様も強調したい重要な部分なだけにちょちょっと直すべきかと思います。
というか、これ、作者様もうこのサイトに来てすらいませんよね。
それが最大の落胆です。シリーズ化をもくろむ設計が成されているだけに、期待が高まるのですが……。
凄まじい。たくさんたくさん、粗い部分はあったりするのだけど、それでもやはりこの作品は凄まじい。
ザッピングのようにコロコロと切り替わる視点は、人を選ぶかもしれない。しかし、気付けば遠いところから始まったはずの物語が少しずつリンクしていく構成の妙が素晴らしく、読み進めていくうちに言い知れぬ快感を覚える。
キャラクター設定もお見事。ホームズとワトソンのように、名探偵には相棒が必要不可欠なわけだが、本作では相棒というよりも協力者ーー援助交際を行う少女とその“客”として描かれる。見方を変えると力関係が180度変わってしまう、歪な関係。その設定が私には十分奇抜に思えたし、新鮮だった。
また、その設定を活かした物語の展開もグッド。
ミステリーの肝は、そうしたプロットやトリックにある。
しかし、それはあくまでミステリーの一面でしかない。
本当に解かれるべき謎は、いつだってホワイダニットなのだ。
いつ、どこで、だれが、どのように。それらの謎も、もちろん気になる。犯人は誰だ。あぁ、気になるさ。
しかし、もしも身近な人が命を奪われたとき、真っ先に“どうして”という思いが先行するのではないか。
だからこそ、そういった動機の部分を濃密に描いたこの物語は凄まじいのだ。
この作品には大きく分けて二つのドラマがある。
一つは、そんなホワイダニットの真実をもがきながら模索する等身大の物語(ミステリー)。
そしてもう一つは、上記の物語の解答編に至るヒントでありながら、読者に対して、人が人を殺す心理について問いかけてくるもう一つのホワイダニット。
テーマ、ラストとあわせて、問題作であることは間違いない。
※一つだけ、作者様にお伝えしたいのですが、カクヨム記法を一部誤って認識されているかと。強調の点の入れ方、改めてご確認くださいませ。