あなざ~・えんでぃんぐ・すと~り~

 ――を、読む前に。


『超すいりくらぶの日常は今日も平常運転。』の物語は最終話で終わっています。つまりこの話は読まなくても問題はありません。いや、読まないほうがいいかもしれません。ただでさえくだらない小説だったのに、更にバージョンアップしてますので(^-^;


 え? そんなことを書いて、実は読ませようと煽っているんじゃないかって? ……そうかもしれません。せっかく書いたので読んでほしいですからね。なので読んで下さい。


 アナザー・エンディング・ストーリー……もう一つの最後のお話を――。







「――うーん、こんなもんでいいかな」


 俺はPCモニターに映る自信作、『超すいりくらぶの日常は今日も平常運転。』を前にして一人呟く。

 

「正直『カクヨム』では不遇のジャンルであるミステリーだけど、俺のは新しい切り口だからそれなりに評価されるかもしれないな。……いや、そもそもこれって『ミステリー』なのか? なんとなく『現代ドラマ』のほうがよさそうな気が――」


 そこで考えるのは止めた。

 ドラマ制作を舞台としたお仕事小説が、第一回カクヨムWeb小説で大賞を取っている以上、俺のとことんふざけたミステリーもどきが『現代ドラマ』にいてはいけないのだ。


 いやそれを言ったら『ミステリー』だって一緒か。

 大賞取ったあれ、凄かったよなぁ。これぞミステリーって感じでさ。なんであんなのが書けるんだよ。やはり生まれ持った知性の次元が違うのかね。

 

 は~あ。


 俺は大きくため息を吐く。


 でもいいさ。おかげでフルスロットルでバカに振り切れたからな。もしかしたらそれが評価されて、『漫画原作小説コンテスト』で大賞取っちゃったりしてな。ドュヘヘ」


 漫画で躍動するキャラクター達を想像して、俺は顔を緩める。

 しかし、そのキャラクター達を押しのけるのように、奴らが土足で俺の脳内にのさばってきた。

 

 くそ、また明日あいつらと部活で会うのかよ。いくら小説を書くきっかけを与えてくれたとはいえ、なんつーか苦痛だわ。

 

 その苦痛は現実と小説とのギャップから生まれるもの。

 比べれば比べるほどその苦痛は肥大化していき、ついには俺はこう決意したのだった。


「辞めちまうか、あんな部活」



 ◆



 翌日――。

 特に形容することのない退屈な授業が終わり、俺は部室へと向かう。

 部室の場所はA棟二階の一番端。

 教室からそこまでの移動がけっこう億劫で、何度そのままばっくれようとしたことか。なのに実際に行動に移さなかったのは、“ミステリーに関連する部活”だったからだ。


 しかしもう迷わない。

 俺は辞める。辞めるったら辞める。



「チャッピーではないか」



「のほぉっ!?」


 いきなり死角から声を掛けられて、俺は奇声を上げる。

 そいつは部長の麻耶だった。


「何、ぼうっと突っ立っている? 早く部室に行くぞ」


 いいところに現れたな。これで部室まで行く必要がなくなったぞ。


「丁度よかった。お前に言うことがある」


「む? 何をだ?」


「今日限りで部活を辞めさてもらう。詳細は聞くな。いいよな?」


 刹那、時が止まったかのような静寂。

 居た堪れなくなった俺は麻耶の顔を直視できなくなり、視線を逸らす。

 麻耶のその小さな口から発せられる言葉は、果たして――。


「早く部室に行こうではないか。いや、地上の楽園シャングリラであるライツヴィルへっ」


 聞かなかったことにしやがったっ!?


 麻耶が意気揚々と部室へと向かう。

 ライツヴィルとは、エラリー・クイーンが生み出した架空の町である。

 エラリー・クイーンが途方もない愛着を示したと言われるライツヴィル。

 そのライツヴィルが、俺達の部室らしい。

 

