どこか優しいミステリイ

ミステリイとはこういうものかと教えてくれる良作です。
シンプルな犯人探しの筋書きは安定感があり、謎を牽引する糸も個性的で楽しめます。
中でも特筆すべきは丁寧に作り込まれた、キャラクター造形のお手本のような躍動感です。ブラコンを拗らせた主人公たる妹に目が行きがちですが、特徴的な口癖を持つ探偵役の兄や、シリーズ化にも耐えられるんじゃないかというほどきちんと主張する脇役達が、騒がしくない程度のバランスで配置されています。作者様に確かな手腕がなければ出来ないことでしょう。
このバランス感覚こそが最大の持ち味でしょうか。ユング等ややもすればどこまでも難解に出来るネタですが、分かりやすく噛み砕き、必要な情報を適宜開示し読者に寄り添って進むテンポは読む上でどこか優しさすら感じます。

無論、ただの個人的嗜好として、もっと情報を乱雑で難解にし、読者の思考を迷宮に叩きこむ手法もとれたでしょう。実際、現在人気を博す一般文芸顔をしたマニアックなミステリイは多くがこれです。
そうしなくても面白く出来ると、この小説は教えてくれているかのようでした。
シリーズ化の構想があるそうなので、今後も目が離せません。

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