本格推理に「幽霊」や「心霊現象」と言ったオカルト要素を盛り込む場合、どう言い繕っても必ず出て来るのが「非現実的で推理しようがない」という、頭の固い老害どもの難癖です。
世の中には超能力で論理的に解決するミステリーはごまんとあるのに、おのれの読書不足を棚に上げて揶揄するわけです。
されど、カクヨムにおいて、それらの『邪道』とされるオカルト要素をミステリーに盛り込んだ書き手たちは数多く、いずれも佳作名作をランクインさせています。
その旗手として、本作もまた名前を連ねるべき傑作です。
幽霊の存在を信じるか否か。
丁寧に、この段階から物語は始まります。
霊にとりつかれた主人公。
さらに、霊を信じない唯物論者のヒロインと、霊体験を実感しているオカルト信者の、ダブルヒロイン体制。
ジュブナイル・ライトノベルを意識した人物配置が、オカルトミステリーを敬遠しがちな人にも間口を広げる役割になっています。
また、主人公自身が人を遠ざける孤高のぼっち気質なのも、余計な人物を登場させず、シンプルな作劇構成に貢献しています。
肝心の物語も、実に巧妙に練られています。
昨年「姉」と慕っていた女子生徒が謎の死を遂げ、その背後には「幻の呪い姫」というオカルトな噂が跋扈していた…その呪い姫が、今度は主人公に憑依してしまったらしい…?
姉の死と呪い姫の因果関係を解き明かすことが至上命題です。
霊を単なるオカルトで済まさず、存在の仕組みから交霊・除霊のメカニズムまで独自設定で構築しており、その枠組みの中で論理的に解決している点が、舌を巻きました。
そう、論理的なんです。
オカルトだから何でもあり、ではないのです。
幸い、謎解き自体は、さほど難しくありません。伏線も布石もきちんとあり、気付く人は早い段階で真相を見抜けるでしょう。
でも、それは決して、あなたの洞察力が優れているからではありません。
作者が懇切丁寧に理論を構築し、不確かな幽霊を一個の存在として確立させた巧緻な下地があるからこそ、導き出せる結論なのです。
読者の理解度を計算に入れ、適切な情報整理による作者の誘導があればこそ。
読み終えたとき、まんまと正解へ歩かされていたことに愕然とするはず。
オカルトなのに、納得できる。腑に落ちる。
ミステリーの新境地です。
交霊、霊媒、エクトプラズム。
この手のネタをうまく扱えるひとは、なかなかいないはずです。
内容自体は流れるように流れ、帰結するべきところに帰結できたところでしょうか。
繊細な描写が光り、ヒロイン同士の確執は途中まで読む人を選ぶところがありますが、
――僕は大好きです(´・ω・`)!
この手の内容を下手に扱うと、抽象性の海に、僕なら沈めてしまいます。
そこをもうね、大胆にわりきって心霊現象描ける著者様の倫理観の持ちようと勇気には、非常に感服しました。
ちなみに僕は第六感の持ち主なので心霊現象は共感できるところが多々ありますですかも……?>
まあ自己喧伝はさておき、文体は本当に丁寧で、登場人物らの内面を決しておろそかにしないで書ききったことは、ほんとうによく頑張ってくださった……、いやもう……、文学としては間違いなく、完成品だと思う――。
本当にいいものを読ませてもらいました、ありがとうございます。
舞台は高校。一年前に従姉を事故で亡くした、やや性格の曲がった嫌われ者の少年が主人公。
そんな彼の前に現れるのが、彼に幽霊が取り憑いていると主張する少女と、かたや幽霊などあるはずがないと主張する少女。
クラスメイトである二人の少女の出会いを切っ掛けに、彼は彼女たちと従姉の死の真相を追うことになる。
一人称で語られる主人公の性格は少し癖があって取っつきにくく、最初は読み手を混乱させるかもしれません。
しかしながら、物語が進み謎が明かされ、彼の心情が解るにつれてそれもなくなっていきました。
不器用ながらも悩み苦しみ、足掻く様は青春そのもの。
真相を知り、自分の中に確固たる真実を築くことで成長する登場人物たちの姿は美しいと思いました。