 んなわけないし、そんなことより――っ。


 俺は背中を見せる麻耶の長い髪を両手で掴むと、そのまま振り回す。


「俺はっ、部活をっ、辞めるってっ、言ったんだよおおおおおおおっ!!」


「のわわわわわわっ!? な、何をするんだ、チャッピーッ!?」


 ジャイアントスイング並みの勢いで回っている麻耶を、俺は躊躇なく放り投げる。

 すると廊下へと落下した麻耶はそのまま転がっていき、向かいの壁に激突すると動きを止めた。


「あー、すっきりした。最後だと思うと、思い切ったことができるもんだ。よし……」


 にやりと口角を上げた俺は、帰るのを辞めて部室へと向かうことにした。



 ◆



 角を曲がり長い直線の廊下へと出ると、丁度トイレから出てくる橘を発見した。


「もうやだなぁ。お通じは学校じゃしたくなかったのにぃ」


 独り言つ橘は、俺の存在に気づかずに部室の方角へと足を向ける。


 前からやってみたかったんだよな――。

 

 俺は生唾を飲込むと、摺り足で後ろからにじり寄る。そして橘の真後ろにたどり着いたそのとき、思いっきり抱きついた。

 いや、正確に言うと


「え? えええっ!? な、何っ? え、チャッピー……君っ!?」


「せいか~い。つーか、柔らけぇ。オラオラオラっ」


 俺は十本の指を巧みに操り、橘の胸を揉みしだく。

 揉む度に指の間からあふれ出そうになる橘の胸は、やはりでかい。でか過ぎる。

 しかもその弾力はマシュマロの比ではなく、弥が上にも俺の精神を甘美な世界へと導くのだった。


「あ、あ、ちょっ、チャッピー、くぅんっ。……ダ、ダメ、ダメだよ、こんなところで、そんなに激しくしちゃ、ああああぁんっ」


「た、橘ぁっ。はぁ、はぁ」


 まんざらでもない橘の喘ぎ声に、俺は鼻息も荒く次の段階に進むことを決意する。

 

 俺は両の人差し指を伸ばす。

 次にその人差し指の腹を、ピンポイントで胸の先端にある突起物、元いへと軽く押し込んだ。最後に3Dスティックのように指を回してコリコリと刺激する。


「はああああああああああん――っ!!」


 絶頂に達したかのような橘の叫び。やがて体を痙攣させると、膝から頽れた。


 ふう……やっちまった。


 終わったあと、自分に対して言いようのない嫌悪、そして罪悪感が湧き上がってくる。

 しかし、俺は頭を振ってそれらを追い出すと、正当化するように声を上げた。


「最後なんだしいいんだっ!」



 ◇



 最後のターゲット――倉持は部室にいた。

 幸いにも俺に背を向けて窓を見ていた。


 これまた最高のシチュエーションじゃないかっ。

 よぉし、あいつは男のくせに男らしさが足りないからな。ちぃとばかし男にしてやるか。


 俺は、こういうときがいつかくるであろうとバッグに入れてあった物を口に咥えると、橘同様に背後から忍び寄る。


 その様は最早、ステルスゲームの主人公だ。

 背後からキル、キルっ、キルッ。


 俺は倉持への行動領域アタックエリアに入ると、素早く腰のベルトのバックルへと手を回す。そして電光石火の速さでベルトを緩めて、


「…………え?」


 倉持の、蚊の鳴くような一驚の反応。まだ何が起きたのか理解していないようだ。

 俺はその隙をつくように、倉持の体をこちらに向ける。

 眼前に露わになる倉持の息子。


 でかっ!


 顔の割にはけっこう大きいそいつに俺は目を丸くする。脳裏に敗北感が過り手が止まりそうになるが、やるべきことはやらなければならない。


「…………え?」


 まだ理解していないような倉持だが、そりゃそうかもしれない。

 いきなりパンツを下ろされたと思ったら、やったのが俺なんだからな。

 

 しかし終わりではない。理解不能な状態はまだ続く。

 俺は口に咥えていたを手に取ると、素早く倉持の腰に巻く。

 その間五秒。最も簡単そうな『黒猫』という締め方をしたがうまくいったようだ。


「…………え?」


 おっと締め付けが甘いか。


「これで完了だっ! 少しは、男らしく、なれっ!!」


「はぅんっ!?」

 

 俺は紐を思いっきり引っ張る。

 もっこりが強調された倉持は、めっちゃすっぱい梅干しを食べたかのような顔をしながら床に倒れ込んだ。


 これにてミッション終了。

 俺はすがすがしい気持ちのままに部室をあとにしようとする。

 ――が、しかし。


「チ、チャッピーッ! 一体何なんだ、私も含めてこいつらへの所業はっ!? ちゃんと説明しないと許さないからなっ」


 部室に、生きていたらしい麻耶が現れた。

 麻耶の隣には橘が立っている。

 その橘は、未だ残る快感の余韻から立っていられないのか、虚ろな目をして黒板に寄りかかっていた。


「説明だと? よーし、そんなに聞きたいなら答えてやる。今日をもって部活を辞める。だから辞める前にやりたいことをした。ただそれだけだっ」


「偉そうに言うことかーっ! ……って、え? 部活を辞める、だと? な、何故だ?」


 今度は現実を受けいれたらしい麻耶の耳。

 俺は一度大きく深呼吸をする。そして辞める理由の全てを吐露した。


 

 ――お前らには黙っていたけどな、俺はずっと小説を書いていたんだよ。タイトルは『超すいりくらぶの日常は今日も平常運転。』っていうミステリーだ。ま、ミステリーって言ってもバカ百パーセントで、お前らに見せられるようなものじゃないけどさ。

 

 けどな、キャラクター達は最高なんだ。書いてるうちに勝手に動き出してくれてさ、こんな奴らとこんな部活でこんなハチャメチャな活動ができたら、どんなに楽しいだろうなぁって何度も思ったものさ。


 ……それからだよ、キャラクター達とお前らとのギャップに悩みだしたのは。だってよっ、俺の小説のキャラクター達は、名前こそお前らのを借りているが可愛い女の子二人に男のが一人だぞ。言ってしまえばハーレムだ、ハハっ。でも現実はどうだ。お前ら全員、! もう嫌なんだよ、こんなクソみたいな部活は――ッ!! 





 麻耶紀夫のりお

『ミステリー研究部』部長。

 チビの出っ歯で、ロン毛を後ろで結んだ似非えせ金田〇少年。


 橘憲助のりすけ

『ミステリー研究部』副部長

 デブの汗っかきで、見た目朝〇竜の超敏感体質。


 倉持日陰ひかげ

『ミステリー研究部』書記

 つるっぱげのニキビ面で、風が吹けば飛んでいきそうなもやしっ子。


 これが俺が所属する、『ミステリー研究部』のクソみたいな連中である――。



「ク、クソみたいな部活とはなんだっ! 好きで入った部活じゃないのかっ? そうだろ、チャッピーッ!」


「もうチャッピーとかゆーな、このクソ出っ歯っ。非日常的文芸部なノリを期待してそう呼べって言ったが、もう終わりなんだよっ。ミステリーは好きだけど、お前らのいる『ミステリー研究部』はクソ。以上っ、じゃっ!」


 俺は、引き留めようとする麻耶を押しのけて廊下に出ようとする。

 そのとき――。



「あの……、ここって『ミステリー研究部』でいいのでしょうか?」


 

 一人の女子が、俺を遮るようにドアの前に立った。

 

 一見して瑕疵かしの見当たらない見目麗しい顔。櫛通りの良さそうな艶やかなロングヘア。透明感のある白い肌。そしてにじみ出る淑やかさ――。


 つまり、その女子はとんでもない美女だった。

  

「そ、そそ、そうだきど、何か用か?」


 俺は緊張から噛む。

 そりゃそうだ。

 世に溢れる穢れとは全く縁のなさそうな、お嬢様然とした女子生徒に話し掛けられたのだから。


「入部……したいんです。『ミステリー研究部』に。ミステリーが大好きなので」


「……」


「……」


「……」


「……?」


「……」


「あの、返事は――」


 俺は踵を返して猛ダッシュする。

 そしてふんどしを握って倉持を、背後から胸を鷲掴みにして橘を、最後に麻耶のロン毛を引っ張って女子生徒の前に集合させると、俺はそこでようやく返事をした。


 「ようこそっ、愉快な『ミステリー研究部』へっ! 共にミステリーについて語り合おうっ!!」


「ふふ、とても楽しそうな部活ですね。勇気を出して声を掛けてよかった。これから宜しくお願いします」

 

 ――現実はいつだって酷だ。夢を抱けば抱くほどに。だけどその現実を地道に生きていればいいことだってあるんだよな。俺にとってのこの素晴らしき現実を、今はとことん噛みしめよう――。


 

ミステリー研究部おれたち』の日常は今始まったばかりだ。




 ――了――

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超すいりくらぶの日常は今日も平常運転。 真賀田デニム @yotuharu

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